役目
「はぁ、はぁ、はぁ、終わったー やっとコオロギを倒した!」
オレは息をきらせながら周りを見渡した、コオロギに洗脳されていた虫達も動きを止めていた。
「ノア、ワン、ワン、ワン」
我に返った虫達との戦いを止め、ウルツがオレの元に駆けてくる。
「ウルツ、やったな、俺達で虫達の反乱を止める事が出来たな!」
「ワオーン、ワオーン、ワオーン」
ウルツと合流した、オレはすぐにルーリエの所に行き、ルーリエの状態を見た、ルーリエは「うーん、ノアー」と寝言を言いながらスヤスヤ眠っていた。
「気持ち良さそうに眠ってるな、ウルツ、ルーリエの側を頼む」
オレはウルツにルーリエの横で待機してもらうと、ブルーキラーモルフォを足止めする為に別行動をとった虫達を探し始める。距離はそこまで離れていないので肉眼で確認できる範囲だが、誰も立ってはいなかった…
「そんな、もしかして、皆……」
オレは戦っていたであろう場所を探して回った、すると別行動した虫達の大量の血とバラバラの死骸が一面に拡散していた、ブルーキラーモルフォとの戦いの壮絶さが垣間見える…
「誰か、誰か? 生き残ってないか? 誰か…」
オレは大声で周囲に叫び続ける……すると、少し先の木の後ろに羽が何枚か千切れて弱っているブルーキラーモルフォを発見する。
「ギギギ、ギギギ、ギギギギギ」
「はぁ、はぁ、痛い、痛いよ…」
「え、喋った? はぁ、はぁ、洗脳が解けてるのか?」
オレは警戒しながら、ブルーキラーモルフォに近付いて行く。
するとガン、キン、バキバキ、ベキ、などの戦闘音が奥から聞こえてきた
音が気になり様子を見に行くと
「ギギ、ギギ、ギギギギギ、ギギチギチ、ギリギリギギギ…」
「はぁ、はぁ、人間の子よ、悪いが手を、貸してくれぬか…」
体のいたる所が傷だらけの弱った黒い鎌のカマキリが、大きな角のカブトムシと戦っていた。
「な、ちょっと、仲間どうしで何やってるんだよ…」
「ギギギ、ギチギ、ギリギリギギギギギギギ、ギギギ…」
「女王を、助ける、為にはこれしかなかった、すまぬ…」
カマキリが弱った口調で返事を返すが、カブトムシは傷だらけだが何も反応も示さずカマキリを攻撃し続ける…
「これって…」
オレは何となく察した…、そうか女王を助ける為にハリガネムシを自分達の体に異動させたのか、だから皆バラバラに散って死んでいたのか…
女王を殺すだけなら数体の犠牲ですんだだろう、しかしハリガネムシに宿主を変えさせるなら、至近距離でブルーキラーモルフォを抑えながら弱らせ続けなくていけない、それがどんなに大変な事かは直に戦ったオレには痛い程分かった…
「こんなのやりきれないよ…」
「ギギギギギギ、ギギギギギギギギ、ギギチギチ、ギチギ」
「嫌な役回りを、すまぬ人間の子よ、だが最後の、頼みだ」
「ギギ、ギチギチ、ギリギリ」
「友を、楽にして、やってくれ」
傷だらけでカマキリが最後の力を使いカブトムシを抑えこむ
しかし、カブトムシの角がカマキリの腹部に刺さり貫通していた…
カブトムシの角からカマキリの血が滴り、まるでカブトムシが泣いてるように見えた。
その光景を見たオレは覚悟を決めた。
これ以上、時間をかけるのは痛みを長引かせるだけだろう…
「ごめんな、せめて苦しまないようにするから……」
オレは、涙が溢れそうになるのを必死に我慢した。
ルーリエやウルツがいなくて良かった、こんな悲しい思いオレだけで十分だ
右手で持った短剣に魔力を込めて全力でカブトムシの頭部を突いた、すると
「ギギ、ギ」
「ありが………」
操られていた筈のカブトムシは、小さく感謝を言葉にして逝った…
それを聞いていた、カマキリが語りかけてきた
「ギギギギリギギチ、ギギギギチギチ、ギギギギギギギギギギ…」
「友を救ってくれて、感謝する我らは、役目を果たしたのだな…」
「オレは何か出来たのか? 結局は誰も助けられなかった、これじゃあの時と同じだ、母さんの時と何も変わらない、こんなんじゃ…」
「ギチギ、チギギギチ、ギチギ、ギギギチギチギチギ」
「お前が、来なければ、我らは、地下牢で死んでいた」
「ギギギ、ギギチギチギギギチギチ、ギギギ…」
「女王を、助ける事も出来なかった、だろう…」
話しをしてる途中にもカマキリは何度も倒れそうになっていた…
「ギギギギギ、ギギギ、ギギギギギ、リギリギリギリ…」
「人間の子よ、どうか、女王を頼む、優しい子なのだ…」
「うん、オレで出来るなら…」
「ギリギリギ、ギギギ、リギギギ、ギギリギリギリ…」
「ありがとう、これで、安心して、皆の元に逝ける…」
「ギギチ、ギギチギ、リギ、リギ、ギチギ…」
「女王を、救えたと、皆に、話さ、なけれ…」
カマキリは役目を果たし眠るように倒れた……
オレはカマキリの亡骸に手を合わせ改めて誓いを立てる
「皆が命をかけて助けた女王は、オレが守るから安心して眠ってくれ…」
虫達は役目を終えて深い眠りにつく
知らない人が見ればただの自殺行為に近いだろう
だがオレは知っている彼らがどれほど気高く忠義心があり仲間思いか…
女王を助ける為に身を削り、血を流し、最後の最後まで守り通した
戦いの壮絶さを示すように虫達の血が木々を染め
まるで森が泣いているように見えた…




