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復讐少女は不死者と踊る ~UNDEAD MURDER TALE~

 1990年 アメリカ──


 ──日の当たらない裏路地に人影が四つ、駆け込んだ。


 一つは少女。腰まで伸ばした黒色の髪。白い肌、華奢な体を包むのは漆黒の喪服。肩には細長い筒状のバッグを担いでいる。

 三つは成人男性。金髪、スキンヘッド、モヒカン、服装に統一性は無いが、三人の纏う雰囲気はカタギのものではなかった。

 路地裏に少女が飛び込み、男達があとに続く。


 少女は男達に追われていた。


 少女は長い黒髪を振り乱し、ゴミ袋の隙間を縫って走り、奥へと進む。ゴミを漁っていたカラスが一斉に飛び立つ。

 男達はゴミ袋を蹴散らし後を追った。

 生ゴミと汚水の混じった不快な臭いに、少女は可憐な顔をしかめる。


「待てコラァ!」


 スキンヘッドの男が吠え、懐から銃を取り出し、発砲。威嚇の為に発射された弾丸はマンホールに当たり甲高い音と火花を散らして跳弾した。

 そして少女の細い足をかすり、壁に突き刺さった。


 足に感じた鋭い痛みに、「キャッ!」っと短い悲鳴を上げて少女は転倒した。

(しまった!)と内心で舌打ちをして少女は振り向く。そして同時にバッグから荷物を引きずり出してそれを構えた。それは無骨で無機質で無慈悲な、鉄と木で出来た生物を殺すための道具──ライフルだった。

 少女は振り向きざまにライフルを構え引き金に指をかける。──刹那、銃声。

 谷に音が反響する様に、銃声が路地裏に轟く。

 銃弾は少女の顔をかすめ髪を数本散らし、コンクリートの地面にめり込んだ。

 引き金を引いたのは少女では無く、男達の方だった。

 三人が自動拳銃ハンドガンを構え、銃口を少女に向けている。三人は横に並び、真ん中に立つ金髪の男の自動拳銃ハンドガンからは硝煙がゆらりと立ちのぼっていた。


「動くんじゃあねえ! 次は頭ぶち抜くぞ!」


 金髪の男が吠える。走り続けた影響か少女を追うことに興奮していたにか、顔が赤く息も荒い。


「その銃を捨てろ、今すぐにだ!」


 一触即発。少女は男達を睨みつけ、慎重に確認する。

 三人の男は引き金に指をかけている。相手は自動拳銃ハンドガンが三丁、対してこちらはボルトアクションライフルが一丁。一人撃ち殺しても、次弾装填までに返り討ちにあうだろう。仲間が殺されて逃げる手合いでもないだろう。

 少女は考え、苦渋の表情でライフルを手から離した。


 少女がライフルを右に転がす。ゴトリと重く硬い音が鳴る。

 そして少女は両手を頭の後ろで組んだ。

 依然、男達は銃口を向けたままだ。


「いいか動くなよ! ついさっきみてえなオカシナ真似しやがったらぶっ殺すぞ! いいな!」


 金髪の男が吠える。しかしその声には焦りと恐怖が混じっていた。

 その様子に少女は気付く。そして路地裏へ逃げ込む前の事、あのオカシナ出来事を思い出して、目の前の金髪の男を睨みながら、口の端をニヤリと吊り上げた。

 虚勢だった。この状況を打開する方法を閃くまでの時間稼ぎの挑発。


「何笑ってやがんだてメェ!」


 少女の不敵な笑みに、金髪の男は激昂し引き金を引く。銃声。銃弾は少女の眼前、コンクリートの地面へと破片を散らしめり込んだ。

 それでも少女は不敵な笑みを崩さない。


「……チッ! 気味悪りぃんだよクソガキが! ボスの命令じゃなきゃ今すぐにブチ犯しながらブチ殺してんゾ! クソが!」


 金髪の男は喚いてから両脇に立つスキンヘッドとモヒカンの男に少女の拘束を命じた。

 二人は黙って頷く。


 少女のささやかな悪足掻きは無駄に終わろうとしていた。活路を見出せぬまま。このままでは少女の拘束も時間の問題である。


(このまま捕まれば殺される。復讐も果たせないまま?)


 なにか、方法はないか。必死に思考を巡らせる。

 左右は壁、背後には薄暗い路地裏が続く。少女はちらりと天を見る。壁の隙間、青い空にはカラスが弧を描き飛んでいた。


 (叫ぶ? 走り出す? 前に? 後ろに? 撃つ? 誰から? それで? 殺す? 殺す 次は? 誰を殺す?

 ………ころす)


 ころす。その選択肢が脳裏をよぎった瞬間、少女の纏う空気が僅かに変質した。

 気付いたのは三人の内、二人。スキンヘッドとモヒカンだ。


 ──嫌な予感がする。


 二人がそう考えたのはほぼ同時だった。

 ぞわりと、産毛を逆撫でされる様な淡い不快感を、二人が感じ取ったからだ。

 直ぐさま二人は視線を交わす。


(どうする)

(やるか?)


