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契約のシャフト  作者: 二来何無
第一章 神の眼
23/60

2-18 After Garden:3

『テメェ、サルゥー!どげん手品ばつかっとっかわかんねっげどもォ!捕まえたったでェーーー!!』

「ぎぃえええええーーッッッ!?いたたたたいたいいたいいたい脚っ脚踏まないで筋肉痛!きんにくちゅうなのおおおおんっっ!!」


一般的なツキノワグマを例に上げると全長は120~180cm、体重は最大で120kgとなるが、大将はそれよりも巨大で更に晶石の励起が進んでいなくてもとんでもない馬力を持っていた。その気になれば容易く踏み潰せたであろうに、彼を甚振ることに魔族の本能で快感を覚えているのか絶妙な力加減で動きだけを止め、圧力をかけ続けていた。筋肉痛も相まってのたうち回る彼は零子を見るどころではない。必死にタップアウトをしても異世界の獣には通じていなかった。


『ぐぇへへへへッ、さーてどげんしてやろっかいねェ?なんじゃ脚が痛むんけ。やったら関節ばバラバラに引き千切ってから、目の前で指からしゃぶり上げるとこば見せてやろうかいねェげへへへへへェ』

「残虐プレイを具体的に説明するのをやめなさいってばァ!助けてェーーっっ!」

「見境なく盛るんじゃないわこのアホがァーーーーーッッ!!」

『ぐええええええーーーーッッ!!?』


救いの手は背後から現れた、らしい。うつ伏せの状態で身動きを封じられた彼は見ることが出来なかったが、どうにも大将をドツいて退かせてくれたようだ。痛みに喘ぎながらも身体の天地を入れ替えて、足の痛みを抑えるべく諸共こぼれ落ちたシーツを握りしめる。瞼が反射で閉じるのを気合でこじ開けるのに数秒。


「よう、呼んだか汝よ。いなくなったかと思えば来いなどと。大した肝っ玉よな」


小さな脚は幹のようにどっしりと踏みしめ、左腕は桜花結晶の巨大な爪。右手は腰に当て、胸を張りながら表情に追従する顔の紋様。見下ろすエメラルドの瞳と相まって、何処か拗ねたような、責めるような感情を見せていた。彼の方はというと全く想定外の遭遇であり、筋肉痛も後頭部から血を流して倒れている大将も忘れて、目が覚める思いで見上げていた。


「さく、ら。どうして、ここに。ここはオレの……。」

「汝の?ああ、これが汝の住処か。すまんな、このスカポンタンが」

『いでぇッ!?』


ブロッサム…いや、さくらは転がっていた大将の尻を蹴り上げた。悲鳴を上げつつ傷口を擦る熊だったが、傷口は浅かったらしく擦りながらも丁寧に再生治癒に移行していた。喋ってる途中は黙っている事を仕込まれたか、単に痛いうちはおとなしくするだけかはともかく、まだ話し足りていないさくらの邪魔をすることはない。接近する時裸足で砕かれた瓦礫の存在は誰の心からも消え去る。


「密室に押し込まれて取り乱したからな、壁は不可抗力と心得ろ。後半分ぐらいに縮んでおったしな。相対的に大きくなった我らにも怯えておったわ!」

「ええまあ、元のサイズだったらこの部屋天井高くないですし…。我らっていいました?」


さくらの後方に視線を向ければ、例の杖を握りしめて目を回しつつも、こちらに向かって全然怖くない唸り声をあげつつ縮こまっているリリィの姿があった。足の間からはエアコンまで体を伸ばしてつついたり、瓦礫を脇に避けたりと大変賢く立ち回る大蛇のガーベラがいる。奇しくもあの世界の主要人物は一部屋に押し込められて勢揃いしているようだ。


「ああ、リリィも大変取り乱しておったよ?我共々、知らぬ間に誘拐されて拷問でもされるのでは、と。だが犯人がお前ならどうでも良い」

「よくありませんよ姉様。この男、不思議な術を使うのでしょう?今までそれを隠して接していたのに、正体を表したということは、私達に接近しこうして誘拐を目論んで…きゃんっ!」


未だ疑心暗鬼に囚われ背中にしがみつこうとしたリリィだが、姉は右手でその額にチョップをいれた。全然痛くなさそうだったが、されたほうはものすごい涙目になって命中箇所を押さえている。


