クリスマス大作戦?(1)
季節は本格的な冬となり、無干渉地帯にも雪が降り積もりだしていた。
当然ドルクジルヴァニアの町並みもその景色を一変させる。
しかし、そんな冬の朝にも関わらず、自分とフミコ、ケティー、リーナ、ココ、リエルは冬の寒さを気にする事なくテーブルについて朝食を摂っていた。
当然だ。何せここは次元の狭間の空間の食堂なのだから。
「マスター、今日も美味しい朝ご飯ありがとうございました」
「そりゃどういたしまして」
「うんしょっと」
リーナは可愛らしくそう言って食器とオボンを流し台へと持って行く。
そして、こんな事をポロっと言いだした。
「でも残念だな、エマにもマスターの作るご飯食べさせてあげたいな」
そう言うリーナの横にケティーとリエルがやってくる。
「まぁエマちゃんは家族と暮らしてるからね。家族団らんで食事ができるならそっちのほうがいいよ」
「せやな。それに次元の狭間の空間にエマちゃんを連れてくるわけにもいかんやろ。あの子はうちらが異世界人って知らんわけやしな」
「でも……だったらギルド本部のほうで一緒に食べることはできると思うんですけど。一様はマスターやお姉ちゃんたちギルド本部で暮らしてる事になってるんだし」
リーナがそう訴えるが、しかしここでなくギルド本部で食事をとっても同じな気がする、
「まぁ、そうしてもいんだろうけど。それ以前にエマちゃん、朝は学校に行ってるんだろ?」
「そうそう、ギルドに来るのも学校終わってからだし、さながら放課後の部活感覚だよね。もしくは学校帰りのバイトかな」
ドルクジルヴァニアには学術ギルド<アカデミー>が経営する学校がいくつかある。
リーナのように教会で育てられた孤児は、それぞれの教会で教育を受けるため学校に行くことはないが、成人の儀が済むまでは基本的にドルクジルヴァニアに住む子供はみな<アカデミー>傘下の学校に通うのだ。
そんなわけで、基本エマは朝は家で食事をとり、昼は学校で食事をとり、学校が終わってからギルドにやってきて、夜ご飯の前に家に帰るため、そもそもエマと一緒に食事をとろうとするならば、定例クエストの時のような遠征でもしない限り無理なのだ。
それも、エマのご家族の許可があってのものだ。
よくよく考えたら、ヴィーゼント・カーニバルもアルバ村もよくOKだしたなって思う。
普通は危険だし、心配で許可しないだだろうに……
そう思っているとリエルがこんな事を言い出した。
「ん?せやったらギルド本部でパーティーとかやったらええんちゃうか?ほら、ドルクジルヴァニアはもう雪積もってるんやし、カイトの世界のお祭りできるんちゃうか?何やっけ?ほら、メッチャ・クルシミマスってやつ」
「メリー・クリスマスな?何だよめっちゃ苦しみますって……そんなイベントお断りだよ」
ため息まじりにそう言うとリエルが「それやそれ!まぁ、別世界のイベントなんていちいち覚えるわけないやん、堪忍な?」と軽い調子で謝ってきた。
まぁ、そりゃ定住してるわけじゃない異世界のお祭りなんて普通覚えないわな。
そう考えているとリーナがかわいらしく首を傾げて聞いてきた。
「あのマスター、なんですか?そのイベントって?」
「ん?あぁ、クリスマスってのはな、俺の世界で年末にあるイベントなんだけど……」
とりあえずクリスマスが何なのか、リーナに簡単に説明してあげた。
するとリーナのみならず、フミコとココも「へぇー」と言った顔で頷いた。
いやフミコさん、あなたは簡易ラーニングやら図書館の書籍で知ってるはずでしょ?
