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1. 魔王に怒られる

 理不尽じゃね?


 つうか、どう生きようが俺の勝手じゃん。


 いや、生きてるのか死んでるのかわかんないけどさ。

 我思う、故に我あり。みたいな? 

 いや、よくわかんないけどさ。

 けど、俺が俺って自覚してる以上、俺は俺だし、好きにやらせてくれよな。


 ……なんて文句はどうやら通用しないみたいだ。


※※※


「なぁ、お主……どうしてこの世界に勇者として召喚されたか自覚しておるかの?」


 俺――桐生きりゅう獅子王レオは魔王城で怒られていた。

 目の前の玉座でふんぞり返っているロリバb――魔王エリザベートが悪辣な憤怒をその美麗な顔に貼り付けている。おお、怖い。くわばらくわばら。


 とにもかくにも、まずは状況把握をしよう。魔王城に呼び出された俺はこうしてなぞなぞに近い問いかけをされている。

 ちょっとは真面目に答えないと容赦なく殺されるのは確実なので、どうにかこうにかして正解に辿り着きたいところだ。


 ここはオーディエンスを使いたいところだけど残念ながらパーティー編成を組んでいないぼっち勇者なので助けを求める相手もいない。


 自力でやるしかないのは苦しいけど、四の五のいっていられる状況じゃないことも確か。


 いやしかし、どうして召喚されたのか分かっているのか、だってさ。


 これはなんともまぁ答えるのに窮する質問である。


 そもそも召喚されたというより自転車で通学途中に4トントラックと正面衝突して呆気なく意識が飛んで息を吹き返したらこの世界にいた、というわけなので、俺にとって彼女の質問は難問なのだ。


 気を失ったというより、トラックに跳ねられた以上、確実に死んだはずなので、俺はここをあの世だと認識しているのだが、これまでの長旅のなかでかき集めた情報によれば、どうやらここは『アスラステラ』という世界らしかった。


 で、目覚めた場所が良くなかった。

 よく分からん召喚サークルの中央だったのだ。


 そして何十人とずらり並んだ神官と、一際目立った気品ある美女アリスがいた。


 反射的に「問おう、あなたが私のマスターか」とか言いそうになって思わず口を噤んだ。


 あれはさすがに危なかった。

 いや、言ってみたい台詞ランキングで個人的に2位なんだけど、そもそも俺ってば平凡な大学生だったし。


 で、きょどってる俺をきらきらした瞳で見つめてくるのね。


 俺、全裸だったからめちゃくちゃ恥ずかしかったんだけど、そんなのお構いなしとばかりにアリスが駆け寄ってきて、「この世界を救って欲しい」と頼まれた。


 具体的には目の前にいる魔王エリザベートを倒せ、ということだった。


 状況が分からなくてついつい二つ返事をしちゃったわけなんだけど、それがまた良くなかった。あとはよろしく、的に送り出されて、気づけば2年もの間、流浪の旅だったのだから。


「いや……召喚された自覚がそもそもないんだけど。アリスには魔王エリザベートを倒せってお願いはされたけどな」

「それだろうがっ!」


 正解したのに怒られた。俺はこの世の理不尽を嘆く。


「だというのに……どういうわけかお主、我のところに一向に足を伸ばそうとしないではないかっ!」

「え? 倒して欲しかったの?」

「そ……そういうことではないっ! そういうことではないがお主のそういう態度も違うじゃろ、ロール的に!」

 

 あ、そういうメタ的なのOKな感じなのかな……。

 2年くらいこの世界で生きてきて初めて知ったけど。


 なんて追求すると本当に首をはね飛ばされそうだったのでやめておく。

 でも気になるし、いつか解明しよう。


「……まぁ、なんか、倒しちゃったら面白くないかなーって思ってさ。つうかなに、魔王ってば希死念慮とか抱いちゃってる感じなの? 魔王だって死にたくないでしょ? もしかして魔王業疲れちゃった感じ?」

「そんなわけあるかっ! 世界を支配する道半ばで死ねるはずもなし!!」


「ならいいじゃん。俺も死にたくないし。いや、死んでるはずなんだけど。……つううかよく考えてみれば死ねるのかな、俺。永久リレイズのバフでもかかってそうだよなぁ……こんどアリスにでも聞いてみるか。なんかメタっぽいの通用するかもしれないし」


