初めてのラジオ体操
前回のあらすじ
神埼さんと付き合う事になった。
フリだけど、、、
『どうすればあの女の情報が手に入るのか』
深く悩んでみても、ぼんやり悩んでみても‥
全然わからなかった。
なぜ情報が必要かって?
だって、俺が神埼さんをモノにしたフリをするにしてもあの女に見せないと意味がないからだよ。
今日もソファーに寝転がってそのことばかり考えていた。
「おいっ、伊織、休みに入ったからってダラダラしてるんじゃないよ。」
弟の武史【たけし】が呆れたような声をだす。
「いや、高校にもなると色々あるんだよ。小学生にはよくわからないかもしれないけど。」
「こども扱いすんなよ。小6だって色々あるって。伊織にはわかんないかもしんないけど、女の子に告白されたりとかね。」
武史は少し前は可愛かったのに、最近はこういう挑発的な行動をとることが多くなってきた。
「‥ああっ、悪かったな。告白された事なんて生まれて一度もないわ。でも、可愛い彼女ならいるぜ」
嘘の彼女だけどな。
「えっ?彼女居たの?だったらなんで、、、いや、どうせ無自覚なんだろ?ホント嫌になるよ、こんな兄貴で」
しかし、武史は俺を見直すでもなく、むしろ軽蔑したような呆れたような視線を向けてそう言った後、去って行った。
はぁ〜っ、反抗期なのかな。
最近ずっとこんな感じだ。
正直、小学生の考えることはわからない。
ご近所の結衣ちゃん位わかりやすかったら良かったのに。
翌日、思わぬところから例の恐ろしい女の有力情報が耳に入ってきた。
あれは小葉のノロケを聞いていた時のことだった。
どんだけ神埼さんのことが好きなんだよ?
「あっ、そう言えば、セッちゃんとデート中にずぅ〜っぅっとついてくる人が居たんだ」
それを聞いて俺は食い気味にどんな奴か聞いてみると、間違いなくあの女だった。
どうやら、俺が行けなかったあの日にプレジャーパークに居たらしい。
早速、真偽を確かめる為に神埼さんにデートを申し込むハメになった。
行き先はもちろん、プレジャーパークだ。
数日後、、、
「待ったか?」
俺は待ち合わせ場所のワンコの銅像の前で先に待っていた神埼さんに声をかけた。
神埼さんは淡い水色のトップス、白のプリーツチュールスカートに白のレースアップシューズといった服装で、まさに清楚オブ清楚と言った装いだ。
なぜか、そんな服装に似つかわしくない大きなエコバッグを持っている。
俺はというと、ジーパンに、無地のポロシャツという貧相な格好だった。
それでも、中学ん時の学校ジャージを履いてこなかっただけ、俺なりに身だしなみに気を使ったんだけどな。
「いいえ、今来たとこ。」
神埼さんは澄ました顔でそう告げるけど、
それはウソだとはっきり分かった。
少なくとも30分は待っていたよ。
なぜわかるかって?
だって俺は30分前から、道路を挟んで向かい側のビルの三階の喫茶店から神埼さんを見ていたからだ。
もちろん、『遠くから美少女を舐め回すように見るのがおれの趣味』だからじゃないよ?
周りを見渡して例の女が居ないか確認する必要があったからだ。
まぁ、結果は空振りに終わった。
あまり期待してなかったとはいえ、思わずため息が漏れてしまう。
しかし新たな発見もあった。神埼さんは30分の間に5回も声をかけられていた。
もしかして「ナンパされてたのか?」
思わず声に出してしまうと、
「えっ?見てたの?見てたなら助けてくれればよかったのに。」
彼女にしては珍しく頰を膨らませた。
その仕草がいつもより無防備で、なんだかかわいらしい。
「いやぁ、ちょっと間に合わなかったんだよ。これは興味本位で聞きたいんだけど、何回ナンパされたの?」
神埼さんはその質問に反応して両手の手のひらをこちらに向けた。
うそっ?
まさか、、、二桁いったのか?
