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初めての走り高跳び


何かもかもやる気がでないし、何に対しても興味がもてない。ただ息を吸って吐くだけの機械みたいだ。


それに、世界がモノクロにさえ見える。

まぁ、俺が世界をそんな風に見てても見てなくても、世界は結局のところ回っていて、俺は世界から取り残されていくだけなのかもしれない。


俺がこんなことになった理由ははっきりしている。


どうせ届かないと思ってた相原への想い。


彼氏が誤解だと分かった喜び後の相原の『好きな人が居る』発言の落差で完全にやられてしまった。ちょっと期待してしまったんだろう‥


それにしても、高校に入ってからの相原のこと全然知らないんだよな。



俺が彼女を意識したのは中学の2年の冬。

彼女とは同じ陸上部に所属。


しかし、俺は長距離走。

相原は走り高跳びで、正直、接点らしい接点なんてあるようで、全然なかったのだけど、彼女はとても個性的で人の目をひいた。



いつも、最後まで丁寧に整地する女の子だった。毎回丁寧に整地をし過ぎて、最後は相原だけになっているのがもはや慣例化していた。


最初は気にも留めていなかった。

しかし、毎日遅くまで整地していれば目につくというものだ。結局、俺は相原に話しかけていた。


最初は副部長という立場からの義務感だったのかも。



「毎日、遅いけど、最後まで仲間と一緒に整地して帰ったりしないのか?」

「私、整地が好きなんです。」


相原が初めて笑顔を見せた。

その笑顔はとても清らかで、当時の俺は完全に相原を勘違いしていた。


だから、数日して彼女の毒舌の洗礼を浴びるまでは、心の中で『整地の天使』なんて名付けてしまっていたのだから救いようもない。




話は戻る。

好きな人はクラスメイトなのだろうか?

『いい奴だといいな。』なんて相手の幸せだけを考えられるほど大人じゃない。


だからと言って、俺が告白してもうまくはいかないだろう。彼女の頑固さはよく知っている。



「兄貴、なんだよ、そのやる気なさそうな態度は?見てるこっちが疲れるんだけど」


武史はため息を吐きながらも呆れ顔だ。



「俺だって、失恋して何にもやる気がない時もあるさ。」


「えっ?マジで?とうとう結衣ちゃんにフラれたのか?」


武史は身を乗り出して聞いてくる。



「んなわけないだろ。結衣ちゃんとは元々恋愛のレの字もない関係なんだからな。」

「あっ、、そっか。それで、誰にフラれたって?まさかあの女じゃないだろうな?」


あの女?

刹那のことか?

そう言えば俺がぶっくんで、刹那に婚約破棄されたんだよな。実感が湧かない。



「いや、別の娘だよ。武史の知らない娘。」


そうなんだよな。

家に連れてくる関係じゃないし、結局最後まで先輩の域をでることは出来なかったな。



「そうか、なら別に付き合ってもいいぞ。」

「いや、さっき俺フラれたって言ったよな?なんでそんな態度?慰めろよ。」


別に胸を貸せとは言わないが、ハンカチぐらい手渡してくれてもバチは当たらないだろう。



「はぁ?兄貴がそんなこと言っちゃうんだ?本当に気付いてないの?それとも天然?」


関係ないけど、『私、よく天然って言われるんですぅっ。』なんて自分から言う奴は絶対天然なんかじゃないよな?



「いや、言いたいことがあるならハッキリ言ってくれ。めちゃくちゃ気になるから。」


「言いたくない。」


武史は不機嫌そうにプイッと横を向いてしまった。いやいや、武史からふってきた話だろ?言わないってどういう事だよ?構ってちゃんか?



ピロリンッ


スマホがメッセージを告げる鳴き声を奏でる。


俺は早速メッセージをみてなんとも言えない気持ちになる。


「ちょっと焼きそばパン買ってきてくれません?」


『‥‥俺ってなめられてるのか?』なんて思いつつも、結局、シロクマ印の焼きそばパンを買っていくあたりが甘いんだろうが、まぁ好きなんだからしょうがない。



彼女の家の近くの公園で落ち合うと、早速焼きそばパンを手渡した。芽愛は早速袋を開けると、焼きそばパンを2つに割る、ところまでは良かったけど、半分どころか1対9と言ったところなんだけど‥‥


しかも、今度はその2つを見比べて大きい方を俺に手渡す。あれ?そんなに少なくてもいいの?



「おいっ、芽愛の好きなシロクマ印だぞ。そんなに少なくても満足できるのか?」


「あっ、もうすぐ晩御飯だから、食べられないんです。先輩も好きでしたよね?恵んであげます。」


満面の笑みというか悪戯な、いかにも芽愛っぽい笑みを浮かべた。



「だったら、なぜ買いに行かせた?」

お腹空いてないのにわざわざ、どうしたんだよ?


「‥そうですね、ところでシン君って私の事好き?」


‥‥これってどういう意味なんだ?

好き。

なんて言った途端

ごめんなさい

って言われるのだろうか?



「好きだな。」

「‥‥」

リアクションがないとすごく不安になるな。


「部活ん時の後輩の中では一番好きだな。」

俺は保険をかけるような弱い言葉を添えた。



「ありがとう。私頑張るね。」


ん?

何を頑張るんだ?

部活ん時‥‥あっ、、、

もしかして、また走り高跳びするのか?


それでも、、



「ん?頑張っても仕方がないんじゃないか?」


ちょっと頑張ったくらいで感覚を取り戻せる訳もないだろう。いくらなんでも走り高跳びを舐めすぎだ。



「‥‥頑張っても無駄なんて言いかたヒドイじゃないですか。」

「そんな事ないだろ?ちょっと頑張っただけで結果がでるほど甘くはない。」


「もうっ、、先輩は意地悪。」

「いやっ、そうでもないって。無責任な事を言って期待をもたせるのは好きじゃない。」




「‥‥先輩ってば普段は優しいのに、肝心な所では手厳しいですよね?」


芽愛の射抜くような視線が俺の心臓を締め付ける。


「‥‥きっ、厳しくはないだろ?俺は」

「わかってます。私を気遣ってのことですよね?先輩のクセに生意気です。明日とか予定あいてますか?」


ちょっと毒があるが、俺の言いたいことは伝わったようだ。早速明日から練習するのか?


「ところで、どこで?」

そう、部活も無いのにどこで練習するんだ?



「う〜ん、じゃあ、明日10時に三島公園に集合しましょうか?」


あぁ、三島公園か?

あそこは本格的な陸上競技場があるし、高飛びも用意すればまぁ出来るだろう。


「わかった。」

「先輩‥‥。」

ジィーっと俺を見つめる芽愛の瞳を反射的に見つめてしまい、ドキドキする。


なんだか、吸い込まれてしまいそうに澄んだ瞳はとても毒舌なんて吐きそうにない純粋な女の子に見えてしまう。


「なんだよ?」


「ちゃんとした格好で来てくださいね。」


芽愛は蠱惑的に笑い、俺は思わずゴクリと喉を鳴らしてしまう。



それが恥ずかしくて視線を落としている内に芽愛は走り去ってしまった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 伊織と、相原さんの噛み合わない会話がなんか楽しい。 [気になる点] 最初メールでやり取りしてたはずなのに、会って話をして、去っていったようになっている。 [一言] 相原さん、神埼さん、小葉…
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