美しいモノ・撮ったモノ
「タカシナ先生、辞めちゃうなんてショック」
「本当。先生は別に悪いことなんてしてないのに」
コンピュータ部員達は口々にタカシナを惜しむ言葉を言いながら、キーボードを打ち続けた。
「ねぇ、ナツキもそう思うでしょ?」
「うん…そうだね」
あの後、男性を殺した犯人はすぐに捕まった。
タカシナの言う通り、暴力団関係者だった。
タカシナは男性のしていたことを、暴力団に密告したというところだけ、関係者に告げられた。
男性と同じく、ハッキングを趣味にしていたことは伏せられた。
理由は警察のコンピュータを専門としている部署から声をかけられたからだ。
コンピュータに詳しく、優秀なタカシナを警察は欲した。
そしてハッキングの件を黙っている代わりに、警察に入ることになったのだ。
でもナツキは思う。
それが一番安全だと―。
タカシナのコンピュータの腕前は、仲間内ではかなり有名だったらしい。
その彼が、殺された男性と親しかったことが大勢の人間に知られてしまえば、いらぬ危機に合ってしまうかもしれない。
それならばいっそのこと、利用されるのならば警察の方が、身の安全も保障されるだろうと思った。
今は住所も変わり、決して近くない場所に彼はいるけれど、会えないことはないし、連絡も取れる。
事件のほとぼりが冷めるまで、少し寂しいけれどこの状態を続けるしかない。
でもこのことはナツキだけが知る秘密。
タカシナの元へは、高校を卒業した後に行く約束をしている。
「だからそれまでのガマンガマン」
ナツキは静かに微笑み、呟いた。
机の下からケータイを取り出し、写真を出す。
あの川原で撮ったタカシナの写真、今はこれで耐えるしかない。




