初めてのクリームブリュレ
結局、校門をくぐる時にはいつものボッチスタイルで俺はいつも通り足早に教室に向かう羽目になった。
しかし、ちょうど校舎に入ろうという所で背中にゾクリと冷たい物が流れた錯覚を起こして振り返る。すると、校門前にふわりと揺れる金髪姿の美女が見えた‥ような気がした。
いやいや、冗談だろ?
もう、あの話は終わったはずだ。
俺は嫌な予感を振り払うかのように無意識のうちに頭を振ってから足早に教室に向かう。
あれ?
今日はトモヤは休みなのか?
教室に入ると自動的に俺の視線はトモヤの席に注がれる。
しかし、その席は主人不在で寂しそうに漂っていた。
はぁ〜っ、居ないのか?
寂しすぎる。
いや、こういう時は俺が長年培ったスキルの使いどころだな。
俺は机に突っ伏した。
そう、秘奥義、寝たふりだ。
ヒソヒソ話が俺の悪口を言っているように感じるのは俺の被害者妄想なのだろう。
それがわかっていてもなんだか落ち着かない。
そう、トモヤがいたお陰でいままでボッチが回避できただけで、俺に他の友達なんてものは居ないからな。
「あの男がさ‥」
「え〜、なんだか‥‥」
周りの人間が、こそこそ何か言っているのが全て俺の悪口に聞こえてしまうのだから、本当に困ったものだ。
トモヤと居る時は周りの声なんて全然気にならないのにな。
はぁ〜っ、今日の昼飯は便所で食べるしかないか。
はぁ〜っ、芽愛と同じクラスならボッチどころか幸せいっぱいなんだけどな。
ガラッ。
扉が開く音がして視線を上げると、先生、、その後ろに少し背が低いイケメンが教室に入ってくる。
ダレだ?
イケメンはトモヤだけで充分だ。
いや、トモヤはちょっと年齢より大人びて見えるが彼はどちらかと言うと少し幼めだ。
頭頂部のピンと跳ねた髪さえ彼の魅力を引き立てているように見えるのがイケメン故だとは思うが。
「みなさん、今日は転校生が来たから紹介するぞ。皆さん、仲良くね。」
「はじめまして。俺は八千代家の長男、八千代健太郎様だ。気軽に八千代様と呼んでくれ。」
特にお辞儀もせずに堂々とした態度は中々なものだが、あんな態度でいじめられたりしないのだろうか?
案の定、疎らな拍手がパチパチと聞こえるだけで、彼に視線を合わせるものはだれもいなかった。
休み時間になっても転校生の周りに人が集まることはなかったが、それが変わったのが昼休み。スィーツがみんなに配られた。
どうやら、転校生は金持ちだったようだ。
俺の前にはクリームブリュレが置かれていたが、近くの女子が食い入るように見つめていたので、結局、あげてしまう。
すると、なぜだか、その女子がクリームブリュレを盛大に吐き出して、涙目でこちらを恨めしげに見つめていたのだった。
なんだ、ベタベタだが、作るときに砂糖と塩でも間違えたのだろうか?
そして、なぜだかこの日から放課後から地獄が始まったのだった。




