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初めての間男


「相原こそなにしてんの?あの男は一緒じゃないのか?」


そんなこと言うつもりなかったのに思わず本音が出てしまった。俺ってば女々しいな。



「あの男?もしかして蓮也のこと?」


アイツ、蓮也っていうのか?

別に知りたくなかったけのな。


「あっ、あの海、泊まりで行ってきたんだよな?」

俺は話題を変えたくて相原に質問したが、これって完全に墓穴を掘ってしまっている。

答えなんて聞きたくはない。



「えっ、うん。日帰りなんてできる距離じゃないですよね?ところで先輩も泊まりだったんですよね?2人で?」


2人?

あ〜っ、先輩と一緒だった。



「2人じゃないな。神崎さんと葵さんと小葉も居たぞ。神崎さん家の別荘に泊まったし」

「‥なんなんですか、そのリア充っぽい匂い」


相原なぜだか頰を膨らませる。

リア充は彼氏がいる相原だろ?


「そうか?」


「先輩。言っておきますけど、悲リア充がリア充の真似事なんかしても滑稽にしかみえませんから。」


相原の蔑むような目が、、そのうち快感になりそうで本当に怖い。ただ、たしかに別荘に行ったメンバーは小葉を除いたらリア充ばっかりなんだよな。



「ぐっ、、、。相変わらず、相手の一番弱い所を的確に全力で突いてくるな。そういうとこ、割とす、、すきだけどな。」

好き、なんてスマートに言えなかったけど、まぁ、俺にしてはなけなしの勇気を振り絞ったつもりだ。



「す、す、きとか‥‥。せんぱいっ、ドMですか?気持ち悪いです。寄らないで下さい、ドMが感染る。」


しかし、相原は自らをかき抱く仕草をしながら、俺から一歩遠ざかる。

俺はちょっと泣きたくなった。



「いや、ドMじゃないし。って、、その前に、ドMって感染るのか?」


感染るとしたら超怖いのだけど。



「否定しないんですね。先輩ってばあいからわずほんっとに馬鹿なんですから。」

こんどは呆れたようにふかぁ〜くため息をついた。



「そんなに褒めるなよ。」


「はぁ〜っ、、先輩って本当に女心がわからないですよね?服だって褒めてくれたことないし、こんなにバカな先輩に付き合えるのは心の広い私くらいのものですよ、先輩良かったですね。」

相原は嬉しそうに、、本当に嬉しそうに笑みを浮かべた。なんだか、見慣れた笑みなのにひどく懐かしく感じてしまう。


服を褒めるのは勉強になったが、そもそも、相原の私服なんてみたこともない。

それとも、制服姿を褒めれば良いの?


制服姿を褒めるってなんだか変態っぽいな。



「あの、、、。伊織さんを馬鹿にしないでください。」


しかし、結衣ちゃんが俺と相原の間に割って入って、俺を守るような形で手を広げた。

まるで、いじめられるパパを庇う娘みたいだ。



「えっ?あれ?‥‥‥?」

相原は戸惑いを隠せないのか、瞳が不安で揺れている。そして、視線は俺に向かってくる。



アイコンタクトで『この娘、なんとかして。』って言っている。マズイな。相手が子供じゃなかったら、相原ならとっくに相手を毒舌でズタズタにしているところだろう。



「結衣ちゃん。勘違いしないで欲しいんだけど、相原は悪気は全然ないし、これが俺たちの日常会話なんだ。」

俺は言い聞かせるように結衣ちゃんに説明した。

まぁ、我ながら無理のある説明だと思うけど。


「そ、そんな訳な‥‥「それがそんな訳あるんだよ。そうだよな?相原?」


結衣ちゃんを遮って、相原に同意を求めるが、、、、相原は結衣ちゃんに純真な目で見つめられて固まっている。


そう。

相原は結構な人見知りなのだ。


その裏返しで、相手には毒舌を振りまいてしまうのだが、さすがに子供には毒舌をはけないんだろう。


「‥‥いや、そこまでにしといてやれ。これでも相原は俺の大切な‥‥友達なんだからな。」


そう、残念ながら相原は俺の彼女ではないし、そうなる予定も全然ないようだからな。



「ンッ。あっ、あの。もうっ、わかりました。

フツーのお友達ですもんね。それよりも、フツーのお友達さんはこんな所で何やってるんですか?」


結衣ちゃんはやたらと普通を強調する。

もしかして俺たち、普通の友達に見えないのか?



「あっ、そうだった。買い物頼まれて、、それじゃ、また。」

いつもの相原なら最後まで毒に塗れた発言なのに結衣ちゃんを意識してか、フツーの発言をして去って行った。


これ結衣ちゃんにどう説明すれば良いんだよ?


