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中編

 その後、俺は海軍の小型艦で生まれた島へ戻ってきた。


「では、もう二度と本土の土は踏むなよ」


 監視要員の海兵がそう行って王国本土へ戻っていくのを尻目に俺はトボトボと実家への道をあるいていた。


 本土の学校に入って寄宿生活をし、そこを卒業してから軍に入っても寄宿生活が続いていたから、忙しくてこの島へは戻ってきていなかった。


 が、やはり実家というのはなんとなく安らぐ場所だな。

そして実家でまず俺を出迎えてくれたのは母さんだった。


「おかえり、会うのはずいぶん久しぶりな気がするわね」


「母さん……うんただいま、いろいろ忙しくてね、ごめん」


「まあ、いろいろあったみたいだからしばらくはのんびりするといいわ。

 今までは働きすぎだったのよ」


「ああ、そうするよ、幸い生活するには不自由ない程度に年金は出るみたいだしね」


 そして俺が実家に戻ってきた時間には領主仕事をしていた父や本土ではなくこの島の学校に入った妹なども夕方には戻ってきた。


 父は俺の肩をポンポンと叩くと言った。


「まあ、あまり気にしすぎるな。

 人生はまだまだ長い」


「ああ、そうだよな」


 そして妹は無邪気に笑顔をみせてくれた。


「本土の町はいろいろなお店があって楽しいって聞くけど本当?」


「ああ、この島よりもいろいろな店があるのは事実だな。

 服飾の店や宝飾品の店、香料などを扱う店なんかもあるぞ」


「いいなー、私ももっと綺麗な服をきてきれいな宝石とかつけてみたい」


「お前は学校で定められた服装や髪型でないとだめだろう?」


「そうなの、色々うるさくて息が詰まっちゃう」


「学校というのはそう言う場所だからな」


 学校はいくつか種類があり聖職者候補が入学する聖光教の教会の附属施設の司教座教会付属神学校か、元は騎士見習いのための宮廷学校であったものが変化した王国軍の士官学校、ギルドと呼ばれる製造業や商業などの同業者組合が元の中産階級の裕福な家庭の子どもに読み書き算数などを教える工業学校や商業学校などの都市学校などがある。

王国では聖光教の影響が大きいため神学校の数が多く、士官学校でも神学の時間が多くとられていた。


 しかしこの島では昔から交易などが活発だったことや聖光教の影響が本土ほど大きくはないため都市学校のほうがメインだ。


 それぞれ習う内容などは異なり俺が入ったのは王国軍の海軍だが、妹は商業学校に通っている。

授業内容は読み書き算数だが算数の内容は、分数計算をふくむ加減乗除である四則演算が主だが、それですら習えないものも多い。


 そもそも一般市民は子供であっても育児の補助や農作業、調理や裁縫などの家事手伝いをするのがあたりまえで時間的に学校にかようほど余裕もなかったりするのだが。


 暫くの間は働かずに母の作ってくれたものを食べのんびりするだけの日々を過ごし、久しぶりに家族揃っての食事はそれなりに楽しかったが、王国軍から除名された俺に気を遣ってくれる家族に対する心苦しさはやはりある。


「といっても学校を出て軍にはいった後に得たものは全部失っちまったしなぁ……」


 俺がそう愚痴を漏らすと母がたしなめるように言った。


「そうではないですよ。

 学校で習ったことはあなたの身についているでしょう?

 それは商業学校では学べないこともあったのではないですか?」


 母さんがそういったことで俺は自分の思い違いを認識させられたんだ。


「確かに主計学校で習った知識は失ったわけじゃないです」


「軍では早く仕事を終わらせるのはおかしいと言われたようですが、職人や商人であればその考えは当然です。

 あなたには軍の仕事は向かなかったのでしょう」


「しかし今から商人になると言いましても……」


「あなたはまだまだ若いのに何を言っているのです?