 直ぐに捕縛するか、始末するべきであったが、脳裏をよぎるのはこの少女がボスを()()()()の不可思議な光景と、それを連想する少女の雰囲気の変質に足が動かない。


 二の足を踏む二人に対し、金髪の男だけが異変に気づかなかった。

 怒りにかられ周りが見えず頭も回らなくなっていたからだ。

 三人とも銃口は少女に向けたまま、スキンヘッドとモヒカンの男の顔は緊張で強張り汗が滲んでいた。金髪の男は視線を上下左右にめまぐるしく移動させ落ち着かない様子。ただ動かすだけ、何も見えてはいない。


「お前ら! 早くヤレよお前らから殺すぞ!」


 金髪の男はヒステリックに煽る。仕方ないといった風に二人は目で合図を送り、同時に一歩踏み出した。

 その時––––。


「うるせぇな。人の上で騒ぎやがって」


 突然の男の声。四人は動きを止めた。

 腹に響くような重く低い男の声。

 声の主は、少女では無い。三人の男達も互いに顔を見合わせ「俺じゃ無い」と首を振る。


「誰だ! どこにいやがる!」


 金髪が路地裏を見渡し叫ぶ。ここには自分たち以外に誰も見えない。ハッとして少女を睨む。銃を握る手に力が込められ、銃口がガタガタと小刻みに震えていた。


「ハァ、ハァ……ッ! また、またお前の仕業か、クソガキィ!」


 金髪の男は左手で髪をかき上げ息を荒げた。


「変な真似するなっていっただろうがああ!」


 金髪が叫び引き金に掛けた指に力を込めた瞬間、


 ズ、ズズズ……。


 と、金属とコンクリートを擦る音が聞こえ、金髪と少女の間の地面にあるマンホールの蓋が開かれた。

 そして中から人がゆっくりと這い出してきた。


「だから……うるせえって言ってるだろ」


 謎の声の主だった。男はゆっくりと身体をマンホールから引きずり出す。

 突然のことに、四人はただ見守るのみ。

 マンホールから出てきた男は蓋を閉めてから立ち上がった。

 背が高くがっしりとした身体をボロボロのコートで包んだ大男。ここにいる他四人よりも大きい。ボサボサの髪に伸び放題のヒゲが顔をほとんど隠していた。

 マンホールから出てきた異臭を放つ大男は大きな欠伸をしながら言った。


「寝てる人間の頭の上でパンパカパンギャーギャー、常識ってもんが無いのかねぇ」


 ボリボリとアタマを掻きながら大男は目の前の三人を観察する様に眺める。その目は酷く陰鬱で、眼球の奥にヘドロを溜めた様な暗い眼をしていた。

 眼が合った瞬間、モヒカンは身体に悪寒が走り身体をブルリと震わせ、スキンヘッドは全身に鳥肌が立つ不快感に襲われた。


「常識とか知らねえって面しやがってまったく」

「ンだてめぇ? あ?」

「俺か? 俺は……まぁ、ジョン・ドウだ」

「あ? 身元不明死体(ジョン・ドウ)だぁ?」


 大男の背後で、突然の乱入に少女は困惑していた。


(何なの? この男は誰なの?)


 金髪達の反応を見るに、彼らの仲間では無いようだった。しかし、大男の風貌と纏う雰囲気に助けを求めるか、少女は躊躇した。そしていつでも武器を取れるようにライフルをこっそりと確認した。


「邪魔だデカいの、俺らはその()()()に用があるんだ。どけよ」

「後ろの?」


 スキンヘッドの男の言葉を聞き大男はチラリと振り向き、少女の存在を確認。「はっは〜、なるほどねえ」と一人で頷く。

 大男は嗤っていた。嘲笑だ。

 手入れのされていない薄汚い口髭が、ニヤリと笑みを形作る。


「こんなに可愛い嬢ちゃんに三人がかりとは、腰抜けめ」

「あぁ!?」


 大男の言葉に、金髪は額に青筋を浮かびあがらせ怒りと興奮からか銃口が震えていた。


「腰抜け……だとぉ? てめぇ……ブッ殺す! ぜってー殺す! 今すぐ殺す!」

「殺す? 意味分かって言ってるか? 腰抜け」


 言葉にならない叫びと共に金髪の男は引き金に力を込め──。


 しかし大男は右腕を無造作に振り上げる。その手にはいつの間にか斧が握られていた。


 何かが路地裏から見える狭く高い空へと飛び上がった。

 ──金髪の男の右腕だった。


 そして銃を握ったまま切断された右腕が回転しながら宙を舞いぼとりと肉の音を立ててコンクリートへと叩きつけられた。切断面からは手の中に残っていた血が流れ小さな水溜りを作った。


 少女は空気の変質に気付き身震いする。

 彼らを取り囲む空気が湖の底のヘドロの様に静かに沈殿していく穢れの様に重く暗く変質にしていた。

 大男は低く唸るような、地獄の底から聞こえる亡者の呻きのような声で言った。


「《フライデイ・ザ・サーティーンス》……殺してくれよ、腰抜けども」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 語呂の良いタイトルですね。流れるような響きの良さを感じます。 こういうことば選びのセンスってどこで磨くのでしょう。かっこいい。 タイトルからしてバトルものになるのかな、と推測します。 復讐…
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