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初めての会話ループ


見上げると篠突く雨。


普段なら出かけるような気分ではないのだけど、今日は一人で本屋さんに向かっていた。


明後日は弟の誕生日だからアウトレットモールで誕生日プレゼントを買った。その後に小説を買おうと足早に本屋に向かう。



俺は雨が好きだ。



降り注ぐ雨が、纏わりつくような空気が、煩わしくも寂しさを紛らわしてくれる。



別にお一人様が悪いとは言わないが、やはりアウトレットモールに1人で来ている人は誰もおらず、なんだか孤独感に苛まれていたのだ。



まぁ、孤独感ってのはやっぱり心の問題なのだろう。

別にアウトレットモールだけの問題ではない。


昨日はいろんなことがあったし、刹那も気を遣ってあれからは連絡を寄越さない。


そして俺自身、『欠けた記憶抜きで果たして自分は自分なのか?』なんて結論など出ない、本当にどうしようもないことを考えていたのだ。


正直に言うとこの時の俺は『人に飢えていた。』



だから、目的地である書店に着いた時、見知った顔を

見かけて心の汗なんかで視界を滲ませる羽目になったのだ。


「ようっ、相原。」

思わず駆け寄って行ってしまった。



「先輩?こんな所で何をしているんですか?先輩の好きなエッチな本はあっちですよ。」


真顔で首を傾げて成人コーナーを指差す相原は相変わらず可愛いな。



「あれ?相原、こんな所で会うなんて珍し‥くはないか。」


「フフフッ、、今日の先輩、変ですよ。あっ、先輩の場合は今日だけじゃなく、いつもですよね。」


相変わらず、相原の毒舌は切れ味が鋭い。


一流の人間っていうのは商売道具の手入れを怠らないと言われているが、きっと相原の毒舌もその類のものなのだろう。



「いや、相変わらずで安心したよ。そういえば、相原、本好きだよなぁ。」


そう、相原ってばカバンに一冊どころかカバンから何冊も本がでてくるんだが、重くはないのだろうか?



「教室で1人だと浮いちゃうし、寝たふりも毎回だと疲れちゃいますもんね。」


『本を読んでいて、忙しいオーラ』を出すんだな。


‥‥明るい顔で話す相原がなんだか不憫になって思わず涙が溢れるところだった。


「俺がその気持ち、すごく分かる前提で話すのはやめろ。」

「わからないんですか?」

「いや、わかるけど。」



いや、、まぁ、気持ちがわからなくはない。


堂々としていられるぼっちなんてそんなに多くないのだ。だから、俺達は休み時間は寝たフリしたり。

読書に没頭するフリをするのだ。


まぁ、幸い今は同じクラスにはトモヤが居るし、今年に限ってはそんなことをする必要はないのだろう。



「先輩、あんまり見栄を張らない方がいいですよ。SNSでリア充アピールしまくっている人くらい痛々しいです。」


例えが非リア充にはとてもわかりにくい。



「いや、見栄なんかはってないぞ。『彼女いない歴が年齢と同じ』と胸張って言えるくらいには開き直ってるからな」


まぁ、見栄はってないってのは完全にウソだけど、彼女居ない歴はもはやウソをついても即バレてしまうので正直に答えることにしている。



「‥その開き直りはドン引き‥‥あれ?先輩っ。氷結‥‥神崎先輩と付き合ってるんじゃ?」


そう言えば、、相原には説明してなかったが、相原には言っても大丈夫だろう。だって、うっかり友達に話してしまうことなんて‥‥友達居ないんだった‥


「あ〜っ、色々省くけど、とある事情で暫く恋人のフリをしないといけなくなったんだよ。」


「‥‥先輩。。」

相原は真剣な顔で俺を見つめる。

顔が近いけど、キスしちゃダメかな?



