前編
俺は一躍英雄となるはずであった。
生まれてすぐに王国の侵略によって強制的に併合された島の遠い昔は貴族だった家系の領主の息子として生まれ、それによってかろうじて王国の下級貴族として本土の海軍学校に入学し、数字にとても強いということで主計科を主席卒業後、主計少尉に任官され庶務・会計・被服・糧食の各部門をたらい回しにされ、その後艦隊の主計長になった。
主計長の仕事内容は艦隊の庶務・経理・被服・糧食の管理全てで一般的な事務や接客対応、兵士の給料の管理、支給する衣服の管理事務や食糧全般の管理をすべてを行っていた。
主計科もそれ相当の学校を出ていなければならないのではあるが航海長などの運用科、掌砲長などの砲術科、操舵長操舵科よりも下とはいえ士官であるのは確かなのだ。
そして敵国との一大海戦で艦隊長官の提督やその他の上級士官が戦死して劣勢であった艦隊をなんとか取りまとめ、正確な砲撃で敵艦隊の旗艦を沈めて逆転勝利をもたらしたのだ。
しかし、俺にもたらされたのは英雄としての歓呼の声ではなく上司による糾弾であった。
「リオーネ、おまえを王国海軍より除名し、我が王国の本土から追放とする」
「はぁ?! 除籍の上に追放? な、なぜです?!」
「此度の海戦における階級無視の指揮行為がまず問題だ。
そしてお前には苦情がたくさん入ってきている」
「苦情ですか?」
「陸での書類仕事では周りはランプを付けて夜中まで働いているのにお前は夕刻には仕事は終わったと周りを助けずに帰ってると言うではないか。
船の上でもそれは同じだったと聞く。
なぜ周りと同様にちゃんと仕事をしないのだ」
「書類仕事に関しては実際終わってますし、夜にランプを付けて仕事をするのはむしろ燃料の無駄かと。
それに下手に手伝うと俺の仕事を奪うなと言われるのですが……」
「周りが仕事をしているのにお前だけ早く帰れるのはおかしいではないか」
「しかし、作業手順を定形化、単純化して処理を効率化すればできるのですよ?」
「そんなことは聞いていない!
なぜ夜遅くまで働いているものがいるのに勝手に自分だけ帰るのかと聞いているのだ」
「いや、ですからそれこそ無駄に燃料を使うより効率を上げたほうが……」
なぜ単純化、効率化をして仕事を早く回してるのに”仕事してない”と言われるのか? 理不尽じゃないか?
「ともかくこの度の海戦で敵国艦隊に大きな打撃を与えてくれことについては認めなくはないのだ。
我が国にとっての最大の脅威は当面なくなった。
ゆえにこの海戦における功績は、艦隊に乗り込んでいたでいた王子であるリューイ様のものとするとの王の命令だ」
「はぁ? 士官用の食事メニューにパセリを添える者を監視するだけの仕事をしていた王子が今回の海戦の功労者にですか?!」
それはいくらなんでもひどすぎではないか?
「下々の者が真面目に仕事をしているかを監督するのは王族として大事なことであると王は言われていた」
いやそれはそうだがそれでもちょっとひどすぎないか?
「だがせめてもの情けだ、お前の生まれた島には船を出して退役年金をくれてやろうとのお言葉だ。
お前の生まれた島に戻ってのんびり暮らすがいい」
「生まれた島にですか」
つまり体のいい島流しか……。
「わかりました、俺は故郷の島に帰ります」
「ああ、素直にうけいれてくれて助かるよ。
場合によっては階級無視での指揮行為を理由に軍法会議にかけなければならんところだったからな」
「そうでしたか、そうならなかったことに感謝しますよ」
俺は皮肉のつもりでそう言ったがせいぜい負け犬の遠吠えにしかきこえなかっただろう。
こうして俺は救国の英雄ではなく軍を除籍された本土からの追放者として故郷の島へ戻ることになったのだ。