初めてのお菓子
「で、今日はどこに行くんだ?」
「あっ、言ってませんでしたっけ?私の家にいくんです。」
‥マジか?
えっ、いきなり?
えっと、、財布の中にアレが入ってたよな?
だ、大丈夫‥び、びびってなんていないんだからね。
「あの?ホントにいいのか?」
「‥‥。嫌がるかと思ってたのにすごく乗り気で嬉しいです。初めてですし、すごく緊張しますよね。」
芽愛は唇を舐める。どうやら無意識のようだけど、なんだか艶かしくてドキドキする。
もしかして、もしかしなくても誘ってる?
あっ、一つでは足りないのか?
「おぉおっ、、芽愛、ちょっとコンビニ寄ってかない?」
「そうですか?先輩、すごいです。さすが気が利きますね。そうですよね、必要ですよね」
えっ?
必要ないと思ってたのか‥普通要るだろ?
「‥大切にしていきたいし、当然だろ?」
「‥‥先輩。思ったよりしっかりしてるんですよね。見直しました。」
はにかんだ芽愛の頬は僅かに赤みがさしていた。相変わらず、すごい破壊力の笑顔だ。
「いや、芽愛の事は大切にしたいからな。」
「ふふふっ。先輩ってば、私のこと考えてくれているんですね?嬉しいです。」
そう言われて、近くのコンビニに入った。
えーっと、アレってどこに並んでったっけ?
俺はなるべく薄い0.01mmのそれを手に取った途端に手の甲に激痛が走った。
「イッテェ〜〜ッ、何するんだよ?」
そう、芽愛が俺の手の甲をつねったのだ。
しかも、割と本気で‥‥
恋愛ゲームで決定的な選択肢を間違えてしまったかのような。そんな芽愛の急変に、俺は戸惑いを隠すことができなかった。
マズイ、もしかして0.01mmは芽愛の好みではなかったのか?もっと分厚い奴?
「えっと、、芽愛の好みはどれなんだ?」
俺は縋るように芽愛の目を見つめると、彼女は踵をかえして、別の棚に移動していく‥かと思ったら何も買ってないのにレジの前に立った。
なんだ?
バカには見えないゴムを既に素手で持ってるのか?
「そこの箱詰めのお菓子」
「あっ、12番ですね。」
見るからに外国人が流暢な日本語で商品番号を告げる。
「‥‥じゅ、じゅう‥にばん。ぷりぃず」
芽愛はどうやら番号で頼むのを知らなかったようで、まるで交通事故でもおこしてしまったかのようにオロオロしていた。いや、その前に店員が喋っているのが日本語だとは思ってはいないのかもしれない。
「そう、12番のお菓子一つお願いします。」
俺も慌ててお菓子を指差しながら援護する。
いまいち意味は分からないけど、どうやら買いたいものはお菓子だったのか。
俺の戸惑いを余所に、芽愛は店を出て先々へと歩いていく。そして、俺たちは一言も言葉を交わす事もなく歩き続けていた。
もしかして、軽蔑されてしまったのか?
いや、でも芽愛の発言も紛らわしいだろ。
「あの、、芽愛、違うんだ、わざとじゃない」
「ふふふふっ、先輩ってば何言ってるんですか?バカなんですか?さっきの先輩カッコ良かったです。」
‥‥必死にアレを選ぶ俺がカッコ良かっただってぇ〜?
いや、待て待て、いつもの相原の皮肉だったんだろう。真に受けてはダメだ。普段褒められ慣れてないから動揺し過ぎた。
「いや、まぁ、悪かった。俺は相原の気持ちを大事にしたいからな。」
「先輩。すごく頼もしかったです。」
‥何が頼もしいんだ?
これも皮肉なのだろうか?
全然わからない。
「‥そうか?」
俺はそう答えながら心を沈ませるのだった。
「そこの箱詰めのお菓子」
「あっ、ジュウニバーンスネ。」
中国人が、何か言っています。
えっと、、、マネすればいいのかな?
「‥‥じゅ、じゅう‥にばん。ぷりぃず」
私は思いつく限りの外国語で答え‥られていないかも。日本の店員ですら苦手なのに‥‥
店員さんも、『ワタシ、ニホンゴワカリマセン。』っていう顔をしている。
どうしよう?
もう、泣きそう。
私が無意識に下を向いた時に背後から優しい声が飛んできました。
「そう、12番のお菓子一つお願いします。」
先輩のその声で、店員さんが笑顔になる。
やっぱり、先輩は私が困った時に頼りになる人で、本当にすごい人。
そして、私の彼氏なんだぁ。自然と笑みが溢れるのが止められませんでした。