「なんだ?」

俺は平静を装ってそう答えた。



「ううん、呼んでみただけ。」

「バカップルか!」


付き合ったら一度はこんな事言われてみたいものだけど、、相原ってば彼氏いるからなあ。


しかも、お泊りする位の仲の。



「先輩とは別にカップルじゃないですけど、、、、、先輩って彼女欲しくないんですか?」



「欲しいな。」

「先輩って女の子なら誰でもいいんですか?」


あれ?これってもしかして、女の子紹介してくれるのか?しかもブスの?まぁ、女の子の『可愛い友達』ってのも信用出来ないんだけど。


「いや、、誰でもいいって訳じゃないぞ‥‥」

好きな人から女の子を紹介してもらうとかちょっとした罰ゲームだろ?


「‥‥そうですか。」

相原はシュンという音が聞こえてきそうなほど、落ち込んでいる。



「なんでそんなに涙目なんだ?」

「なんでもないですっ。」


噛みつきそうな勢いで否定するけど、、これ、、怒ってるのか?



「何故怒ってる。」

「怒ってなんかないですよ、美食家さん」

ん?好き嫌い激しいってこと?


「あのなぁ、そりゃあ、相原は彼氏が居るからそんなこと気軽に言えるんだよ。」

自分が幸せだから幸せをお裾分けしたいんだろ?



「先輩?何言ってるんですか?もしかして、クスリでもやってるんですか?用法用量を守ってお使い下さいね。」


「その口調、市販薬のCMか?クスリだからってクスリと笑ってなんかやらないからな。」



「フフッ、じゃなくて、彼氏ってなんですか?私に彼氏がいるなんて初耳なんですけど。」



‥あれ?

どういうこと?



「いや、海で。」

「あっ、、、、なんであんなのが彼氏なんですか?従兄弟ですよ。ホントに信じられないです。」


い、い、従兄弟‥なのか?



「わ、悪かった。じゃあ、なんで彼女欲しいって聞いたんだ?」


そうだ、自分が幸せだから幸せを恵んでくれていると思ったのに。



「教えません。誰でもいいって答えなかったですし。」


どうやら俺は選択肢を間違えたらしい。



「いや、誰でもいいから彼女欲しいわあ」

間違えたらやり直せばいい。



「しょ、、、しょうがないですね。じゃぁ、土下座して『誰でもいいから彼女欲しいです。お願いします』って頼んでみたらどうですか?」


って、誰がやるかっ?


「あははっ、面白いな。ところで相原は今日は『選り好み探偵シリーズ』の最新作、『今回は気分が乗らないから謎解きしない』を買いに来たんだよな?」


まぁ、俺も買いに来たんだけどな。

なぜだか、作者が電子書籍化しないと言い張っているようで、わざわざこうやって買いに来ないといけないのだ。



「じゃぁ、土下座して『誰でもいいから彼女欲しいです。お願いします』って頼んでみたらどうですか」


おいおい、会話がループしてやがる。


「なぁ、ここ、結構人が居るんだよ。冗談だよな?」



「じゃぁ、土下座して『誰でもいいから彼女欲しいです。お願いします』って頼んでみたらどうですか」


どうやら、YES以外に選択肢がないらしい‥



いくらなんでも悪ふざけが過ぎるんだけどら、



「誰でもいいから彼女欲しいです。お願いします」

とはいえ、仕方がないので俺は土下座はせずにドヤ顔でそう言ってやった。


頼むから『たまたま、この瞬間を知り合いが目撃していた。』とかやめてくれよ。



「先輩ってばしょうがないですね。」


しょうがないと言いながらも、お姫様は満面の笑みを浮かべる。


ダメな子犬を可愛がるような感覚なのだろうか?



結局その後、なぜか連絡先を交換してその日は相原と別れた。もしかして、まじで女の子紹介してくれるのか?



疑問は、lioneをすれば解決するのだが、恋愛方面には滅法チキンな俺は問題を先送りして眠りにつくのだった。

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