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初めての涙

神埼さんと別れておよそ2分後。

見上げると空が薄暗くなっており、今にも雨が降り出しそうだ。



雨に降られないように走り出した瞬間、背後から声がかかった。


反射的に急減速して振り返る。



「御機嫌よう。」

金髪碧眼の美女が立っているが、もちろん俺の知り合いではない。


それに、よく見るとかなりの美人さんだ。


しかし、彼女の昏い瞳を見て、俺は警戒心をMAXまで引き上げることとなった。



「えっと、、誰ですか?さすがに一度でもちゃんと会っていたら忘れないはずですけど。」

そう、金髪碧眼の美女だし、ボンキュッボンな体型で見るものを虜にするだろう。



具体的には胸とか太ももに目が行ってしまうのは男だったらしょうがないと思うな。



ゲフンゲフンッ、、、決してガン見してしまった俺の自己弁護ではないよ。それは本当だ。



まぁ、神には誓えないけど。



「こんな美女を忘れるだなんて切り枯らすべきかしら。‥‥やだわ、冗談よ。」

そう言いながらも美女の目は笑うどころか、氷点下の温度を保ったままだ。




「で、どんな御用件でしょうか?逆ナン‥と言うわけでもないですよね?」

俺は探るように言葉を紡ぐ。何しろ、相手の出方がまるでわからないのだ。



「フフフッ、面白い冗談だわぁ。本当に切り枯らされたいのかしら?」

涼やかな声なのに言っている内容は普通ではない。

人間扱いすらされていないなんて。



「前置きは良いですから、早く本題を話してください。」

俺は彼女と目を合わせる事もなくそう告げる。



だって、彼女と目を合わせたら彼女に取り込まれてしまいそうになる。



あの瞳はヤバイ。



都会っ子の俺が本能的にそう感じられる位なのだ。



「そうねぇ、、、お願いがあるの。」

美女は少し考えるフリをした後に、砂糖菓子より甘ったるい声を出す。


「えっ、お願いですか?」


「そう。お姉さんからのお願い。さっき一緒に居た女の子。あの子を貴方のモノにして欲しいのよ。貴方なら簡単でしょ?」

まるで俺を口説いているかのような甘美な声で魔女は俺を唆す。



「いや、意味がわかりませんよ。そのお願いを聞いたとして、、、成功する自信は全然ないんですけど。」



「何を言ってるの?それとも、トボけているのかしら?」

俺の発言はかえって彼女の警戒心を煽ってしまっただけのようで、彼女が苛立ちを隠そうともせずに俺を責め立てた。



「いや、その前に俺は神埼さんに恋なんてしてないんですが」


「ふぅん、私のお願い聞いてくれないのかしら?残念だわぁ」

言いながら彼女が少し目を細めただけで、俺は肺を掴まれたかのような息苦しさを感じる。



しかし、細く息を吐き出し、なんとかギリギリの所で平静を保ち、言い放ってやった。


「残念。見知らぬ美女の頼みを聞くほど、俺は色男じゃないんだよな。それじゃ、さよなら」

そう言って俺は足早にその場を去ろうとしたが、背後から美女の声が聞こえた。



「‥‥小葉ちゃん。綺麗な指してるわね。」

背筋が凍るなんて生易しい。


全身が凍りつくような冷たい声色だった。



そう、小葉は将来有望なピアニストだ。

でも、友達は居ない。

いや、神埼さんが居たか。


とにかく、何故、いきなり小葉の話が出てきたのか、、、



「なんで、小葉のこと知ってるんだ?」

思わず振り返った俺はバカだっただろう。

だって、俺は完全に彼女の術中にハマってしまったのだから。



「ウフフッ」

彼女は爛々と目を輝かせて微笑んでいる。

端的に言うとアタマおかしい様子だ。



まさか、小葉を人質にするつもりなのか?



小葉は大切な家族 (みたいなもの)だ。

本当に神埼さんをモノにするしかないのか?


もともと成功率が低い上に、成功しても俺にはメリットがないときたものだ。でも、やるしかないんだろうな。



「くっ、真剣にやったところで、成功するかなんてわからないけどやってやる。」


「フフフッ、心変わりしたのかしら?お姉さん嬉しいわぁ。」

こうして、俺は完全に彼女の手の平で踊る人形となってしまった。



「ごめんなさぁい。それじゃ、バーィ」

美女は俺の言葉に満足したのかその場を後にした。



美女が去ると、俺はその場にへたり込む。



どうすればいいんだ?

本当に神埼さんにアプローチをかけるしかないのか?


そのアプローチが失敗しても小葉は無事で居られるのだろうか?


大体、何者なんだよ?

あんな美人、一回見たら忘れないと思うのにまったく思い出せない。




ツッ‥また頭痛か?

まったく、肝心な時に働いてくれない頭だな。








考え込みすぎたようで、どうやって家の近くまでたどり着いたのかわからない。

とにかく、家は目の前だった。



「あっ、伊織さん。どうしたんですか?」

結衣ちゃんが家からちょうど出てくるとこだったようで声をかけてくれた。


「いいや、何でもないよ。」

なんでもなくはないけど人には話せる話じゃないからな。


「何か辛いことでもあったんですか?」

結衣ちゃんは心配そうな顔で俺を覗き込む。


「いやっ、なんで?」


「だって伊織さん、酷く辛そうです。」

クッ、、、まさか小学生でも分かるほど露骨に辛そうな表情を浮かべていたのだろうか?


小葉にはバレないようにしないと。


俺はその場は取り繕って結衣ちゃんと別れたけど、家に帰ってからもずっと悩んでいて、殆ど寝れずに夜が明けた。






翌朝、重い心と身体を引きずって玄関のドアを開けると、目の前に結衣ちゃんが立って居た。


「あれっ、結衣ちゃん、どうしたの?」


「伊織さん、はいっ。私はこんな事しか出来ないけど、食べて元気出して下さい。私はいつでも伊織さんを応援してますから。」

結衣ちゃんは紙包みを俺に手渡すと、こちらの様子を伺うように顔を覗き込んだ。



その瞳は不安で揺れていたが、本気で心配してくれていたのが鈍感な俺ですらわかった。



昨日からずっと心配してくれてたんだ?



色んな思いがこみ上げて思わず泣いてしまいそうになったけど、照れ隠しに結衣ちゃんの頭を雑に撫でてお礼を言うと、顔を見られないようにそのまま学校へ向けて歩き出した。


そう、たぶん俺は泣いていたと思うから。



感想頂けると嬉しいです。


たぶん、今回の話は暗いノリであまり面白くないかもしれませんが、、

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