後編
俺の始めた古着屋は繁盛し、やがては新品衣服の仕立ても行うようになっていった。
毛織物や綿織物、麻織物や絹織物などの衣服の生地を交易によってなるべく安く仕入れ、職人に仕立てを早く行わせることにより、王国本土の仕立て屋よりも安く綺麗な衣装を仕立てることによって、島における衣類に関してシェアをかなり得ることができた。
しかし、王国本土では衣服の修繕屋が新品並みに綺麗に修繕することは仕立て屋のシェアを奪うと禁じられていたり、修繕屋が仕立てを行うことは禁じられている。
「お前がやってることは違法だぞ」
と本土から来た仕立て屋が文句をつけに来た。
「この島にはそんな法はないが?」
「ここはすでに王国の領土だ、以前とは違う!
これは本土へ報告させてもらう!」
なので貴族と癒着している仕立て屋がこの島にもやってきて富裕な学生用の衣服などを高く売りつけていたわけだが、俺が綺麗な服を安く売りだしたことで奴らの儲けが出なくなったことで本土へ俺の商売をやめさせるようにチクったらしい。
「職人が腕も磨かずダラダラ作業して長い時間をかけて作成することで工賃を釣り上げ、生地の値段からも多く中抜きをしていれば高くなるに決まっているだろう。
やはり本土の人間は腐っているな」
最初は辺境の島のことと本土では無視していたようだが、仕立て屋と癒着している貴族が騒ぎ出すと島を再度武力で制圧するべしと決まり、海軍を派遣する事が決まったらしい。
そんな状況で以前に俺が海戦で指揮を取ったときの平民出身の掌砲長のウイリアムと操舵長のセイラーが俺の元へやってきたのだ。
「提督久しぶりですな」
俺は懐かしい顔にあったことに喜びつつも今のこの状況で二人がやってきたことに内心首を傾げた。
「ああ、たしかに久しぶりだ。
しかし、本土ではこの島へ海軍を派遣すると決まったらしいが?」
俺がそう言うとセイラーは顔をしかめつつ言った。
「ええ、しかし、今じゃ海軍はめちゃくちゃですよ。
平民出身の俺たちにはろくに給料が払われない割に貴族たち士官はうまい飯を食い偉そうにしてる」
更にウイリアムが言う。
「で、何か不始末があればそれは俺達のせいにされるんですよ」
二人がそう言ったことに俺はうなずきつつ言った。
「で、ふたりとも軍を辞めて俺のところへきたってということか」
ウイリアムはうなずいていった。
「ええ、そう言うことです。
提督のところで働けばちゃんと金も出るでしょうし、提督と戦うくらいなら、こっちについたほうが生き延びれそうですしね」
セイラーも続けていった。
「まあそう言うことですな」
あの海戦のときに俺の指示で戦ったことで生き延びれたと二人は思ってるようだな。
「たしかに俺は本土の海軍と戦うことになるが戦力はあちらのほうが圧倒的に上だぞ」
二人は笑いながら言う。
「そらあのときの海戦でもそうでしたよ」
「しかもあのときの敵提督は無能じゃありませんでしたからね」
「なるほど、俺なら勝てるとふたりとも思っているわけだな」
「ええ、そうですよ」
「じゃなきゃここに来ませんぜ」
「わかった二人を頼りにさせてもらう」
そして王国海軍が攻めよせてくる前に迎撃の準備を整える。
古い小型船を十隻ほど買い漁りそれのうち5隻に砲を積み込んで砲艦として王国海軍を撃退することを喧伝しつつ、残りの5隻には衝角をつけ船倉には燃焼物を満載させ、更に港の入江の先の高い場所に砲台を設置することも進めていた。
そのことを聞いた王国海軍の海軍士官である貴族はせせら笑っていた。
「ふん、無駄な努力をしているな。
小型船を買い漁って砲を積むくらいで我々に勝てると思っているとは」
王国海軍は大型戦艦10隻を率いて島へと侵攻してきた。
「セイラー、敵の艦の元へ近づき砲撃を加えたらここへ逃げるふりをして誘導してくれ」
「わかりやした」
「ウイリアムは俺の指示に従って砲撃を頼む」
「わかりやしたぜ!」
果たして10隻の大型艦の王国海軍と数隻の小型艦の俺の艦隊の戦いが始まった。
無論正面から戦えば火力でも兵数でも勝てるわけがない。
こちらの小型船が砲撃を加える前に敵の砲撃による水柱に囲まれて慌てて逃げ出したように見えた。
「よし、予定通りだな。
敵は逃げ出した小型船を追撃しようとその後をついてくるはずだ。
戦闘の旗艦の操舵手を砲撃で狙うぞ。
砲撃準備!」
「また無茶言ってくれますな」
「もともと無茶な戦いだ、いまさらだな」
「ま、たしかにそうですな」
そして逃げてきた小型艦が通り過ぎその後を王国海軍の旗艦がおってきた。
「航路はほぼ予測どおり。
よし、角度を2度修正、撃て!」
「撃て!」
大砲が火を吹いて先頭の旗艦の操舵手が舵輪ごと吹き飛んで操舵不能になった。
「火をつけた小型船を突っ込ませろと手旗信号で伝えよ」
「アイサー!」
舵輪と操舵士を失い操船不可能になった敵の旗艦などへ最小限の水夫と燃焼物を満載した小型船を突っ込ませた。
「おうおう、よく燃えるな」
敵の旗艦などが火に包まれて後続の船が右往左往しているところを砲撃によって操舵手や舵輪を次々に破壊していき敵の船4隻を沈め残りは拿捕した。
これにより名目上の総指揮官として船に乗っていたパセリ王子や上位の参謀などが死亡、物的にも人的にも取り返しのつかない損害を王国海軍は被った。
これを機に島は独立を果たし、王国では貴族や聖職者に対して平民が立ち上がり多くの貴族や聖職者は国外に逃亡し、王族などで捕まったものは処刑され王国は滅び、新たに共和国が成立したのだった。
「まあ、国の寿命だったんだろうな」
王国が共和国になってもすぐに大きく変わるわけではないだろうが少しずつ変わっていくのだろう。
それが良い方向であることを俺は祈りたい。