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美しいモノ・集めるモノ /サイトの製作者・ナツキ

翌朝、古き良き歴史のある女子高では生徒達が続々と登校して来た。


「ナツキ~、おはよう」


「ナッちゃん、おはよう」


「みんな、おっはよー!」


元気に明るく返事をするのは、女子高校生のナツキ。


彼女の元気な姿に、友達は笑顔になる。


朗らかで人見知りのしないナツキには、多くの友達がいた。


しかし表情を曇らせた女友達の一人が、ナツキに声をひそめて言ってきた。


「ナツキ、昨夜遅くにサイトに投稿された写真、見た?」


「えっ? 何時頃?」


「んっと…。午前1時頃」


「ボクはもう寝てたなぁ。何か変な写真でも投稿されてた?」


「うん…。何か死体の写真が出てたの。アタシ、もうビックリしちゃってさ」


「えっ? 死体? 偽物じゃなくて?」


「それは分かんないけど…」


さすがのナツキも複雑な表情を浮かべる。


「まだサイトに載っているのかな?」


そう言いつつナツキは自分のケータイ電話をカバンから取り出す。


「ううん、すぐに消されたからもうないと思うよ」


「そっか…」


ナツキは残念そうに呟くと、ケータイをしまう。


「でも写真が出てたのは数分間だけだったんだけど、ネットではかなり騒がれてるみたい。気をつけた方が良いよ」


「うん、ありがと…。そうする」


ナツキはカバンの中のケータイを握り締め、眼を細めた。


朝一で向かったのは教室ではなく、所属しているコンピュータ部だった。


部室にはすでに部員全員がいて、各々自分のパソコンを見ていた。


「みんな、おはよう」


「あっ、ナツキ。ねぇ、見た? 死体の写真」


部員達は一斉にナツキに視線を向けた。


しかしナツキは残念そうに、首を横に振る。


「ボク、昨日十時には寝ちゃったんだ。だから見ていないんだけど…本当に死体の写真だったの?」


「それが、ねぇ」


部員達はお互いに顔を見合わせ、重いため息を吐く。


「部員達も何人かが見たぐらいで、写真自体はすぐに消えたの。だから本物かどうかは分からないけど…イタズラか嫌がらせだったらイヤよね」


「うん…。そうだね」


例の写真投稿サイトは、この学校のコンピュータ部が作った。


最初はこの学校の生徒達だけで写真を集めていたが、そのうち話を聞きつけて、学校外の人達も自分の写真を載せたいと言ってきた。


なので誰でも気軽に参加できるHPを、顧問の指導の下、部員全員で作ったのだ。


管理をしているのは部員達で、毎日サイトの確認をしていた。


写真の投稿は誰でも自由にできるところが、ウリだった。


その為、おかしな写真を載せられることもあったが、すぐに削除していた。


「でもすぐに死体の写真は消えたんでしょう? 部員の誰かが消したの?」


ナツキが尋ねると、部員達は首を横に振って否定をした。


「ううん。多分投稿者が消したんでしょう。さすがにヤバイと思ったんじゃない?」


「そっか…。次がないと良いね」


ナツキは悲しそうに言いながら、自分の席に座り、パソコンを立ち上げた。


サイトを見ると、掲示板にはあの死体の写真についての書き込みが数多くあった。


「あちゃー。ちょっと荒らされているっぽいね」


「そうなのよ。写真が出た時間から、ずっとこう。もうこっちでも抑えきれないの」


部員達の暗い空気の原因は、こっちの方だろう。


あの死体が本物か、誰が投稿してきたのかなどと、いろいろ騒がれている。


「ねぇ、ナツキ。これから登録制にしない?」


「登録制? …でもそれじゃあウチの自由のウリがなくなっちゃうよ?」


「でもまた同じことがあったら、下手したらサイト閉鎖にされるかも。…顧問から今日の放課後、部員全員集まるように言われているし」


「おやおや」


ナツキは肩を竦め、深く息を吐いた。


「多分、顧問にその時に言われると思う。もしかしたらこれからの放課後や土曜日、潰れるかもしれないから、覚悟しといて」


「え~? 眼が潰れちゃうよぉ」


「泣き言言わない。それはアタシ達だって同じなんだから」


「う~。分かったよぉ」


ナツキはパソコンに向き直り、投稿されている写真をチェックした。


だが当然のことながら、死体の写真などない。


「とりあえず、投稿を一時ストップさせるってのはどう? メンテナンスって言う理由で、HPを一時閉鎖するっていうのは?」


「そうね。ナツキの言う通りにしましょう。そうすればちょっとは落ち着くでしょうから」


HPのメンテナンスは今までもあった。


例え閉鎖の本当の理由を気付かれても、今はそれしか状況を落ち着かせる方法はない。


部員達はすぐさま動き、サイトは閉鎖した。


「あ~あ。予想はしていたけど、本当にこういうことがあるとヘコむわぁ」


「だね。まあすぐに落ち着くと思うから、それまでにシステムを変えようよ」


ナツキが弱々しく微笑むと、部員達も笑みを浮かべる。


「そうだね。落ち込んでいるヒマはないわ」


「もう二度とあんな写真が投稿されないようにしないとね。ナツキ」


「うん!」


ナツキは動揺する気持ちを抑え、笑って見せた。


正直、ショックはあった。


自分達が一生懸命に作ったサイトに、死体の写真が一時でも載ってしまうことに…。