というか、、、、
「まさか1時間くらい前から待ってたの?」
「えっ?なんで知ってるの?」
神埼さんが驚いた顔をしていて、俺はミスを犯したことに気づいた。
そう。単純に30分観察していて5回だから、10回なら大体それくらいだと思ったのだが、、、もちろん、それは言えない。
「いや、トモヤ、友達が大体それくらいのペースでナンパされるんだ。」
俺は見え透いた言い訳を口にするが、予想外に彼女の気をそらす事はできた。
しかし、、、
「友達?あなた、、、、、小葉さん以外に友達いたの?」
神埼さんは無自覚に人の心の傷にザクザクっとナイフを突き立てた。
思わずダイイングメッセージを書こうとした俺は我にかえる。
「いっ、いるわ。それより、、、セ、、セ、、せつなもか?」
「名前を呼ぶのに、そんなに吃ることないじゃない。」
「まぁ、ジョジョに慣れていくから勘弁してくれ。」
とジョジョ立ちでそう告げた俺は驚愕に目を開いた。
神埼さんが俺の横に並び、俺の腕に腕を絡めてきたからだ。
サブミッション??
王者の技の使い手か?
俺は関節を決められまいと、彼女から距離をとった。
「えっ?伊織君って、女の子には触れるのもダメなの?」
しかし、神埼さんは俺がまるで女嫌いのような言い回しで俺を非難する。
失礼な。
さっき胸が少し当たってドキドキしたわ。
しかし、一流の男というのはこういう時、動揺した情けない姿なんてみせないものだ。
「いやぁ、こういう時は腕を組むんじゃなくて、手をつなぐものじゃないか?」
そう言って爽やかな笑顔を浮かべて手を差し出す。
神埼さんは釣られて俺の手を取ろうとしたけど、俺の手に触れるか触れないかの所でビクッとして手を引っ込めた。
「手、手汗」
そして、神埼さんがそう呟いたので、俺はさりげなく自分の手の平を確かめて愕然とした。
緊張で手の平にビッチョリ汗をかいていたよ。
「うわーっ、ひいちゃうよなぁ〜」
俺は自虐的に笑いながらそう言ったが、神埼さんは笑ってはくれなかった。
「本当にごめんなさい」
言いながら頭を下げてしまう始末だ。
いや、謝られると余計みじめな気分になるんだけど。
どこかのオネエタレントみたいに『ドン引きい ぃ〜っ』なんて言ってケタケタ笑ってくれたほうが随分マシだよ。
それから、無言の時間が続いた。
ホントに針のムシロ状態で、背中の汗が止まらない。
彼女は思わず『手汗』と口走ったので、懺悔タイム中なのかもしれないが、沈黙が重い。
これからこの調子で彼女と数時間は共にすると思うと思わずため息が漏れそうになった。
大体、俺は神埼さんのことはほとんど何も知らない。そして、この気まずい雰囲気。
はっきり言って苦痛だ。
あと数時間これが続くのか?
チラッと彼女を見てみると彼女は心配げな目でこちらを見ていた。
その様子を見て俺は赤面することになった。
もともと俺が神埼さんを巻き込んだのに、彼女の失言一つで機嫌を悪くした俺を彼女は心配してくれていたのだ。
それに気まずいのはお互い様だろう。
いや、男子である俺に対して警戒心のある中、彼女は頑張ってくれているよな。
ここは俺から折れるべきだ。
素直に謝ろう。
「悪かった。可愛い子と2人きりとか、緊張して手汗をかいてしまったな。普段はそんなことないんだけど、まぁ気にしないでくれると嬉しいよ。」
俺はちょっと言い訳じみた謝罪をしながら頭を下げたが、顔を上げてみた神埼さんの反応は予想外だった。
「えっ?」
そう言って、驚きの表情で口元に手を当てていた。いきなり謝りだして変な奴だと思われてしまったの?
「あ〜っ。うん、、そ、そうなんだ。はいっ」
神埼さんがハンカチで手を拭いてから、左手を差し出す。
つられて、服の裾で手汗を拭いて彼女と手を繋いだ。
こ、恋人繋ぎ??
思ったより密着度が高い繋ぎ方だと、生まれて初めて体験してみて初めて気付いた。
自然と頰が熱を持つ。
チラッと神埼さんを見ると、彼女も照れのせいか頰が朱に染まり、俺は本当の意味で神埼さんを可愛いと思ってしまった。
鼓動の音が高鳴っているけど、バレてないか?
また手汗が怪しいけどバレてないかな?
ぁあっ、柔らかい、、、
なんて思いを紛らわせる為に、俺は心の中でラジオ体操の曲【曲名はわからん】をエンドレスで流す羽目になった。
お久しぶりですみません。
呆れずに読んでいただけると幸いです。