「もうよせ、リリィ。この男に敵意がないことはお主もわかっているだろう」


諭される妹は名前の通りの下心と子供らしい警戒心を足して2で割ったような顔をしていた。非常に大袈裟に額を抑えて大好きな姉と邪魔な男を交互に見ており、さくらもまたリリィの事を信じているのか黙ってみていた。そして姉妹館のお約束のようにツーカーで背中を押され、男の前にでてきたリリィは、よく育った身体を縮こまらせながら彼の前で身動ぎしていた。口を開いては結び、視線を合わせては避けていた。姉に習って急かさずに待ってみる。口を出そうとしたさくらをハンドサインで押し留めて。


「………、き、昨日は、パンケーキ、でした…」


脈略がなさそうに見えたが続きを促す。頑張って言葉を紡ぎ始めたのだ、頷くだけして。


「あなたのぶんも、作り、ました。……みんなで、食べ、……っ食べ、たかった、です」

「おいおいリリィ…」

「そっか。ごめんな、勝手にいなくなって。」


すっかり気を落とし指遊びを始める程度に居心地悪そうだったリリィに対し、痛む脚を抑えながらベッドの支柱を使って身体を起こす。軽くよろめいたりもしたが、なんとか目線を合わせる。いつまでも見上げてばかりもいられない、話す時は目線を合わせるのは大切なことだ。


「君さえ良ければ、またお願いしてもいいかな。オレは多分、ずっとここにいるから。」


また彼女を警戒させないよう、最大限注意を払って言葉を投げかけた。こうして人見知りなところを見せては来るけれど、実際に手を出したりはしない。ならばこちらもそれに応えようと、彼なりに考えたためであった。身長は同じか少し上ぐらいでもあったけれど、うつむき加減からちょっとだけ覗いた上目遣いは、不器用だけどなかなかキュートに写っていた。


「さて諸君、話もまとまった所で」

『あぁああッ!アンタァ!…じゃねェ、貴方様はァー!!?』


男の顔色がまた曇った。女の声にリリィとさくらは目を合わせた。まさかガーベラ?と二人して振り返るも首を振っており、大声を上げながら大将が指した指先を視線で追い、驚いていた。背後に浮かぶ女を、彼自身は振り返りもせずに。


「お、おおっそのご尊顔!!隠されし宗教画そのもののッ、黒き大地の女神様!?」

「ほ、ほんもの……なぜ、どう、して…?」

「ふはーっはっはっは!面をあげい!大儀である!」

「遊んでないで言いたいことがあるなら言えよ痴母神が。」


シュウがいた。空中にあぐらをかいて手を付き、ネグリジェ姿のままヤギの角諸共大袈裟に笑って見せながら、短パン・タンクトップという超ラフな部屋着を披露しながらも、恭しく頭を垂れようとしていたかつての信者達を見下ろしていた。どうやら魔族たちにとっても見知った顔のようであった。


「鼻塩塩!アレは今から…」

「昨日か今朝の話だろうが。っつーか狭いし、身体が痛いから後にしては、…いただけませんよね…。」


ボケ始める前に軌道を修正しつつ、よく脱線しそうになる女神の講習会が始まる。狭い部屋にひしめき合わないでほしいという彼の主張は当面脇に置いて。




「…というわけだよ!わかったかな?」

「な、なるほど。この男は神の使いであった、と…」

「不本意ながら大体それでいい。」


結局途中で人員整理が行われ、部屋には人型種族、壁に空いた孔から戻っていった大将とガーベラは畳の感触に慣れていった。男の部屋は来客用の装備がなかった為急遽座布団を用意してもらい、筋肉痛が緩和された男は立膝、リリィは背筋をピンと張って体育座り、さくらは座禅を崩した胡座で各々傾聴していた。空中で話していた女神様は話の最中縦や横に回転し、角はともかく冗談みたいに長い髪を重力に遊ばせていたので、一度立ち上がって後頭部をシバいたものだ。おかげでタンコブができていたものの、女神に対する振る舞いで血相を変えた姉妹にシュウ自らスキンシップだと言って宥めたりした一幕もあったぐらい、全然身の引き締まらないお話会は進んでいったのであった。


