初めてのバカップル
「ひぁあ〜っ」
自分の喉から出したことのない悲鳴が発せられた。景色が信じられないくらいのスピードで後ろに流れていく。
「うわ〜〜っ」
どちらが空でどちらが地上なんだぁ〜っ?
訳がわからないっ、、こ、怖い。
「おっ、降ろしてくれ〜っ」
「死ぬっ、死ぬっ。助けて〜」
‥‥
「はぁ、はぁ。」
まだ視界がグラグラ揺れている気がするし、足元の感覚も覚束ない。
「はぁ〜っ、楽しかったね。」
神埼さんは満面の笑みだ。
「ああっ、凄く楽しかったな‥‥」
俺は強がって絞り出すようにそう告げた。
「そっかぁ。だよね。凄く楽しそうだったもんね。また乗ろっか?」
そんなこと言われて、断れる俺ではなかった。
「ひぁあ〜っ」
自分の喉から出したことのない悲鳴が発せられた。
た。景色が信じられないくらいのスピードで後ろに流れていく。
「うわ〜〜っ」
どちらが空でどちらが地上なんだぁ〜っ?
訳がわからないっ、、こ、怖い。
「おっ、降ろしてくれ〜っ」
「死ぬっ、死ぬっ。助けて〜」
‥‥
「はぁ、はぁ。」
まだ視界がグラグラ揺れている気がするし、足元の感覚も覚束ない。
「楽しかったねぇ〜っ」
神埼さんはまたも満面の笑みだ。
これは強がるとまたループしてしまう‥よな?
「ごめんなさい。」
そう謝って、本当は怖がっている事を話す事になった。
「そうなんだ。ごめんね。」
「なんで、そんなに嬉しそうなんだよ。」
そう、なんだか嬉しそうな表情をしていた。
「‥だって、、やっぱり、イオ君可愛いもん」
「‥女の子ってのは普通は男の男らしい所に興味を惹かれたりするんじゃないのか?」
「優柔不断な男の子は私もあまり好ましく思わないけど、、それに男らしさの正体っ「んっ、、あれ?」
俺の目に映ったのは大道芸のパフォーマーだった。
ちょうど円柱の金属の上に鉄板を乗せて、その上で逆立ちしながら足でジャグリングをやっている。
顔は見慣れた人だった。
園崎謙三さん。
俺が憧れる人気パフォーマーだ。
老け顔だが、自称20代らしい。
「うわぁ〜、師匠ってば相変わらずスゲェな。」
「凄いですね?お知り合いの方ですか?」
「いや、こっちが勝手に憧れてるだけだよ。あれでまだ手を抜いてるんだからビックリするよな。」
そう、師匠はさらに片手でで出来るんだが、そこまではやらないらしい。
俺も逆立ちでなければ出来るんだが。
「フフフッ」
「なんで、笑ってるの?」
「キラキラしてる。少年みたいな瞳で、なんだかすごくカワイイから」
「また、カワイイかぁ。今日は俺を恥ずかしがらせて楽しむ趣向なのか?かん‥セツナがそんな性格だなんて今日まで知らなかったよ。」
「フフフッ、幻滅した?これでも普段はみんなの期待に応えられるように頑張ってるんだからね。」
「頑張る方向性がどうなんだろな?まぁ、今のセツナの方が随分話しやすいけど、、、俺を恥ずかしがらせるのはもう勘弁してくれ」
「ちょっとそこのバカップル、イチャついてないで手伝ってくれ。あっ、少年の方だけでいい。」
師匠に手招きされるがままに近づいていくと、耳打ちされた。
「少年。さっきの技、逆立ちじゃなければ少年でも出来るよな?」
まるで心の中を覗かれたように感じられてヒヤリとした。
「さぁて、このなんの変哲もない少年。今から魔法をかけると、なんと大道芸人になるぞ‥‥
さぁ、美味しくなぁれ、萌え萌えキュン」
師匠は胡散臭い魔法を俺にかけたので、観客から笑いが起こった。
「よしっ、見てろよ。いけー、少年」
俺は円柱の金属の上に鉄板を乗せて、その上に乗る。普通はこれで普通に立つだけでも相当難しい。
ただ、公園で練習したりしているので、これ位は余裕余裕。
観客からは疎らに拍手が起こったが、まだちゃんと続きがある。俺がジャグリングを始めると一際大きな拍手が俺たちを包んだ。
「お疲れっ。」
師匠はそう言って俺に飲み物を手渡す。
「ありがとうございます。それにしても、なぜ、おれ、いや僕がジャグリングできるって知ってたんですか?」
「いや。水ヶ池公園で一生懸命練習していたのを見たことがあったからな。まぁ、今日は沢山儲けさせてもらったよ。」
み、見られてたのか?
正直、嬉しいやら恥ずかしいやらで頰が熱くなった。
「ああっ、そうなんですか?園崎さんに見られてたなんて恥ずかしいですけど、少しでもお力になれたらよかったです。」
「そんなに畏まらなくてもいいよ。それより、彼女さんかい?彼氏をお借りして悪かったね。」
そう言って小指を立てる。
若々しく見えるが、この人は意外とオヤジなのかもしれない。
「いえっ、私は彼女じゃないです。」
セツナは即答した。
「えっ、そうなのかい?別れちゃ‥‥付き合っていないんだね?じゃあ、お友達なのかい?」
「ええ。そうですね。イオ、伊織君は「おーい、セツナ、俺たち最近付き合っただろ?」
俺は慌てて刹那の言葉を遮る。
今日の目的を忘れたのか?
俺は刹那にアイコンタクトを送ると、やっと気付いたようだ。
「あっ、数日前に付き合ったから、なんだか慣れなくて。」
言いながら俺と手を絡ませる。
「そうか、そうなんだな。良かった、本当に良かった。」
園崎さんは目尻に涙を滲ませた。
「いや、あの、園崎さん。どうしたんですか?」
「すまない。気にしないでくれ。デートの邪魔なんて野暮なことしてすまなかったね。それじゃ」
なんだか早口で話すと、去って行った。
俺は園崎さんの事が凄く気になったが、セツナの次の言葉で園崎さんの事はすっかり頭から抜けてしまった。
「そろそろ、お昼にする?私、お弁当作って来たの。」