まぁ、興味ないから覚えないか学習してなかっただけかもしれないが……
そんなフミコとココは置いといて、リーナは自分の説明を聞いた後でこんな質問をしてきた。
「なるほど、宗教創設者の誕生日を世界規模で祝う。つまりマスターの世界はその宗教に支配されてるってことなんですか?」
「違うよ?いろんな宗教があるよ?普通に宗教対立とかあるよ?」
「でも、その宗教創設者の誕生日を世界規模で祝うんですよね?」
「その宗教圏の国だけね?その国が多いってだけで、もちろん他宗教の国は祝ってないよ?」
「ふーん、じゃあマスターの国って宗教に熱心な国なんですね」
「違うよ?うちの国は無宗教だよ?」
そう言うとリーナとケティーとフミコに「え?」って顔をされた。
「マスターの国、その宗教を信じてないのに宗教創設者の誕生日を祝うんですか?」
「それなりに信者はいるよ?というかうちの国は他国や他地域や他宗教の文化をなんでも取り入れて自国文化に昇華しちゃう国だからね?」
「そうなんですか」
「そうなんだよ。というか、なんでフミコとケティーは驚いた顔してるの?」
「だってかい君、あたしの鬼道が神道ってのに変化して絶えることなく続いてる、国民みんな神社?ってところに参拝してるって言ってなかった?あれ嘘なの?」
「嘘じゃないよ?うーん、まぁそういう意味では無宗教じゃなくて神道が国教なのか?でも信者ってわけでもないんだよなー。あれ?そういえばお墓はお寺だよな?あれって仏教……ん?」
「いや川畑くん、どう考えても無宗教じゃないでしょ?確かに混ぜこぜだけど、無宗教だったらあんな価値観生まれないよ?」
「あ、そうなの?てかなんで異世界人のケティーが日本をそんなに語れるの?」
「まぁ、それは置いといて……」
そんな話をしているとリーナが。
「マスターの国がどうなのかは、ここで議論しても仕方ないと思いますけど。とにかく、ドルクジルヴァニアでもそのクリスマスってお祭りをやればエマとも楽しく遊べて食事できるって事ですよね!?」
目を輝かせながら言ってきた。
「うん、まぁ、そうなんだが……普通に考えてそれは無理だと思うよ?知りもしない、聞いたこともないお祭りを雪も積もるような真冬に突然やろうなんて……そもそもお祭りなんてずいぶん前から準備してなきゃできないよ?」
なのでそう言い聞かせるが。
「ふっふっふ……それはどうかな?川畑くん」
ケティーが腕を組みながら言ってきた。
なんだか嫌な予感がする。
「おいケティー、まさか」
「私にはムーブデバイスがある!冬が訪れていない異世界に行って物資を集めてくることができる!それだけじゃないよ!トルイヌ商会に頼めば急ピッチで色々準備してくれると思うよ?何せ商人としても冬の間に稼げるイベントが欲しいはずだし」
「……マジで言ってるのか?」
冗談で言ってるのかと思ったがケティーは本気だった。
そしてリーナもテンション高く「手伝います!!」と宣言し、フミコとココも「お祭りの準備なら手伝うよ」と言い出した。
一体この子達どうしたのだろうか?
そう思っているとリエルがニヤニヤしながら。
「これはもうクリスマス大作戦、止まらんのとちゃうか?観念して一緒にやるしかないでカイト」
そう言ってきた。
「誰のせいでこうなったんだよ、まったく」
思わずため息をつくが。
「まぁまぁ、ええやん異世界クリスマス。それにケティーもフミコもココもリーナちゃんもクリスマスが開催出来たら、それにかこつけてカイトとデートできると思ってるんちゃうか?さすがモテモテやでわれらがギルドマスターは」
リエルはそう言って愉快そうに笑う。
なるほど、そういうことか……だからなのか、すでにフミコ、ケティー、ココの間で火花が散っていた。
うん、これは面倒なことになりそうだ……
こうしてクリスマス大作戦がスタートしたのだった。
続くかも?です……