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初めてのチュ〜


芽愛はまだ、頰に赤みが残っていていつもより3割り増しで可愛い。


ちなみに俺の頰もまるで火で炙られたかのように熱くて仕方がないが、きっと俺の頰肉は食べても美味しくないだろう。



いや、食べたらだめだろ?



自分で何言ってるんだか?芽愛だけじゃなく、俺もかなり動揺しているな。



それも少し落ち着いてみれば解決するだろう。

時間ってのはそれだけでクスリになったりもするものだ。


‥‥‥‥‥‥


‥‥‥‥‥‥‥


‥‥‥‥‥‥‥‥?


‥‥‥‥‥あれ??


かなりの時間が経過して、俺は少し落ち着いてきたのだが、芽愛は正気を取り戻すどころか、ますます酷くなっている。



髪はかきむしったのか普段のサラサラストレートの黒髪が見るも無残な密林と化している。


そして、いつも皮肉と生意気さに彩られている瞳が、今は生気が全くうかがえない虚ろ色だ。


そして、桜のように色づいた唇からは『違うんです、違うんです』という言葉がまるで呪詛のように垂れ流されていて、控えめに言っても怖い。



どうする?

ドウスル?

DOする‥‥ってダメだぁ、ちょっと落ち着け。こういう時は‥‥



スゥ〜ッ、、、、、、、ハァー。

スゥ〜ッ、、、、、、、ハァー。

スゥ〜ッ、、、、、、、ハァー。

スゥ〜ッ、、、、、、、、、、ハァー。




俺は呼吸を意識して雑念を払うと、今度は思考の海にダイブし、そのまま深く沈み込む。


沈み込むにつれて、深海のように自分以外の全ての存在が希薄になっていくのを感じるが、それも構わずに沈み込見続けていく。


すると、最適解が俺の脳に浮かび上がった。



‥‥⤵︎いや、まぁ、あまりやりたい方法じゃないし、やっぱりやめておこう‥‥かな?


チラリと芽愛の様子を窺うと、『違うんです、違うんです、違うんです。』と壊れたレコードプレーヤーのように呟き続けている。


正直見ていられないな‥。


はぁ〜っ、しょうがない。

やるしかないよな。


俺は肺に思いっきり空気を取り込んでそして言葉とともに吐き出した。


「いやぁ、王子様なんて呼んでくれてめちゃくちゃ嬉しいなぁ。」


俺はさも嬉しくて仕方がないかのように満面の笑みを浮かべる。


しかしその瞬間、全身にサァ〜ッと鳥肌が立ってしまった。明らかに自分の発言に身体が拒否反応を起こした証拠だ。



しかし、俺の事なんてどうでもいい。


これで、芽愛をこっちに呼び戻せた筈だ。

ただ、こんなヤバイ台詞、2度は言えないな。俺ってば本当によくやっ‥‥



「えっ‥‥‥?」



しかし、人生というのはいつでも無情なものだ。芽愛は上手く聞こえなかったのか、首を傾げている。


う、ウソだろ?

じょ、冗談だよな?

冗談だと言ってくれ。


縋るような目で見つめても、彼女は反応を示さない。


ぐぬぬぬぬっ。

ま、マジか?


もう一回やるの?

いや、マジで嫌なんだが‥‥

ほんとにほんとにイヤだからな。

なんと言われてもイヤだからな。


‥‥‥‥?

チラッ‥‥。


彼女は未だにこの世に帰ってこないのか、瞳に光が宿らない。


‥‥ふぅっ、しょうがないかぁ。


よしっ、やるぞっ。


‥‥やっぱり嫌だぁ〜っ。



またも芽愛を見ても、なにも変わらない。

‥‥やるしかないんだよな?



「いやぁ、王子様‥‥なんて呼んでくれてめちゃくちゃ嬉しいなぁ。ウゲェ」


身体が更に拒否反応を示して、思わず彼女の部屋で吐きそうになってしまった。


頼む。

頼むから今度はちゃんと聞いててくれ。


しかし、期待というのは外れるためにあるのかもしれない。



「えっ‥‥‥?」

聞き返す芽愛の声がまるで絶望の色を帯びているようにすら感じられた。



ま、マジ?

