初めての観覧車
更新遅れてすみません。
いつもスマホのメモに描くのですが、メモが消えて20000字くらい消えてしまいました。
ショックで熱を出してしまい、やっと復活です。
あーっ、今日はとても良い天気だ。
絶好の遊園地日和だなぁ。
「‥‥‥‥」
俺は無言で目を逸らした。
そういえば俺は乗りたい乗り物があったんだ。
決してお弁当が食べたくない訳じゃない。
俺のお腹からグーゥッと大きな音が響いて空に溶けた、、、、
「そろそろ、お昼にする?私、お弁当作って来たの。」
聞こえない聞こえない。
どうやら、耳の調子が悪いらしい。
「そろそろ、お昼にする?私、お弁当作って来たの。」
本当に俺が聞こえなかったと思ったのか、セツナはまた同じセリフを口にした。
もちろん、聞こえないふりをしたい所だけど、セツナが心配気な表情を浮かべたので俺は聞こえないフリを諦める。
「‥‥いや、聞こえてるよ。でも、、あまりお腹が減ってないんだ。それより、乗りたい乗り物があるんだよ。」
俺はそう言って観覧車を指差してやった。
「うーん、ホントにエッチなことしたら許さないからね」
俺の向かいに座っているセツナからそんな事を言われてしまった。
そう、結局。嫌なことは後回しにして、観覧車に乗ることにしたのだ。
最初は警戒していたセツナも俺の説明を聞くと一応納得してくれたんだけどな。
最初は罵倒が凄かったんだよ。
どさくさに紛れてキスを迫るつもりだとか、、エッチなことをしようとしているだとか、どんだけ人の事を疑えば気がすむんだろうか?
高いところから例の女を探すつもりだけだったんだが、警戒されすぎて俺の精神ゲージがゼロ近くまで下がってしまったよ。
「それにしても、最高だったなぁ。ホントに園崎さんカッケーぜ。」
観覧車に乗った後、俺は興奮冷めやらぬまま園崎さんについて話してしまう。
「そう、私はあの人‥苦手だなぁっ」
しかし、セツナは目を逸らした。
「なんで?園崎さん、明るいし、そんなに初対面で嫌われるようなとこないだろ?」
感じ方なんて人それぞれで、師匠を快く思わない人も中にはいるだろう。
なのに、思わず強い口調で師匠をかばってしまった。
憧れの人だからしょうがないけど責めるのは完全にお角違いだ。まぁ、それに気づいたのは随分とあとのことなんだけどな。
「だって、、あの人見てると‥‥とても不安になるの。」
セツナは少し怯えたように園崎さんの事が苦手な理由を話した。
しかし、女子特有の感覚的な理由で、全然よくわからないんだが‥‥
あの人が大道芸人だから?
いや、意外とあの人若い女の子の受けは悪いのかもしれないんだけどな。
「そうか。神埼さんとは気が合わないな。まぁいいや、それより、ちゃんと例の女を探すぞ」
俺は気まずくなった空気を変えるために、腕まくりをしてヤル気スイッチを入れた。
「そうだよね。小葉さんが羨ましいな。イオ君や綾さんや色んな人に気にかけて貰えて。」
しかし、学年一の美少女が訳わかんないことを言い始めた、、わけわかんないな。
「いやいや、それこそ、神埼さんの方が色んな人に好かれて羨ましいけどな。」
そう、確か成績も不動の学年一位で、おおよそ欠点らしい欠点が思い浮かばないのだ。
「そんなことないよ。だって私‥‥ううん、なんでもない。」
セツナは何か言いかけてやめた。
この娘って、、まだよく知らないが結構優柔不断だよな。あっ、これって欠点になるのか?
それよりも、言いかけた言葉の続きがすごく気になる。
「いいじゃん、ここ、2人きりなんだぞ。俺のことなんて壁のシミ程度と思って話してしまえよ。」
俺は好奇心に駆られてそんな事を言ってしまって後悔することとなった。
「う、う、うーん。そ、そうだね。私、、そう、私ってお母様の、、、、連れ子なの。だから、本当の味方はお母様しか居ないんだ。」
そう言って酷く辛そうな笑顔を浮かべた。
明らかな作り笑いで、逆に痛々しい。
俺はもっと軽そうな話かと思ってたので驚いたが、こんな秘密を打ち明けるのにはとても勇気がいったに違いない。
今更聞かなかったフリはできないな。
「そっか、でも、友達、そう、、一緒に居るじゃないか?サイドテールの女の子と。仲が良いんじゃないか?」
そう、セツナは有名人だから、目立つ。
そして、彼女を見かける時は必ずと言って良いほどサイドテールの女の子が隣にいるのだ。
「葵のこと?彼女は友人じゃなくて神埼家に仕えている使用人の一家の次女なの。他のクラスメイトも話しかけてはくれるんだけど、それだけ。私はひとりぼっち。男子なんて少し仲良くしたら告白してくるしね。」
、、いつか見た告白シーンが俺の脳裏に鮮明に浮かんだ。
そのせいかもしれない。
「なら、小葉と俺が居るだろ?」
俺はそんな言葉を無意識に口にしていた。
「私じゃあ、、、、あなた達を守れないの。その時が来たら、、、さよならなのよ」
セツナは俯いてしまう。
その表情は何かにたえるかのように、唇をキッと結び、眦には少し涙が浮かんでいた。
「いや、勘違いするなよ。俺達はセツナのナイトじゃないけど、守ってもらうだけのか弱いお姫様でもないんだからな。ほら、そんなネガティブなことばっかり言ってるから友達が出来ないんだよ。」
セツナを励ますように殊更明るく話した。
「そ、そうなのかな?でも、、」
それでも彼女の表情は晴れないのだ。
「ぶっ君に会ってもそんなネガティブだとぶっ君に嫌われるんじゃないか?もっと前向きに行かないか?」
だから、キラーワード『ぶっ君』で彼女を元気付けたくてその言葉を口にした。
本当に元気付けたかっただけなんだ。
「何を言っているの?ぶっ君が居たら全てうまくいくに決まってるんだから、ネガティブになんかならないわ。変なこと言わないでよ」
しかし、急にセツナは子供のようにムキになって怒りだした。
それで、なんとなくわかった。
【人の心に踏み込むのは存外に覚悟がいるもの】だ。そんな事に今更気づいた俺は大のつくバカ野郎なのだろう。
覚悟のない俺なんかがセツナの暗部に気安く踏み込むべきではなかったんだ。
だから、わかりたくもないのにわかってしまった。
そう。
【ぶっ君は存在しない】のだということが‥‥‥