「伊織さん、あの失礼な人、、誰ですか?」


「ともだ「中学の頃から伊織が好きな娘なんだよ。」


俺が友達と言いかけると小葉に遮られた。

いや、小葉の言ってることは間違ってない。

でも、ちょっと空気を読んで欲しい。


まぁ、小葉に読める空気が地球上に存在しているかは定かではないんだけど。



「へぇ、そうなんですか?あんな人が?」


「あぁ見えて頑張り屋さんでいい奴なんだからな。ただ、ちょっと、、いや随分と誤解を受けやすいけど。」


そう、彼女は頑張り屋さんだし、見た目だけじゃなく性格も可愛い奴だと思うんだけどな。



「そうだったんですか?付き合ってるんですか?」

結衣ちゃんがキスできそうな位顔を近づける。


「いや、あいつ、カレシがいるからな」

「そ、、そうなんですか、ごめんなさい。」

結衣ちゃんは慌てて頭を下げた。



「それにしても、結衣ちゃんがそんな言い方するなんて珍しいな。相原とよっぽと相性が悪いのか?」


「‥‥伊織さんの、、、いじわるっ」


結衣ちゃんはそう言った後、走り去って行った。せっかく結衣ちゃんとデートなのに相原とばかり話していたからだろうか?



実際理由はわからないが、普段は温厚な結衣ちゃんを怒らせてしまった。早く追いかけないと。




しばらくして、追いついて結衣ちゃんの手を掴む。

そして、、なんて言えばいいんだ?


「伊織さんっ、離してください。」

抵抗を試みる結衣ちゃんを引っ張って、こちらに向かせたけど、俺は後悔することになった。



結衣ちゃんが目を真っ赤にして泣いていたからだ。なんだ?どういうことだ?


相原の毒舌をまだ食らってないはずだけど、なぜ泣いてる?ど、どうしたらいい?


彼女の両親が離婚して、毎日泣いていた時のことが思い出された。


「ごめん、結衣ちゃん、本当にごめん。」

結局、俺は謝ることしか出来ない。



「‥あやまることないですよ。べつにわるいことなんてしてないんですから。」


そう言いながら結衣ちゃんが微笑んだが、その笑みは彼女が無理矢理笑っているのが傍目にも分かるほど酷く痛々しかった。



だから、俺はもう一度謝ろうとしたのだけど、いやぁなことに気付いてしまった。



この場合の謝罪は単なる逃げだということ。



そうなんだよな。


だって、俺は何が悪いかなんて分かっていないのに、ただその場をなんとなくおさめたくて、再度頭を下げようとしていたのだから。



だから、俺は踏み込むことにした。

これから俺のする事は結衣ちゃんのキズを抉ることになるかもしれない。


それでも、結衣ちゃんの心からは目を背けるべきじゃない。そう思えたんだ。



「結衣ちゃん。なんで泣いたの?」

「う〜っ。言わなきゃだめですか?」


上目遣いで涙目の結衣ちゃんはかわいい。

だから、なんでも言うことを聞いてあげたくなるけど、今はだめだ。



「悪い。俺は大切な女の子を泣かせたのにいい加減な態度を取りたくはないんだ。」


俺は結衣ちゃんを真っ直ぐに見据えてそう告げる。自分の声が少し震えたのがわかったけど、気付かないふりをした。


きっと結衣ちゃんの答えが俺には優しくない言葉なのが分かっているから、震えてしまう。


俺は頰にビンタされるのを待つ間男みたいな気分で結衣ちゃんの言葉を待った。



しばらく、、、それからも、、、

それでも、、、彼女の言葉を待った。

とにかく待ち続けた。



しかし、結衣ちゃんは下を向いてしまい、微動だにしない。もちろん、その間も俺は返事をジッと待っているのだ。



結果的に、、いつまでたっても重苦しいだけの沈黙が辺りを包んでしまった。

もしかして、地雷踏んじゃった?



まだ、結衣ちゃんは口を開かない。




まだまだ、結衣ちゃんは口を開かない。




視線の向こうでは小さな男の子が転んで、泣き声を上げた。近くにいた母親が心配そうに駆け寄っていく。


子供の泣き声ってのは親へのアピールのようなものだ。


成長するにつれてそういうアピールが通用するのは幼児だけだと分かっていく。そして、自然と泣く回数がだんだん減っていくのだ。



まぁ、涙を武器にする女の人なんかは例外なんだけどな。




「‥‥‥ただの自己嫌悪、、なのかな?別に泣いて関心を引くつもりなんて全然なかったの。本当ごめんなさい。伊織さんが優しいのはわかってるけど、もう追いかけないで下さいね。」


結衣ちゃんはそう言って無理矢理微笑むと、クルッと踵を返して去っていった。



結局、俺は結衣ちゃんを困らせただけで、何も。何も分かり合えることはなかった。


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