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初めてのトリュフ

一時間目から睡魔と戦っていた。

何しろ昨日は殆ど寝てなかったからだ。


国語教師の奏でる古文の授業はまるでラ○ホーやス○プルの魔法のように俺を夢の世界へ誘うが、成績が悪くなるとますます弟に舐められてしまうので、ひたすら睡眠欲と戦っていた。



もちろん、戦闘の間の記憶がないので、俺は何の為に戦ったのかがまったくわからなかったが、、、気づくと昼休みになっていた。




昼休みが始まると、やっぱり神埼さんが背後に立っている。段々とこの瞬間を期待している俺の心境の変化に驚きだ。


いわゆるお約束というのは時としてツボにハマるものだし、仕方がないのだけどね。


しかし、対照的に教室内がざわめくという事はなくなった。とうとう、俺の容疑が晴れたということなんだろう。



大体、神埼さんと俺が付き合えるわけないだろ?

やっとわかってくれたのか。



そうは言っても、今日から神埼さんにアプローチしなければならないんだよなぁ。


でないと小葉がどうなるかわからない。



付き合えるわけないのにどう攻略すればいいんだろうか?



「ねぇ、蒼井君。神埼さんと付き合うのは別に良いけど、いかがわしいことなんてしてませんよね?」

俺が考え事にふけっていると、斜め後ろに座っているメガネの委員長が突然そんな事を言い出した。


俺は委員長の言葉を必死に否定しようとして、あることに気づくこととなる。







時計の秒針の音がはっきりと聞こえるのだ。







そう。賑やかな筈の昼休みに秒針の音以外、物音一つしない空間が出来上がっていた。

一瞬、時間停止でもしたのかと勘違いしそうになったけどそうではない。



ヤベェ。

よく見ると皆、聞き耳を立ててやがる。



「いかがわいしい?私が?伊織君と?」


何を想像したのか神埼さんが真っ赤になってしまった。いや、ナニを想像したんだろうけど。



やめろ。

その反応は絶対に誤解される。



誰かが指笛をピューっと吹き、それが合図だったかのようにみんながざわめく。


そして、数人が俺たちに無遠慮に質問を始めた辺りで、俺は神埼さんの手を取って教室を飛び出した。



手なんか引いたら、余計に誤解されてしまう。

そんなことはわかっていたよ。



それでも、、下ネタな質問を受ける度に更に真っ赤になっていく神埼さんを見てられなかったんだよ。



でも、冷静に考えると『いかがわいしい』とか『エッチな』とか『イチャイチャ』とか、かなりソフトな下ネタとも言えない言葉にそんなに反応するか?



あれ?

もしかして、、、


そういうことなのか?




神埼さんがまさか『ムッツリ』だなんて。




もしかして、あんな清楚な見た目して、頭の中は18禁な妄想だらけなのだろうか?


やっぱり、オンナゴコロってわからない。



俺は複雑な思いで屋上に向かうのだった。







「えっ、放課後、小葉さんも一緒に帰るの?」

神埼さんが普段から大きな目を更に大きく見開いて驚いていた。



屋上に着いたので、昼飯を食べる前に神埼さんへお願いをすることにしたのだ。


もうちょっと具体的に言うと『小葉とも一緒に帰りたい』と話した。


「神埼さん、ごめん。ちょっと今は小葉から目を離したくなくて。」


「なに?気持ち悪いんだけど。伊織ってそんなキャラだっけ?」

小葉は大嫌いなニンジンを食べた時のように

しかめっ面で俺を見つめる。


『裏表の無さすぎる性格が時に人を傷つける』ってことを小葉は少し学んだほうが良いのかもしれない。



「小葉さん、大丈夫だよ。私は伊織君をとったりなんてしないから。」

神埼さんが見当違いのフォローをしてくれるが

そうではないんだよ。



小葉と一緒に帰りたいとか不自然過ぎなのか?



