童貞キラー
「はぁー、父さんやミリアになんて説明しよう…」
森からの帰り道、自然とため息がでる。
フェンリルは初めて見る景色に興奮してるようで、「わん、わん、わん」と尻尾を振りながら、オレの周りをトコトコ回る。
うん、多分、こいつ只の犬だよね、うん、そうだ、犬を拾った事にしよう。
東門に到着して、犬を拾ったと説明し、なんとか入場許可をもらう、入場するまで、30分もかかった。
そりゃそうだ、この世界はモンスターが多く、動物が少ない、ほとんどが家畜用で牛、ヤギ、馬、豚、羊、ニワトリ等が少数飼育されており、犬や猫に至っては、王様や、貴族、富豪など一部の物しか飼っていないからだ。
町に入ってからは、周囲からの視線を無視し、冒険者ギルドの父さんの元に向かった。
冒険者ギルドに入ると、受付のレノンさんに挨拶する。
「こんにちは、レノンさん」
「おう、ノア坊、けったいなもん連れてるなー」
「あ、こいつは、森で拾ったんですよ……あの、父さんいます?」
「ああ、モアメットなら解体場にいるぞ、今日は、ゴブリンやオーガーが大量に運ばれてきててな、ゴブリンはともかく、オーガがこの辺りで出るのは、珍しいんだがな… まあ、人間生きてりゃ珍しい事もあるってこった」
「分かりました、ありがとうございます、レノンさん」
オレは、急ぎ解体場に向かった。
「おーい、父さん」
「お、ノア、どうした? 向かえに来てくれたのか? ん、何だその犬? おい、ノア、いくら父さんでも、生きている犬を解体はしたくないぞ、はっははは…」
「もー、ボケないで良いよ、あのさ、聞いてほしい事があるんだけど…」
オレは、今日体験した事を話した、最初は冗談だと思っていた父さんは、顔色がみるみる変わり、最後は小さなフェンリルを見て顔色が真っ青になっていた。
「はぁーお前は、良く生きてたな、運が良いというか、悪いというか…」
父さんがオレの頭を撫でる、くすぐったい。
「ねぇ、父さん、ギルドマスターにこの話しをした方が良いよね?」
「ああ、そうだな、だがあまり他の人には知られたくない、ギルドマスターとレノン先輩に今日、家に来てもらって話をしよう、ノア、先に家に帰っていてくれないか? オレはまだ少し仕事が残ってるから」
「うん、先に帰ってるね、あ、そういえばボーンラビット取ったんだ。父さん、解体しておいて」
「お、ちゃんと血抜き出来てるな、肉は持って帰るとして、皮は売っておくぞ」
「うん、宜しくね」
冒険者ギルドを出て、帰り道を歩き始めるとソフィア姉とバッタリ会った。
「あれ、ノア、今帰り? あれ、その子、ノアの犬?」
「う、うん、たまたま見つけてね…」
「めちゃくちゃ可愛いね、真っ白な毛並みで」
フェンリルが、わしゃわしゃされて、嬉しそうにしている。
「きゃん、きゃん、きゃん」テンションが上がっているようだ。
「あ、そうだ、はい、キアル草」
「きゃー、ありがとう、ノア、本当に嬉しい。」
ソフィア姉は、テンションが上がったのか、オレに抱きついてきて、ほっぺにチューをしてきた。
「な、な、何してるのさ」
オレは心の中で、「惚れてまうやろー」と叫ぶ。
「ん? お礼だよ、お母さんがよくしてくれるんだ」
「い、いや、お礼って、そういうのは家族とか好きな人にするものだよ」
「え? お姉ちゃん、ノアの事、大好きよ」
ソフィア、なんて恐ろしい子、童貞キラーや、オレが前世の記憶がなく、純粋な10歳なら夢で毎日、ソフィア姉、ソフィア姉とムフフな想像をふくらませていただろう。危ない、危ない。とりあえず、最高の返しを考えた。
「べっ、べつに、あんたの事なんて、好きじゃないんだからね、勘違いしないでよね」
完璧に決まった。
こうして、ソフィア姉と話しながら、楽しく帰ったのだった。