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初めての相談


翌日の刹那とのいつもの帰り道、俺は好きに関してずっと迷っていた。


「声が暗いけど、どうしたんですか?」

首をかしげる様も相変わらず絵になるが、見ほれたりする余裕はなかった。



「うーん、ちょっとな。まぁ、刹那は気にしなくていいよ。」

「何か悩みがあるなら話してみたら楽になるかもですし、話してみましょうか?」


その時は俺も心が弱っていたのだろう。

言われるがままに悩みを打ち明けてしまった。





「つまり、その好きな人を好きな気持ちが信じられないんですか?」

「要約するとそうなんだと思う。だって、たまたま仲良くなっただけだし、俺の好きってやっぱり歪なんじゃないかな?」


相談してみたものの、俺と刹那では立場が違い過ぎる気がする。



だって、常日頃から告白されまくっている刹那は俺と違い、色んな男を見てきたのだろう。その中から選ぶとなると、やっぱり彼女の好きは『特別な好き』なのかもしれない。



「ふふふっ。それが普通です。私だって好きな人がいますけど、変わった出会い方をしていなければ、好きになっていなかったかもしれません。それに、たまに『変な人』なんて思うこともあるんですよ。」


そういう刹那は今まで見たことのない位、本当に幸せそうで、以前の辛そうな彼女よりはずっと良い。



「でも、刹那が好きになった位なんだから素晴らしい奴なんだろ?」

「もちろん、すごく素敵な人です?」


即答で答えた所を見ると、そうとう凄い男なんだろう。まぁ、あんなにモテる刹那が好きな位だからな。


「どんなところが好きなんだ?」

「そうですね。優しいところでしょうか。」


しかし、それを聞いて拍子抜けする。


そんな男なら幾らでも居そうだし、少なくとも決め手にはならないんじゃないか?



「他にないのか?」

「‥‥カッコいい所です。」


結局、顔かぁ?顔なのか?

いや、まぁ顔ってのも重要なんだけど、確かモデルやってる三年の御子柴センパイですら秒ででフラれていたような‥‥




「そんなんで本当に好きなのか?」

「だ‥‥大好きですよ。別に『お金持ちとか、家柄とか、凄い能力を持っている』なんて言われても何とも思いませんし。もしかして、イオ君、知らないんですか?」


刹那は得意げに人差し指を立てる。

ちょっとイラッとくる仕草だが、美人補正で、なんとなく様になるから不思議だ。


「『知らないんですか?』って何を?」


「好きになるっていうのは理屈じゃないんですよ。ただ、好きなだけ。一緒に居られるだけで幸せ。例え一緒に居られなくてもその人の事を考えるだけで幸せですよ。」


馬鹿みたいにキラキラと目を輝かせて少女のような笑顔を浮かべる刹那。その姿は彼女の言う通り、とても幸せに見えた。


「そういうものなのか?だったら、俺の好きも本物なのかな?」


それが本物の好きなら、なんとなく似てなくもない。少しばかりの希望が心に灯る。


「違います。」

しかし、刹那は容赦なく俺の希望を引きちぎってしまった。


やっぱり、俺の好きは偽物か。いや、やっぱりそつ思いたくはない。



「私の好きは私だけのもので、イオ君の好きはイオ君のものです。そこに貴賎なんてないんです。」


しかし、刹那は最初から俺の好きを否定してなどいなかったのだ。というか、『特別の好き』や、『本物の好き』なんてどこにもないのかもしれない。



はぁ〜っ、、バカバカしくなってきた。


俺みたいに考え過ぎる方が馬鹿なのかもしれないな。『好きなものは好き。』それでいい。



俺だって、好きになるのに理屈なんてなかったし、もしも、、なんて無駄な可能性で自分の気持ちを濁らせることもなかったな。



それに、昨日は自分が徹夜して走り高跳びのトレーニングについて調べた事もあり、ついカッとなってしまったけど、一度くらい無責任な発言をしたからって芽愛のひたむきさは変わらないし、芽愛の面倒くさい性格も正直言うとかなり気に入っている。


心配しなくても芽愛の事が大好きな気持ちに嘘なんてないし、歪んでなんていない。


最初から迷う必要なんてなかった‥のか。


まさか、それを天然系お嬢様に教わる事になるとは予想もしていなかったけど‥



「ありがとう。刹那のお陰で気持ちは固まったよ。もうブレたりしない。本当にありがとうな。」


今回ばかりは素直にお礼を言う事ができた。



「いえ、、お礼なんていいですよ。イオ君の笑顔が見れただけでじゅうぶんですし。」


まるでイケメンの様な頼もしい発言をする刹那には以前の儚さはもう微塵もない。



俺は彼女の変わり様になんだか嬉しくなったけど、頭を撫でるってのはやり過ぎたのだろう。



ひどく気持ち良さそうで、彼女が猫ならノドとか鳴らしてしまいそうだ。



それにしても、目をつぶってそんなに無防備そうな顔を晒して、、俺を男だと思っていないよなぁ。さすがお嬢様だ。


友人としては認めてくれているのかもしれないが、男としてはなんとも言えない気分になる。



「ありがとうな。恋の相談なんてするの照れ臭かったけど、刹那に相談して良かった。」


だから、踵を返して立ち去る。もちろん、感謝の気持ちは紛れもなく真実だったけど、結局のところ俺は自分自身の気持ちでいっぱいいっぱいで、彼女を見てはいなかったのだろう。


「そうですね。良かったです。」


だから、彼女の言葉に昏い響きが混じっているのに全く気付くことが出来なかった。


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