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初めてのドッペルゲンガー


「部屋割りを変えたいと思います。」

セツナは皆を集めて、まるで真犯人を当てる名探偵のように堂々と宣言する。



「えっと?どうするんですか?セツナ様」

葵さんも聞かされていなかったようで、動揺が隠せなかったのか声のボリュームが上がった。



「綾さんと小葉さんはそのままにしましょう。あと、宇治橋先輩は葵と同室でお願いします。」


「「「えっ??」」」

宇治橋先輩と葵と俺の声が重なる。


「おいおいっ、さすがに女の子と同室とか色々まずいだろ?」

宇治橋先輩は常識人だ。

さすがに高校生の男女が2人同室とか恋人でもないのにおかしいだろう。


あっ、そういえば、俺とセツナは一応恋人って設定のままだったか?



「いえ、宇治橋家の者がそんな下賎なことはなさらないでしょ?信用してます。」


セツナが信用しているのは宇治橋先輩なのか?


それとも、宇治橋家の世間体なのか?


たぶん後者なのだろう?

割と優柔不断できつい物言いが出来なかったセツナの豹変に正直、ドン引いているのは俺だけじゃないだろう。


イケメンの宇治橋先輩がマヌケ面をしている。


葵さんも驚いているが、小葉は途中からエアピアノを弾いているし、綾さんも真剣な瞳でエアピアノを眺めていた。


とことん協調性のない2人だな。



「そして、残った私とイオ君が同室ってことよね?」

セツナは満面の笑みを浮かべたが、俺は引きつった笑みしか浮かべられなかった。


急展開過ぎて意味がわからない。

そもそも、俺たちって恋人ではないし、失恋中の俺はキャッキャ、ウフフなんてしていられる気分じゃないんだ。


「ですがセツナ様。私が殿方と同室だなんて、ヒィーッ‥」

葵さんが抗議の声を上げかけたところで、セツナが葵さんに顔を向ける。なぜか、葵さんは顔を向けられた瞬間に短い悲鳴を上げた。


声につられて葵さんの顔を見る。そして、俺は絶句することになった。まるで呪い殺されたような青白い顔で、目は死んでいたから。


驚いてセツナの方を見ると彼女は涼しげに微笑んでいた。


「イオ君。どうかしましたか?」


なんだ、セツナが恐ろしい顔でもしたのかと思ったが杞憂だったか?



結局流されるままに部屋移動した俺はセツナと部屋で2人っきりとなった。


隣にはベッドが二つ並んでいる。

俺にはわかりやすい罠に見えた。

もしかして、○ニタリングなのだろうか?


「セツナ。何を企んでるの?」

俺はど直球の質問をセツナに投げかける。


「イオ君、なに?」

しかし、セツナは嬉しそうに振り返った。

その仕草といいセツナは以前と別人に見える。


あっ、そうか。


お爺様と仲良くなれたって言ってたもんな。

彼女の長年の悩みが消えるとこういう性格になるのか?


俺はセツナのあの内罰的なウジウジした感じはあまり好きではなかった。


だからと言って、今のセツナが好きかと言われれば疑問符がつく。



「なんでこんな部屋割りしたんだ?皆んなの意見に耳を傾けず、やりたい放題なんてセツナらしくないんじゃない?」


「‥‥ですよね?でも、一度ちゃんとお礼を言いたかったんです。私に勇気をくれてありがとうございます。」

セツナは深々とお辞儀をした。

もちろん、意味不明だ。


そういえばLIONでもセツナにお礼を言われた覚えがあったが、深く追及はしなかった。

このままお礼を言われ続けるのもイヤだし、お礼の意味を聞いてみる。



「悪い、何のことかさっぱりわからないよ。」


「お爺様の件、葵の件です。あの2人に勇気を出して本音をぶつけられたのはシンヤ君のお陰です。」

セツナはキラキラした目で顔を近づけてきた。

正直、くちびるを奪えそうな距離だ。

俺にだって煩悩はちゃんとある。この娘、ちょっと俺を信頼し過ぎではないだろうか?


いや、違うな。

俺の滲み出る紳士オーラを見て安心してるのかもしれないな。



「それそれ。俺って別にお礼をされる覚えがないんだけど。」

そうなんだよな。強いて言うならズッと恩を返されていただけだ。



「そう。なの?ずっと一緒にいるっていってくれたよね?」

そんなこと言われても、ますます意味がわからない。


それって告白?

俺がしたのか?


ドッペルゲンガーの仕業か?

なんて言いたいところだが、確かに似たようなことを言った気がする。


まぁ、せっかく仲良くなれたんだ、このまま友情を育んでいきたいものだな。小葉は女友達というより、兄弟って感じだから、初めて女友達が出来たみたいで少し嬉しい。


「まぁな。これからもよろしく」

「はい。よろしくお願いします。」

セツナは無駄に丁寧に礼をした。



「ところで、飯食ったらちゃんと部屋をもとに戻してくれるんだよな?」



「えっと、、、それは一人部屋を用意してくださいってことなのでしょうか?」

セツナは首を傾げた。


「いや、別にひとりじゃなくてもいいんだけど、セツナと二人だとマズイだろ?」


「‥‥なんでマズイんですか?」

セツナは更に首を傾げる。


「いや、俺が何かしたらどうするんだよ?」


「何かするんですか?」

セツナは更に更に首を傾げる。

このままいくと首がヤバい方向にまで曲がってしまいそうだ。


「するわけないだろ?」


「そうですよね?」


「うーん、セツナって警戒心ないよなぁ。俺だってフラれたところだから普通の精神状態じゃないんだぞ。」


そう、少なからずショック状態だ。



「なら、なおさら宇治橋先輩と同室には戻せませんね。」

意味はわからないが、セツナは真剣そのものだ。

それが彼女のエゴからくるものか、それとも思いやりなのか判断つかない。



「なんで、戻せないんだ?」



「だって‥」

セツナが言い淀む。


「だって、、なんだよ。早く言ってくれ。」


「フ‥フラれたんですよね?宇治橋先輩に」

その質問から、セツナに誤解とわかってもらうのに、数十分費やすこととなった。


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