さすがに3回目は‥‥‥きっと、今度こそリバースしてしまうだろうなぁ‥‥初めて彼女の家に来て、彼女の部屋でリバース‥一生もんの思い出だよな。

‥‥間違いなく黒歴史だろうけど。



とはいえ、あんな状態の彼女をそのままにしておくことは俺には出来なかった。


いや、こうなったらヤケクソだ。

死ぬ気でやってやる。


スゥ〜ッ。

俺は息を思い切り吸い込んだ。

またも全身に鳥肌が立ち、胃から何かが込み上げてくる。ダメだ、生まれる。絶対俺の口からアレが生まれてしまう。



それでも、男にはやらなくてはいけない時があるのだ。



「いやぁ、王子「ウフフッ、嘘です。ちゃんと聞こえてました。」


そして、俺が例の言葉を言っている途中で芽愛が割り込んだ。


芽愛ら何がそんなにそんなに楽しいのか、満面の笑みを浮かべているが、俺が驚いたのはそこではない。



う、ウソだろ?

まさか、2回目で聞こえていたのか?

知らず知らずに芽愛に殺意が湧いてしまう。



いや、まて、こんなの彼女のお茶目なイタズラだろ?



「せ、先輩。そんなに怖い顔してどうしたんですか?もしかして、怒ってしまいましたか?」


今度は泣きそうに震える瞳を、それでも決してそらさず、上目遣いにして覗き込んだ。


『視線がまるで温度を持っているかのように熱い。』のは錯覚だってわかっている。だって、俺の頰が熱いんだからな。


浮つきすぎる気持ちを振り払うかのように無理矢理首をブンブン振った後に、少しは落ち着いた頭を働かせた。


「いや、芽愛の部屋に来て緊張してるのかな。ごめんな、、怖がらせて。」


「フフフッ、いいですよ。私もすごく緊張してるみたいですし、お互い様ですね。」


芽愛は何がそんなにおかしいのか、また満面の笑みを浮かべている。



もしかしてチャンスじゃないか?



俺はそろり、そろりと慎重に芽愛に顔を近づける。



そして、キス‥‥‥の前に目が合った

‥‥‥‥彼女のお母さんと。



「え〜っと、、、お母さん、なんでカメラを構えているんですか?というかいつの間に部屋に入ってきていたんですか?」


まったくもって人の気配がしなかった。



一体、俺はいつから。

いつから芽愛と2人きりだと錯覚していた?



というか、どこから聞かれていた?

いや、その前にお母さんは何か小声で呟いていた‥‥違うっ、、う、歌っているのか?


「てぇ〜ノォ〜、チュ〜」

ってあの歌?


というか娘の初キスを撮影しようとする母親‥ヤバ過ぎる。


「あの‥私の事は気にしないで、続けて続けてて。」

まだ、カメラを構えている。

なんなのこの人。



俺がお母さんを非難のこもった瞳でジィーッと見つめていると、今度は娘である芽愛が、俺の頰を平手打ちした。


パァ〜ンというやけに乾いた音が室内に響き渡る。


同時に俺の頰が先程までとは別の意味で熱をもつ。

無意識に非難めいた視線を芽愛に送るが、芽愛も負けてはいなかった。



「ほかの女にそんな熱い視線を送っちゃあダメです。今度そんなことしたら殴るからね。」


目と鼻の先の距離まで顔を近づけた芽愛にドキッとするよりも気になることがある。



それは、


『もう既に殴ってんじゃねぇか〜』

ってことだ。



『これは脅しじゃあ、ありませんよ。』なんて言葉でめちゃくちゃ脅してくるその道を極めた人の言葉と一緒で、言葉の通りの意味じゃないのかもしれない。



やっぱり、オンナゴコロはさっぱりわからん。



結局その日はグダグダしたままお家デートは終了してしまった。


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