でも、彼女から目を離したらあの美人に狙われてしまうかもしれない。


それと同時に神埼さんにアプローチしなければならないってことだよな。はっきり言って無理ゲーだよ。

心が折れそうだ。



「伊織君、どうしたの?」

神埼さんの潤んだ瞳が俺を正面に捉える。


その透きとおった瞳を見つめると、まるで心を覗きこまれているかのように感じられてものすごく居心地が悪い。



「いや、なんでもないよ。それよりこの玉子焼き、、、オエッ、、、相変わらず、、、個性的で味わい深い味だね。」

俺は居心地の悪さを誤魔化すように四角くて黒い塊を頬張った。





さすが、美少女でお金持ちの神埼さんだ。



まさか、ここまでとはな。










相変わらず、炭の味しかしやがらねぇ。




「ありがとう。隠し味にトリュフを入れてみたの。」

神埼さんは頰を上気させて得意げな様子で微笑む。

その顔は本来ならドキドキものだが、俺は別の意味でドキドキしていた。



『まるで成長していない』


その言葉が嗚咽とともに口から漏れ出しそうになる。




それに、トリュフが隠れるのが上手すぎて、全く炭の味に影響していないのも神埼さん品質【クオリティー】なのだろう。



「そっか、、トリュフ初めて食べたよ。あっ、、そう言えば口な‥‥えっと、食後のデザートにこれでもどう?」

あっぶねぇ、もうちょっとで口直しって言いかけたな。



俺は結衣ちゃんに貰った包みを開いて、中身を取り出す。そして、中身を見て頭をハンマーで殴られたかのような衝撃を受けた。




袋に真っ黒な物体Xがギッシリ詰められていたのだ。

まさか、結衣ちゃんまで神埼村の住人だったのか?




炭を食べた口直しに炭を食べないといけないのか?

なんの罰ゲームだよ?



「いただきます。うむっ、、もぐもぐっ、おいしいね。」

しかし、小葉がなんの躊躇もせずに口にブツを放り込む。しかも、満面の笑みでそう告げたのだ。



「本当ね。美味しい。特にクッキーの周りにコーティングされているビターなチョコと中身のクッキーの甘さが絶妙だわ。」

神埼さんも顔を綻ばせていた。



しまった。

炭じゃなかったのか?

気付くと小葉が全て食べてしまっていた。




結衣ちゃん、ごめん。俺、一個も食べれなかったよ。




「神埼さんの恋愛話聞いてみたいな。好きな人ってどんな人なんだ?」

そう、結衣ちゃんに想いを馳せてる場合ではなかった。神埼さんにアプローチしないと。


何かとっかかりがないかと思い、例のぶっ君について聞いてみることにした。



「えっ、あっ、、好きな人ですか?ぶっ君って言うの。彼はそうね、、、今でいう、、ツンデレな性格だったわ。」

真っ赤に頰を染めて答える様子を見ていると、神埼さんが本当に彼が好きなんだと思いしらされた。



俺はどうすればいい?

彼女の一途な想いを踏みにじればいいのか?




「えっと、、それで、そのぶっくんが神埼さんと付き合ってないというのが信じられないんだけど、許婚も今は居ないんだよね?」

そう、そこまで神埼さんが惚れてるのに相手を落とせなかったのか?


ぶっくんがどんな奴か全く想像がつかない。



「うん、あんなことしておいて、どの面下げてぶっ君に会えばいいか分からないの。」

神埼さんは不安で瞳が揺れている。



「えっと、、謝ったらいいんじゃない?そして、好きって言えばいいんじゃない?私ならそうするよ。」

小葉らしい、シンプルな答えだけど、、、、、


お前、オトコ好きになったことねぇだろ。



「うん、そう出来たらいいんだけどね。私には難しいの。うん、難しいの。」

神埼さんはそう噛みしめるように呟いた後、俯いてしまった。



「だったらさ。新しい恋とかどう?よく告白されてるし、その中で良い人とか居なかったのか?」


「えっ、あっ、恋愛はちょっと、、、」

神埼さんが言い淀む。


ダメだ。


神埼さんにアプローチするどころか、彼女は恋愛に対して消極的過ぎる。

あんだけモテるのに草食系女子だったとはな。



「神埼さん家はお金持ちだから、そのうち、また許婚が出来るんだって。」

しかし、そうではなかったらしく、小葉が神埼さんの秘密をあっさり暴露してしまった。


「こら、小葉。そういう話を簡単に他人にしちゃダメだろ?ウワサとか流されたらどうするんだ?」



「???でも??伊織、、ウワサなんて流さないよね?友達、1人しか居ないし。」

小葉ってば俺が『トモヤしか友達が居ない』と言いたいのか?


神埼さんに誤解されたらどうするんだよ?





まぁ、図星だけど、、、





思わず『小葉も神埼さん以外に友達居ないだろ?』って言い返しそうになったけど、神埼さんの目の前で言われる小葉が不憫過ぎるからやっぱりやめておいた。




それにしても、、、許婚か、、?


こんなのモノにしようがないだろ?




結局、昼はこれで終わり、昼の授業で不覚にも居眠りしてしまった。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 周りからされるがままで蹂躙されるだけの主人公というのは読んでいてそれなりにストレスたまります。隣家の女の子が想いを込めて作ってくれたクッキーをデリカシーの欠落したアホな幼馴染に全部食べ…
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