しかもそのことで、サイトはかなり荒れている。


「どうしたもんかなぁ…」


メンテナンスもそんなに時間が稼げるものではない。


それに問題は今後のことだ。


一度あることは、何度でも繰り返されることがある。


偽物であれ本物であれ、ああいう写真が何度もサイトの載せられたら、それこそ最悪の場合もある。


―そう、サイトの閉鎖だ。


「は~あ…」


重い気持ちのまま、午前の授業は終了。


昼休みに部室に顔を出すつもりだった。


あんなことがあっては、部員達も部室へ集まるだろう。


教室にいても、例の写真の話題がヒソヒソと囁かれていて、居心地が悪かった。


コンピュータ部の部員達が悪くないことは誰もが分かっていることだ。


だがサイトの悪い話を聞くだけでも、胸は痛んだ。


ところが部室へ行くと、顧問がいた。


「どっどうしたんですか? 先生」


顧問のタカシナは30代の男性教師、担当科目は情報処理だ。


「…悪いが、ちょっと困ったことになってな。部員全員に招集をかけるから、少し待っててくれ」


「はい…」


ナツキは自分の席に座った。


タカシナは自分の携帯電話を操作し、ここにいない部員達を呼び出した。


しばらくして全員が集まった中、タカシナは重い口を開いた。


「みんな、例の死体の写真のことは知っているな?」


部員達は首を縦に振った。


「実はつい先程、警察から連絡が入ってな。あの写真に映っている死体を発見したそうだ」


「っ!?」


声にならない声が、部室の中に響いた。


タカシナは険しい表情で続ける。


「あの写真は本物だったということだ。それで警察の方から、サイトの方を調べたいとの要求があった」


「あっ、やっぱり…」


ナツキは呟き、俯いた。


写真が本物の死体を映したとなれば、サイトの方も手が回るだろうことは予測していた。


「なのでこの部室を今から封鎖する。もうすぐ警察の人が来るから、お前達は聞かれたことに素直に答えるように」


「それって…ボク達が疑われているってことですか?」


ナツキの不安そうな顔を見て、タカシナは難しい顔をする。


「写真の削除は投稿者と管理者であるわたし達しかできないことだからな。まあ一応形式的なことだから、深くは考えなくていい」


最後に励ますように笑みを浮かべ、タカシナは言った。


そこへ部室の扉をノックする音が聞こえた。


「どうやら警察の人が来たらしい。みんな、自分の知っていることは全て話すんだぞ」


「…はあ」


ナツキは緊張した面持ちで、扉へ向かうタカシナへ視線を向けた。

警察の質問は本当に形式的だった。


部室のパソコンは調べられることになり、部活自体も一週間禁止とされた。


部員達は不満はあったものの、それでもサイトから解放されることに安堵していた。


ナツキは暗い表情のまま、家に帰ろうとした。


すでに夕日は消えかけ、辺りは夕闇に包まれている。


「太陽がないと寒いなぁ…」


呟きながら帰り道を歩いていると、後ろからクラクションが鳴った。


「アレ? タカシナ先生」


「今帰りか? 送っていくから乗りなさい」


「はあ…」


ナツキはタカシナの車の助手席に乗った。


「先生も今帰りですか?」


「ああ。これ以上、学校へいても居心地が悪いだけだからな」


素っ気無く言うが、その気持ちはナツキにもよく分かった。


「他の生徒がいろいろ言ってくるだろうが、気にすることはない。お前達は何一つ、悪いことなどしていないんだから」


「あっありがとうございます」


はっきり言われると、心が軽くなった。


学校は歴史が古いせいか、教師も年老いた人が多かった。


タカシナも若くはないが、生徒達の間では評判が良かった。


クールな雰囲気と、分かりやすい授業内容で人気があったのだ。


コンピュータ部も彼が設立してくれた。


ナツキはそれほどコンピュータに興味はなかったが、HP作りには興味があって入部した。


立派なサイトもできて、楽しくやっていたはずだが…。


暗い考えに入っている中、突然タカシナから声をかけられた。


「なぁ、お前は死体をどう思う?」


「えっ…?」


タカシナは前を真っ直ぐに見つめたまま、続ける。


「美しいモノだと思うか?」


ナツキは膝に置いた両手を握り締め、唇を噛んだ。


「ボク…は、正直分かりません。ボクは確かにキレイなモノは好きですけど、それは風景とかお花とか、友達の笑顔とかですから…」


「…そうだな。お前はそう言うと思ったよ。悪い。今の言葉は忘れてくれ」


「はい…」


その後は特に会話もなく、ナツキは自分の家まで送ってもらった。


「それじゃあまた明日」


「はい、ありがとうございました。先生」


ナツキはタカシナの車を見送った後、ふと気付いた。


「…あれ? タカシナ先生、何でボクの家知っていたんだろう?」


タカシナはナツキの案内無く、この家に真っ直ぐたどり着いた。


まるで前から知っていたかのように…。


「でも先生はボクの担任じゃないしなぁ」


それでも部活の顧問だ。住所を知ることはできただろう。


「まっ、いっか。それよりお腹空いたな」


ナツキは気持ちを切り替え、家に入った。



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