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初めてのキス


なんだかとても柔らかく、暖かい枕で寝ているようだった。しかし、視界は真っ暗で、なんだか現実味がない。



これが仮に夢だとして、吉夢なのだろうか?

それとも凶夢?



少し意識がハッキリしだしてようやく自分の目蓋が閉じているのに気づく。


しかし、なんだか心地良いし、このままずっと寝たままでいたかった。



だから、目蓋を開けるまでに更に数分の時を費やすことになった。



目蓋を開けて、まず目に入ったのは顔。

そう、顔。



「イオ君。気づいた?よかったぁ。」

眦に薄っすら涙を浮かべているのはセツナだ。


しかし、結構顔が近いな。

彼女の顔は本当に整っていて、おおよそ欠点など見当たらない。


もし、俺が女の子なら。

彼女の可愛さに嫉妬しただろうか?

いや、きっと可愛さの次元がちがいすぎて、そんな気すら起きなかっただろう。



「大丈夫?頭が痛いの?」

セツナが訳の分からない事をいうが、別に頭痛なんて‥‥


「いや、イテテテって、なんで頭が。」


おかしい。

先ほどまで体調は全然悪くなかったはずだが‥‥



「ごめんなさい。私のアタックがイオ君の頭にいっちゃって。」

そう言えば‥思い出したが、葵さんの胸を見ていたら視界が赤く染まって‥‥



「いや、余所見してた俺が悪いんだ。」

俺は素直に謝罪の言葉を口にした。


「イオ君ってば何処を見てたのかな?」

しかし、途端にセツナの顔色が変わってしまう。



瞳に光が宿っていない、、まるで、底なしの沼のような瞳でこちらを見つめる。



まずいっ。気づかないうちに彼女の逆さ鱗にふれてしまったらしい。



これは詰んでしまう‥‥主に俺の人生が。



原初から人間に備わっている本能がアラームをけたたましく鳴らすが、、肝心の対処法が思い浮かばない。



そして、彼女の顔はさらに近づいて俺を覗き込む。

まるで、俺の心中すべてを覗き込まれているような、なんとも落ち着かない気分だ。


しかし、それよりも気になる物体がまたも俺の本能を刺激する。



目の前、触れてしまいそうな位置に2つのささやかな膨らみがある。



わかりにくいかもしれないけど、膝枕をされながら顔を近づけられると必然的に胸も近づいてくるのだ。



「セツナ。俺も男だから。警戒してもらえない?」


俺の言葉で自分の体勢に気づいたのだろう。セツナの頰が桜色を通り越して朱色に染まった。



そして、彼女は光の速さで俺から身を離した。



お陰で俺はセツナの膝から転げ落ち、そのまま砂浜にキスをする羽目になる。



初めてのキスの味はレモンの味‥‥なんかではなく、、砂の味でした‥‥



「グェッ。ペッ、ペッ。はぁ〜っ、セツナってば俺を警戒するのかしないのかどっちかハッキリしてくれない?正直言って接し方に困るんだけど。」


「ごめんなさい。じゃあ、もう一度ここに頭を乗せる?」


「いや、いい。それよりも、嫌なことはイヤとハッキリと言った方が良いと思うな」

そう、おれが勘違いしてしまいそうだ。


「い、、や、?私が?」

セツナは可愛く首を傾げた。



「俺に質問されても困るけどな」

うーん、微妙に会話が噛み合わない。



「ううん。イヤ、、じゃないよ。ただ、、、」

そこでセツナは言い澱んだ。

こういう話し方って先が妙に気になる。


「ただ、、なんだよ?」


「許せないだけ」


「何が許せないんだ?」


「教えません。」

セツナはそう言って口に人差し指を当てた。







夜になっても私はなかなか寝つけませんでした。


結局、感情に蓋なんかしても、まるで蓋に穴が開いているかのように感情が漏れ出してまう。



イオ君は最初から、私とは相性が良かったと思う。

ぶっくんみたいにからかい甲斐があるし、なんだか可愛い感じがたまらない。



でも‥‥‥ぶっくんは今、どうしてるのかな?



あの時、ぶっくんがあんな事になって、お爺様に婚約破棄を聞かされて、彼を諦めて‥‥いいえ、見捨ててしまったことを後悔していた。


だからこそ、私1人が幸せな気分に浸る訳にはいかない‥‥そんなこと許せない。



「セツナさま寝れないのですか?」

葵は心配そうな声色だけど、私の身勝手な恋の話で葵に心配なんてかけたくなかった。



「なんでもないです。」

私はなんでもないことのようにウソをつきました。これは私の問題です。


「もう一度言ってください。」

言いながら葵が近づいてくる。


「にゃねでめねえで〜」

葵が私の両頬を引っ張っていて、上手く話せないのだけど‥‥なんなの?


「セツナさま。私、怒りますよ。」

キスできそうな距離まで顔を近づけた葵は既に怒っていた。



「なんで?」

頬を離して貰えた私はなぜか怒り出した葵に戸惑ってしまう。



「なんでもないわけ無いでしょう?これからは困ったことがあったら親友である私を頼ってくれるって言ったじゃないですか?」


その怒りが見せかけのものではなく本心だと葵の目が語っていた。


そう。私が本心を打ち明けなかったことを怒っているのでしょう。人に本心を打ち明けるというのは存外勇気のいるものです。


勇気のない私は反射的に本心を隠す癖がついてしまいました。


しかし

『本心を言って嫌われたらどうしよう?』

なんて思うこと自体が葵の信頼を疑うことなのかもしれません。



「あっ‥‥ほんとにごめんなさい。私、わたしね、好きな人が出来たんです。」

だから、私は、葵にだけは誰も知らない、私の真実を打ち明けることにしました。



「あっ、いやっ、知ってますけど。橋本くんでしょ?」


しかし、葵はあっさり私の好きな人さえ当ててみせたのです。



「知ってたの??だけど、だけど、私の気持ちはぶっくんに対する裏切りなんじゃないかな?」



「あっ、そんなこと気にしてたんですか?」


なぜかここで葵が呆れたような表情を浮かべた。



「そんなことって言い方はちょっとないと思うんだけど。」


「そんなことはそんなことですよ。私がセツナ様と仲直りして、それから何もしなかったとでもお思いですか?」


葵の意味深な言い回しのせいで、私には葵の言ってることがわかりません。



「どういうことなの?」


「この封筒の中身を見てくれればわかりますから。私が有能だってことと、ついでに真実がです。」


そう言って渡された封筒の封を綺麗に破って、中身の書類に目を通した私は、書かれている内容が信じられず、何度も読み返すのでした。


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