「んで、バディは仕事の研修のために君たちの世界で頑張ったんだけど、君たちはねー、その賞品です」

「賞品?」


後ろの大将が声を上げそうになったが、女神相手だとしどろもどろになってしまい結局口に出せなかったようだ。代わりに話の大筋を理解しているさくらが問い返す。


「うん。バディはみんなのことが大好きになったみたいだからね、はなれたくなぁい、だって!」

「待てこらアバズレが。誰もそんな事いってあっイッタイ脚がァァァァァッッ!!?」


自作飛行機の大会で必死に自転車を漕ぎ続けた後のような悲鳴を上げて転げ回るお兄さん。シュウがどうやら何かイタズラをしたらしいが、姉妹たちに取ってはそんな悲鳴に口を挟む間もなく目をむいて男の醜態を凝視した。戸惑いがちにシュウと男のどちらを見ればいいか迷うリリィと、血色良くニンマリと笑い始めるさくら。姉はのたうち回る男の側に張って迫っていく。


「そーぅか。ほほぉ、そんなに我らが気に入ってくださったのか天使サマは。素っ気無い感じだと思ったが中々どうしてかわいい男子よな?ん?」

「いだっだだっちがっ、だから、そ、そんなんじゃッッ!!?」

「隠さなくても良い、女神の太鼓判まで押されてしまっては仕方ない、このまま汝についていくとしようか。なぁリリィ?」

「ふぇっ!?い、いやでも、姉様ぁ…っわ、私たちは、その、えっと」


意外な反応をあげたリリィに何を期待しているのか、激痛をこらえながら大きな妹を見上げる男。しかし妹の顔を見るともう明確に反論はせず、何故かしどろもどろに困惑しながらまた指で遊んでいた。そんな妹とかお同士を接近させながら、また愉快げに耳打ちするさくら。わざわざ聞えよがしにやってくださる。


「良いではないか、どのみちあの世界に未練などあるまい。他の何者にも狙われることのないこの世界は安全だし、ともすれば無数の新天地とも出会える。リリィはがんばり屋さんだ、リリィの色んな料理が食べたい。征く先々で様々な食材と出会い、レシピと出会い、そして食べさせてくれる…想像しただけで幸せじゃあないか。なあ?」

「りょ、料理……姉様が、喜んで、くれる…っっ!」

「せ、説得フェイズに入りやがった…っリリィ、よく考えろっ、それは多分いつもの手口っふんぬぅぅうぅ!!」


色めき立つ妹、そして指をワキワキ動かしながら男に干渉するシュウ。感覚で言えば、脚が攣っているのに善意の顔をしてマッサージをしてくださっているようなものだ。とてもじゃないが口をきけるような状態ではない。


「というかなんでおまっンヒィっ!そんなんごぉっ!!そんなノリノリでっんほぉぉぉっ!?」

「それになリリィ、………。」

「……っ、なっ、私は、そんなんじゃっ!姉様がいればっ!!」

「では姉に免じてだ、ついてきてはくれぬか。親愛なるリリィ。」


途中はあえて声を潜めるさくらは、こちらをちらりと見た。形容し難い色を見せた耳打ちに狼狽し始めるりりィは、男の声を無視して姉妹の世界に物思う。男としては、この女神が誘導しているまま事が進むのはよろしくないと感じたからだ。動物たちに視線をやったが、女神を前に照れたり萎縮してトリップしている大将と神妙にしているガーベラはまるで事態の打開に貢献しそうにない。そうしているうちにリリィはついに折れて、一度こくんと頷いたのである。勝利宣言のように再び顔を向けたさくらの表情で、男はただ一人アウェーと化してしまった。悶絶している間に大変機嫌の良い女神にその心持を告げたのである。


「母たる女神よ、我ら一同喜んで、その任をお受けいたしますぞ。何なりとご命令を」

「オッケェーイ!!というわけだからバディ、この子たちは君に預ける!好きに采配したれ!!」

「はぁーーーっっ?!」

「ついでに君に与える次の仕事はーでけでけでん!転生者の面接になりまーす!君と遊んでたら希望者が何人か来てたからさぁー、頼むよ!手伝ってっ!」

「かるぅーーーーい!!」



これが就職間もなく中間管理職と化し、部下を約四人も持つこととなり、女神の玩具となりながらしばらくはデスクワーク、つまり新人面接の業務に当たることとなった見習い神様の顛末である。

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