「さっきからなにをごちょごちょ言っておるのだ……。とにかくお主、これまで本分をおろそかにしていたであろう。だからここで一戦、我とたわむれよ」


「……それ本気?」


 俺は問い返す。


「ああ。魔王が嘘など吐くものか」

「まぁいいけどさ」


 世界の三割を支配したとも言われる魔物の長である魔王エリザベート。

 彼女ほどの地位であれば、俺がどういう存在であるかを聞き及んでいるはずだ。


 その前提で俺は問いを投げ、彼女はその目に闘志の火を灯してみせた。


 なら、手を抜く必要はないだろう。


「生憎、武器の類は使わない主義でさ。そこらの防具屋で安く売ってる普通の服で悪いけど、これで相手するよ」

「随分と舐めた真似をするな。それだけ腕に自信があるということか」

「……あるよ。ご存じのとおり」

「……ハハ、威勢のいい男は好きだぞ。勢い余って最悪殺してしまっても恨みっこはなしだ」

「それはこっちの台詞だね」


 エリザベートが玉座から立ち上がり、側にあった杖を手に取った。

 闇の宝玉が埋め込まれたそれは邪悪な黒を宿して妖しく光る。


 俺は拳を握る。

 アクセサリーじみた腕輪を嵌めているだけで、素手だ。

 腕輪には計4つの宝玉を装着している。


 どれもお手製。

 自分で丹念に錬成した、この世に二つとないオリジナルだ。

 そこそこ貴重なので普段はあまり使わないようにしているが、こうなることを想定して念のために持ってきておいて正解だった。


「拳一つで一体どうしようというのかね」

「すぐに見せてやるから焦るなって。その言葉、弱く見えるぜ」

「ハハハッ! その余裕、すぐにでも剥ぎ取ってやるぞ!」


 エリザベートの哄笑に呼応するかのように空気が震撼する。


 この世界の魔力の源――マナが、彼女の握る杖へと収縮していっているのだ。

 なるほど魔王だけのことはある。

 操ることのできるマナの総量が半端ではない。


 まともにくらえば五体もろとも塵一つ残らず消え去る熱量が俺の頬を嬲る。


「我が最強の魔法をくらうがいいっ! ――カオス・アルティマティカ!」


 魔王の咆哮。

 終焉の悲鳴。

 俺とエリザベートの間で爆散する暗黒。

 波濤のように押し寄せる閃光。


 ただ。

 エリザベートはそもそもを間違えている。


 そんな程度の魔法は、俺の前ではなんの意味もなさない。

 傷一つつけることすらかなわない。


 俺はただ、そこに拳を重ねるだけでいい。


「…………なっ」


 エリザベートの顔が驚愕に染まっていた。

 まぁ、無理もない。

 きっと、何百年も生きてきて、俺みたいなのに出会ったことがなかったのだろう。


「…………ば、かな。あれだけのマナが……消えた……?」


「悪いね、魔王。マナはもらったよ。これで当分、生活には困りそうにない」


「何を言っている……。お主、一体なにをしたっ!」


「なにって……、そりゃあ、全部吸わせてもらっただけだけど?」


「そんなわけ……、そんな所業が人間ごときにできるわけあるかっ!」


「普通はできないよ? でもほら、俺、スキル開発でその程度のマナだったら全部吸収できる宝玉を作っちゃったからさ」


「宝玉を、作った……だと?」


「うん。つっても『吸収』だけじゃなくて、『分解』と『放出』の宝玉もセットだけど。これ、三位一体なんだよね。どう使うかは、魔王だったら想像できると思うけどさ」


「なっ……、あっ……!」


 ああ、痛快だ。怯えるエリザベート。そういう表情は実にそそられる。


 最近は尊敬の眼差ししか浴びてなかったから、畏怖を抱いて怯える視線は久しぶりだ。


 尊敬よりもずっと、自分が強者であることを自覚できる。堪らなくぞくぞくする。


 俺はエリザベートの横を通り過ぎ、彼女が先程まで座っていた玉座の前で立ち止まった。


「なにを、するつもりだ」


「怖がらなくていいよ。命までは取りはしないから。ただ、ちょっとやってみたいことがあってさ。恨みっこなしって約束したし、言質も取ったから、構わないよね? これまで色んなゲームやってきたけど、こればっかりは話の流れでよく分からない感じで壊れたりしたからさ、一度、きちんと自分でやってみたかったんだよね」


「壊すって、その玉座を、か……?」


「いやいや、何言ってるのさ」


 俺は笑った。

 いやぁ、想像するだけでわくわくするね。




「吸収したマナをぶつけてさ、魔王城、壊したくなっちゃった」

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