初めての海
縦ロールと遭遇して、数日後。
神崎さんから海に誘われた。
「今日は宜しく。本当にタダで良かったのか?」
そう、移動から宿泊まで、全てタダらしいのだ。
よく考えるとそこまで甘えるのはどうかと思ったが、神埼さんはお礼だと言って聞かなかったんだよな。
「私と師匠まで招待してくれてありがとう。」
小葉がペコリとお辞儀をする。
「お嬢ちゃん、本日は私までありがとうね」
綾さんが丁寧にお辞儀する。
「えっ?綾さんまで、、、へぇー‥‥いや、なんでもないです。」
思わず綾さんと目が合って、すぐに目を逸らした。だって、どうせまた理詰めのド正論で、俺がいかに怠惰か?小葉に悪影響を及ぼしてくるかを話してくるに決まっている。
そして、俺の心どころか魂まで折られてしまうんだ。魂折りの2つ名は伊達じゃないな。
「俺の目当ての人が居ないようなんだが。」
そう、あと気になっていたのが、この間助けてくれたお礼に俺のことを憎からず思っている人を連れてきてくれるとセツナはハッキリとそう言ったのだ。
「‥‥目の前にいるじゃない?」
セツナは安心したような笑顔を浮かべる。
あれ?もしかして
「俺がセツナに惚れてるとでも思ったのか?」
そう、今、待ち合わせ場所に居るのは、俺、セツナ、小葉、綾さん、葵さん、宇治橋先輩だ。
ちなみに葵さんはいつも学校でセツナと一緒に居る使用人だ。
「そんな訳ないじゃない?だって‥好き同士なんでしょ?」
セツナが小声でそう言いながらチラッと後ろを振り返る。
振り返った先に居たのは葵さんと宇治橋先輩。
この場合は消去法で葵さんになるのだろう。
セツナ程ではないが、葵さんはサイドテールが似合う素敵な女の子だ。
そんな娘が俺を一目惚れなんてするものだろうか?
「葵さん、聞きたいんだけど、俺に気があるの?」
「自然と目で追ってしまう。それって、やっぱり気になっているからじゃないかしら」
い、いつの間にそんなフラグを立ててたんだろうか?
葵さんと詳しく話してみたかったが、車の中ではなぜか窓際で、隣が宇治橋先輩だった。あんまり知らない人だし、気まずいことこの上ないんだけど。
みんながワイワイしている中、俺と宇治橋先輩は殆ど会話する事なく別荘までの道のりを過ごすこととなってしまった。
「わーぁ。海。泳ご〜っ。」
小葉が下に水着を着ているかのようにスカートに手をかけたところで、俺はスカートを押さえた。
「おいっ、小葉。お前っ、スカートの下に水着なんてつけてないだろ?」
少し大声になってしまい、他の人達にもバッチリ注目されてしまった。
「あっ、そうだった。ありがとう。」
小葉は小さく舌をだした。
しかし、これはあんまり反省していない顔だ。
「さすがイオ君と小葉さんは幼馴染ですね。あれ?でも、おかしいです。」
セツナが首を傾げた。
どうしたんだろう?
「刹那様。どうしたんですか?」
葵さんが当然の疑問を口にする。
「おかしいの。なぜ、イオ君って小葉さんのスカートの中身を知ってたんでしょうか?」
その言葉を聞いて俺は背筋が凍りついた。
「そういえば、、、伊織様。ドン引きです」
葵さんの俺を見る目が完全にゴミを見る目だ。
完全に好意が反転してしまっている。
「いや、違う。前にも似たようなことがあったからな。」
もちろん、これは男らしくない言い訳だ。
しかし、みんなわかって欲しい。
男には負けられない戦いがあるってことを。
「あっ、そうだね。」
セツナが納得してくれた。
あとは畳み掛けて、葵さんを納得させるだけだ。せっかく俺に惚れてくれている人を逃すわけにはいかない。
「それに白の下着なんて水に入ったらスケスケだろうが。」
「‥‥蒼井くん。語るに落ちてるけど、、正直に話したら?」
宇治橋先輩に諭すように言われてミスに気づいた。色まで当てては言い訳がきかない。
しまった、車の中で無防備な小葉のパンチラをガン見してしまったのがバレてしまった。
ここはもう言い訳をしても無駄か。
「すまない、さっきチラッと見えたんだ。白くて、縁に薄いピンクのフリルがついていて、正面にはピンクのリボンがついている下着が」
「‥‥蒼井くん。わざとなの?わざとなんだよね?」
俺は正直に話したのに皆んなの見る目が冷たい。もしかして、この世は正直者には優しくない世界なのかもしれない。
まぁ、それは冗談で、下着の柄まで細かく語らなければ良かった。これじゃ、タダの変態だ。
「ところでピアノは何処にあるのかしら?」
そこで気まずい空気を破ってくれたのが、意外や意外。綾さんだった。
危ないところを助けてくれたからって惚れたりなんてしないんだからね。まぁ、本当はわかっている。小葉に早く練習させたいのだろう。
「あっ、案内します。」
神埼さんが案内してくれて、俺たちは葵さんに連れられて各々の部屋まで案内された。
「やっぱり、蒼井と一緒か?」
宇治橋先輩と同じ部屋だった。
まぁ、後は女子しかいないからしょうがないか。
「えっと、晩飯まで自由だって聞いていたけど、海に行きませんか?」
この部屋割りは好都合。俺は満面の笑みで宇治橋先輩を海へと誘うのだった。
俺と先輩は少しだけ離れた海水浴場に来ていた。
「あっ、やっぱりゴミゴミしてるけど水着の女の子が一杯だ?もぅ、俺、ここに住む。」
正直、今回一緒に来ている女の子達のほうが可愛い。しかし知り合いの水着姿とかイヤラしい目でみてたらそれこそ変態扱いされかねない。
別荘のプライベートビーチとは少し離れているが、ここなら思う存分目の保養が出来るな。
「あははっ、蒼井って面白い奴だったんだな?セツナ嬢を射止めたオトコっていうからもっとスカしたやつかとおもったぜ。」
宇治橋先輩は俺の肩をバシバシ叩いてくる。
この人の前世は大阪のおばちゃんか?
そのうち、カバンから飴ちゃんとか出してくるのかもしれない。
「いや、生まれてこのかた、モテたことも射止めた事もないですから。」
自虐ではなく、本当の事だ。
「そうなのか?でも、、まぁ、いいか?おいっ、あのギャル。殆どお尻丸出しだぞ」
「くぅ〜っ、宇治橋先輩、良いところに目をつけますね。あっ、あっちのあの娘は‥‥胸はそんなに大きくないけど、スタイル良いで‥‥あっ、相原。」
水着姿の相原を発見してしまった。