 確かに人生は日々の積み重ね、信頼とか実績というのもは一日一日の積み重ねですから、明日から頑張る、とか自分にもチャンスさえあれば成功するなどと言って、今を無駄にしてやるべき事をやってなければ成功する事はないでしょう。

 成功はある日幸運に恵まれて突然やってくるものではありません。

 毎日毎日すこしずつ実績を積み上げていくからやってくるものです。

 だからといって今からではおそすぎるということはありません。

 大事なのは諦めずに前に進もうとすることですよ」


「たしかにそうかも知れないな」


「必要なものを必要な数量安く仕入れて高く売りさばくのが商店主というものでしょう。

 あなたには商店主の才能があると思いますよ」


「商店主の才能……しかしそれには元手がなければ……」


「それについては心配ありません」


 俺がそう言うと母さんが一度どこかに行ったあとで戻ってきた。


 その手にはじゃらりと重いものが詰まった袋が握られている。


「あなたが仕送りしてくれたお金は使わずにとってあります。

 商店主として商売を始めるための元手としては十分でしょう」


 そして父さんが更に後押しをしてくれた。


「市場内で商売をするには、領主の許可とそれなりの支度金が必要だが、お前に対しては当然商売の許可を与えるぞ」


「ありがとうございます。

 ただ場所については実際に市場を見て選ばせてください」


「場所か、そんなに良い場所は空いていないがな」


「それでも少しでも良い場所を選ぶのは重要です」


「うむ、お前がそう言うなら一度市場を見てくるがいい」


「ありがとうございます」


 そして妹が聞いてきた。


「お兄ちゃんは何を売るの?」


「そうだな……とりあえずは何でも屋かな」


「何でも屋?」


「基本は雑貨屋で衣服の修繕や古着などを扱うが、お前が欲しがっていた新しいきれいな衣装の仕立てや宝飾品も扱いたいし、余裕があれば日用品もとりあえずは扱ってみるよ」


「それなら私! とっても可愛い服を買いに行くわ!」


「ああ、とっても可愛い服を用意しておくよ」


 主計では衣服の管理・食料の管理・給料の管理・その他一般的な事務のすべてをやってきた。

衣服というものは人間の生活に無くてはならない物だがとても高い。

新しい高価な服は生地だけ買って仕立て屋に仕立てさせるのが普通で、比較的安い衣服は雑貨屋か古着屋で売り買いされる。


 そして衣服に穴が空いたら自分たちでツギハギをしたりして繕うか衣服の修繕屋にかけはぎを頼むのだ。

カケハギであれば縫い繕いの後は殆ど残らないのだがそれでは新品が売れないので新品と見紛うほどの衣服の修理はしてはならないと王国ではされていた。


 羊毛であれ亜麻であれ糸にして、それからその糸を糸車を使って糸にしたあと機織り機で織って生地にするのはとても大変だからな。

後は在庫を抱えすぎないでうまく売る必要もあるがそのあたりはこの町における人口などを考えればある程度は計算できる。


 俺はカケハギの腕が素晴らしく良いのにそれが命令によって役に立たたないとくすぶっている衣服の修理職人を引き抜き古着の寸法直しやリペアを適正な賃金で頼むことにした。


「無論やらせてもらいますよ!

 腕がなります」


 ついでに裁縫道具も扱うといいかもしれないな。


 そして市場を見て回り空いている場所の中では比較的人通りが多く目につくと思う場所を借り受け雑貨屋を始めた。

最初はなかなか売れなかったが妹とともに学校の生徒が買いに来てくれ、それから口コミで安めで良さげな衣装や装飾品が手に入ると言うことが広まると店は繁盛した。


「学生の口コミというのは馬鹿にできないものだ」


 学校に通うくらい財力がある子どもであれば衣装や装飾品を買うことに躊躇はあまりないようだがやはり子供ゆえに使える金額には限度がある。

古着だと大きさが合わない場合もあるが適切なサイジングやリペアをしてやれば新品と見劣らないものが比較的安くできるのだ。


 そして古着を中心とした雑貨の売り上げが伸びていった後は船を使っての交易も始めた。

島の中だけではなく外から材料などを仕入れることで安くできるものもあるからな。

俺は海上の交易で周囲への影響力を強めていったのだ。


 その頃の王国海軍では給料の支払いの遅れ、金額の誤配、衣料品や食料の不足などが起きていた。


「なぜにこんなことになったのだ」


「そ、それは……」


 それはリオーネが主計を抜けたからに他ならなかった。

たかが主計の一人が抜けたくらいでそんなことになるとは誰も考えていなかったのだが、後任の主計にはリオーネほどの計算能力はなかったのである。

そして過剰な仕事量をさばけなくなるとミスが頻発するようになり水兵や船大工など下の人間の不満は高まっていくのである。

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