初めてのストーカー
感想とかくれると嬉しいです。
放課後、また神埼さんと2人きりで校門を出た。
校門までの道中の周りの人達の態度は相変わらずで、驚き、嫉妬、羨望、疑惑など色々な視線を無遠慮に俺に向けてくるのだ。
俺が女の子ならシンデレラストーリーのように少し夢見心地な気分でいられたかもしれないが、幸い俺は現実的な男だ。
神埼さんが俺に関心がないことくらいわかり過ぎるくらい分かっていた。
校門を出てから神埼さんと結構長く歩いているが相変わらずお互い無言。しかしここ数日で段々慣れてしまったのか、無言もイヤでは無くなってきた。
そして今日神埼さんが連れてってくれたのは有名ハンバーガーチェーン店のドエムドバーガーだ。
本当に庶民的な店で安堵したよ、またフランス料理店とか連れていかれたらどうしようかと思った。
俺は『神埼さんも日々成長しているんだな。』なんて親目線で彼女を見つめていた。
「今日はここでご馳走するわ。好きなだけ食べて。」
神埼さんが胸を張ってそう言いながらスタスタ店中に入っていく。
そして、店に入った途端、足を止めた。
その後、ニッコリと得意げな笑みを浮かべる。
そして、軽く左右を見渡しはじめた。
どうやら何かを探しているようだ。
あっ、神埼さんは正面に人が並んでるのに気づいてビクッとした。その仕草が、いつもとのギャップが激しくてなんだか可愛い。
そして、カウンターにようやく並び始めた。
「並びましょ。」
神埼さんは恥じるように頰を赤らめる。
そこで、俺は初めて神埼さんの失敗に気付いてしまったよ。
マ、マジでドエムドバーガーでの注文の仕方がわかんなかったのか?
最初得意げな笑みを浮かべたのって、もしかしてファミレスと同じ頼み方と思った?
そう考えると、初めて覚えた言葉を得意げに言う使う子供と一緒で、なんだか微笑ましい気持ちになってきた。
「何笑ってるのよ?あっ、私の番だわ。あっ、2名なんだけど、、えっ、注文?えっ?席に座って注文するんじゃないの?あうっ、あっ、、蒼井君、、、」
神埼さんは上目遣い+ウルウルした瞳でこちらに振り返り、助けを求めている。
神埼さんが、なんだかもの凄く幼く見えた。
しょうがないので、彼女の好みを聞きながら注文して、ようやく座ることができたよ。
なんだろ、、、この子と居るとなんだか疲れるんだけど。
「ありがとう、それじゃあ、ご馳走になるな。」
手近な席に座り、ハンバーガーに齧りつこうとしたところでなぜか隣から声をかけられた。
「うわっ、隣のやつ女に奢らせてたぞ。って蒼井君じゃねぇか?えっ?もしかして彼女なのか?ありえねぇ。」
「いやいやいやいや、彼女とかじゃないから。
ほんとやめてくれない?‥君」
そう、俺は彼の名前も顔も思い出せなかったのだ。
「もしかして、小学2年の時、同じクラスだった俺の名前覚えてないとか?チョーショックゥ。俺だよ山田だよ。」
「ああぁっ、そ、そうだった。や、山田君、久しぶり、元気にしてた?」
俺は努めて明るくそう返したんだが、
「ブーッ、不正解〜っ、俺ちゃんは山下君でしたぁ。」
何故だか彼は山下君だった。
いや、正直やっぱり思い出せない。
というかなんだかムカつくんだが、殴っちゃダメかな?
「はぁ〜っ、いや、やっぱりお前、山下君じゃねぇだろ?」
「せいかーい、俺ちゃんは山下君じゃありません、果たして本名は「ちょっと中島君、私ほっといてなにしてんのよ。もう、帰る。」
中島君の彼女なのか女友達だか分からない人は怒って帰っていった。
「あれ?追いかけなくていいの?」
大して中島に興味はないけど、さすがに可哀想になってそう尋ねたが、、
「さて、俺は山下君じゃなくて誰でしょう?ヒントは最初の一文字めは『な』だよん。」
思ったより中島はバカだったようだ。
「ところで神埼さん。前から聞きたいことがあったんだけど。いいかな?」
答えが分かって興味を無くしたので中島は無視することにした。よく考えたら、やっぱり思い出せないし。
「うん、いいよ。それにしても、蒼井君が私に質問なんてするの初めてだよね。」
「だってこんなにドキドキしたのは初めてだからな。」
そう。神埼さんと一緒に歩いていると、常に誰かにつけられている気がするんだ。
これって尾行だよな?
ドラマとか漫画でしか見たことのないことを実際に体験出来てドキドキした。
でも、たぶん、これってストーカーの仕業なんだろう?だって、俺にバレるくらいなのだ。
あれはプロの仕業ではない。
「えっ、ドキドキってホントに?ごめんなさい、私は好きな「いや、謝る必要なんて全然ないぜ。ストーカーなんだからな。むしろ、調子に乗ってしまった俺が謝らないといけないな、ごめんな。」
神埼さんはストーカー被害にあっているのだ。それなのに、、俺は思わずドキドキして、、、はしゃいで、、バカだ。神埼さんにとっては恐怖の対象でしかない出来事なのに。
「えっ??ストーカーなの?」
俺は平謝りするつもりだったが、どうやら神埼さんは気づいていなかったらしい。
言わない方が良かったのかもしれない。
「あれ?もしかして気付いてなかった?」
「‥‥こんな身近にストーカーがいるなんて思わなかったよ」
神埼さんは呆然とした表情を浮かべ、呟いた。
「えっと、、、身近にストーカーって、、、、、、、もしかして、中島、お前か?」
俺は当てずっぽうに中島を指差した。
もちろん、そんなはずはないのだが、この場にはこの3人しか居なかったんだ。
しかし、まさかリアル『犯人はこの中に居る』を体験できるとは夢にも思わなかった。
「当たり。さすが蒼井君だな。蒼井君なら当ててくれると思ってたぜ。」
中島は悪びれもせずに満面の笑みで自らの過ちを認めた。
俺はカァッと頭に血が登って、殴ってしまったが、後で勘違いに気付いて2人に平謝りすることになった。
そう、『神埼さんの使用人の1人が心配で遠くから見張ってくれていた。』だけだったのだ。
ちなみに、中島は俺が名前を正解したから、喜んだら俺に殴られただけだ。
ホントに悪いことをした。
謝ったら笑って許してくれるあたり、中島って意外にうつわが大きい奴なのかもしれないな。
「今日は悪かったな。それにしても、男の使用人に尾行させてるとやっぱりストーカーに間違えられるんじゃないか?」
店から出て、別れ間際に神埼さんにそう尋ねると、彼女の身体がビクンと跳ねた。
「そ、そうね。き、気をつけるわ」
そして、取り繕うように言葉を紡ぎ出したが、その声色は暗い。
正直、気になったし、もう少し追及してみたいがそうもいかないだろうな。
彼女と俺は今はたまたま半径1メートル以内に居る。
しかし、物理的な距離と違い、精神的な距離は赤の他人くらいかなり遠い場所にいるのだから。