(無題)
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『父さん、母さんへ
先立つ不孝をお許しください。お二人がこれを読んでいる時、僕は既に昔よく連れて行ってくれた海の底に居るでしょう。
結局この社会に適合する道を見出すことが出来ず、生きていく事が苦痛でしかなくなりました。ですが、迷惑を掛けずに死ぬ方法がなかったこと以外に、社会に対して不満と言うものはありません。
僕のような考えの人間が生まれてしまった事が、不幸なのだと思います。
今後僕のような人間が生まれない事を、切に願います。
萩原稔』
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春も始まったばかりの頃、同一作者の小説が二冊同時に発売された。
一冊は人気シリーズの最終巻。一冊は作者の最新刊にして、生涯最後の作品。
話題になるには十分な二冊ではあったが、二冊目の本は別の意味でも話題になった。
社会に絶望し死を選ぼうとしていた若者が、幽霊の女性に出会い、未練を解消したものの、最終的には若者が自殺をすると言う話。
この二冊の本が発売する前日に、一人の若者がまた自ら命を絶つと言う痛ましい事件があった。
一見すると偶々重なっただけのように見えるが、若者が家族に送った遺書に同封してあった日記に、二冊目の小説と似た内容の事が書いてあったのだ。
この謎に様々な憶測が飛び交ったが、結局は謎のまま、さらに謎を深める話も出て来る。
二冊の本が発売して以降、自殺を思いとどまる人の中に、同じことを言う人が現れたのだ。内容は「女性の霊が、思い留まらせてくれた」と言うもの。
曰く、女性の霊は死神と名乗り、自殺しようとしている人の前に現れては、思い留まるように説得するのだと言う。
死神のイメージと真逆の彼女が、死神を名乗っている理由は、かつて一人の若者を自分のせいで殺してしまった為らしい。
タイミング的にも、内容的にも、先の自殺した若者と酷似しているのだが、時間が経ち、都市伝説として消化されていった。
これで終わりです。
なんというか、姫崎ってこういうのも書いているんだな、くらいな感じで読んでいただけたらと思います。最後に書くことでもないですが。
ともあれ、お付き合いありがとうございました。、




