初めてのアタック
「えっ、、と、、部屋に戻りますね。」
セツナはいきなり警戒心全開となってしまった。
まさか、男が好きだから俺は安全だと思われていたとは‥‥紳士オーラとか言ってた、さっきの自分を殴ってやりたい。
ほんの少しだが、『好かれているかも?』とも思っていたので、なんだか恥ずかしくなった。
俺はそのまま寝てしまい、気付くと午前四時だった。
なんの気もなしに目の前の砂浜に出てみる。
ザクッ、ザクッとした砂の感触が妙に心地よく、踏みしめるのに夢中になってしまう。
それで、俺は砂浜に人が居るのに気付くのが遅れてしまった。
「だ、誰ですか?」
「蒼井だよ。その声はセツナか?ダメじゃないか、1人でこんな夜中に出歩いて。」
俺はブーメランになりそうなセリフを吐いたが、セツナは素直な性格らしく言い返したりしなかった。
「ごめんなさい。でも、イオ君が来てくれたから安心‥なのかな?」
「ああっ。こんな夜中に散歩なんて、どうした?」
「眠れないんです。」
刹那がか細い声を出した。
「どうしたんだ?怖い夢でも見たか?」
俺は宇治橋先輩に告白してフラれるどころか笑顔で通報される夢を見た。
「わかりません。」
そう言いながら、セツナは俺から一歩遠ざかる。
「ちょっと待て。俺、なんか酷いことしたか?」
俺がそう問い詰めると、
「ごめんなさい。」
そう言って別荘に戻っていった。
もしかして、真夜中に俺と2人きり‥‥身の危険を感じたのだろうか?
だとしたらちょっと悲しい。
俺はしばらく夜の漣並みの音を聞いていた。
好きな人には彼氏がいるし、仲良くなったと思った娘には警戒されまくるし、散々だ。
別荘なんてものに来なければ、こんな思いをせずに済んだのかもしれない。
でも、本当は違うのだろう。
相手が何を考えているか真剣に考えるようになっただけでも、自分という一人称だけの価値観から世界が広がっているのだろう。
広い世界にちっぽけな自分。
そりゃぁ、不安にもなるのかもしれない。
翌朝、俺が三度寝中に小葉が起こしに来た。
「伊織、起きて。朝ごはん、はじめられないよ。」
小葉はいつもと同じテンションで話しかけてくる。
それが今はちょっと煩わしく感じてしまう。
「俺はいいよ。」
そう、なんだかセツナとまともに顔を合わせる気にはなれなかった。
「伊織、どうかしたの?」
小葉が顔を近づける。
「小葉には関係ない。」
心配してくれる人にこんな言い方はないとは思うが俺も今は他人を気遣える余裕がなかった。
「そうっ」
小葉は俺の横にゴロンと寝転んで目を瞑る。
そのまま、少しジッとしていたが起きる気配がない。
もしかして、本当に眠ってしまったのだろうか?
マジか?
「こらぁ、小葉が寝るなぁ。ったく、、おちおち寝てもいられないな。」
「でしょ?」
小葉は悪びれもせずに笑う。
俺はため息をつきそうになって気付いた。
いつもの俺たちだ。
別に慰めてもらった訳でもないのに、いつもの調子に戻った俺は小葉が居るのも構わず着替えを済ませて、さっさとダイニングに向かった。
食事を済ませてすこし休むとみんなでプライベートビーチにくりだした。
「う〜みぃ。」
ワンピースの水着姿の小葉が真っ先に砂浜に駆け出す。そして、コケてしまう。
「大丈夫か?」
俺は思わず駆け寄った。
だって、小葉はつまづいた時点で咄嗟に手を出したのに、手を引っ込めてしまったせいで、顔面着地してしまったから。
「ん、大丈夫。」
小葉は涙目になりながらも笑顔だ。
海なんてくるのはひさしぶりだからかもしれない。
「よかったぁ。それにしても、ちゃんと手を守って偉かったわね。」
綾さんは小葉の顔についた砂を優しく払いながら笑顔を浮かべた。
「うん、大丈夫。ピアノが弾けなくなったら絶対いやだもん。」
小葉もそう答えるが、顔面着地は正解だったってことなのか?
なんて教育をしてくれてるんだ。
女の子がコケても手をつくのが嫌で、顔を守らないなんて、女子力以前の問題だ。
まぁ、小葉にとって、ピアノを弾ける指が何よりも大切なのだろう。
「もうっ、どこが大丈夫なのよ?女の子なのに、頰に傷がついてます。」
セツナは小葉を心配しながらも、綾さんに非難がましい視線を向けた。
綾さんは小葉をとても大切にしている。
しかし、それはあくまでも【ピアノを弾く小葉】なのが分かっているから、小葉が綾さんの事を楽しそうに話しても、素直に喜んであげることができなかった。
だめだ、なんだかマイナス思考で考え過ぎてしまう。
思考の海から浮上すると、水着姿のセツナが目に入った。すごく似合っていてまともに視線を走らせると、ヤバい目で見てしまいそうで思わず目をそらす。
すると、今度は水着姿の葵さんが目に入る。
葵さんは水色のビキニで、思ったより胸が大きい。更にそれを恥ずかしそうに隠す仕草が葵さんの可愛さを尚引き立てていた。
それにしても、昨日行った海水浴場とはやはり女子のレベルが段違いだ。強いて言うなら、ギャルっぽいというか軽そうな女の子が居ないのがなんとなく寂しい。
こんなレベルの高い女子ばかりなら、ナンパされまくって大変だろう。
しかし、ここはプライベートビーチだ。
男は俺と宇治橋先輩2人だけ。
「伊織くん。泳がないのか?」
宇治橋先輩が爽やかな笑顔で誘ってくれた。
「すみません。」
「あっ、そんな気分じゃないのか?ただなぁ、水着まで着て砂浜にでておいて、そんなに沈んでると皆んなを心配させてしまうぞ」
宇治橋先輩にそう言われて俺は赤面する。
だって、これじゃあまるで、、、かまってちゃんみたいだ。
「ですね。俺ビーチボール持ってきました。」
俺は笑顔でそう言って、後で後悔する羽目になる。
なぜだか、ビーチバレー対決となったからだ。
しかもマジなやつだ。
チームは俺と宇治橋先輩vsセツナ、葵さん。
男女ペアにしたらラッキースケベを期待できたというのに、、、、今回ばっかりは、宇治橋先輩の気遣いが憎い、憎らしくて仕方がない。
そして、ビーチバレーは始まってしまった。
「はいっ」
宇治橋先輩はアンダーでフワッと相手陣地にサーブする。
それをセツナが柔らかくレシーブをした。
「それっ」
更に葵さんがトスを上げると同時に彼女の豊満な胸がプルンと揺れる。
俺は思わず凝視すると、視界の外から声が聞こえた。
「えいっ」
そして、数瞬後に視界が赤く染まったと思ったらそのまま暗転した。




