初めてのお付き合い(嘘〕
かんそうっ、とか‥‥頂けると嬉しいです。
あっ、感想欄に『かんそう』とだけ書くのは出来れば遠慮したいですけど。
「ふぁ〜っ」
俺は欠伸を噛み殺しきれなかった。
昨日一日後悔で眠れなかったのだ。
そう、相原にアタックしている場合じゃなかったことに今更気づいてしまった。
神埼さんにアタックしないと小葉がどうなるかわからないのに、、、、俺ってバカ。
でも、神埼さんをものにする方法なんてあるのだろうか?想像もつかない。
それで、結局唯一思いついた方法を試すことにした。
1時間目の休みに神埼さんに時間を貰って、渡り廊下で人目も気にせず頭を下げた。
「神埼さん、頼む、小葉の為に俺の彼女になってくれ。本当に頼む。」
‥‥一つだけ言い訳させて貰うと、俺も余裕がなかったんだ。
「???はい??どういうこと?」
顔を上げて俺が見たのは困惑気味の神埼さんだった。
「悪い、説明を端折りすぎたな。小葉はあの年代のピアノの世界では相当な有名人なんだけどな。実は俺、神埼さんをモノにしないと小葉の指が、、、、、「ちょっと、落ち着いて、、、全然何言ってるのかわからないよ、、、落ち着いて。」
俺の言葉を遮った神埼さんは両手を俺の両頬に当てた。彼女の手がひんやりとしていて気持ちいい。
それで、少し落ち着いた。
「すまない。以前神埼さんとファミレス行った後に知らない人から『神埼さんと付き合わないと、小葉の指がどうなるか?』って言われたんだよ。」
「う〜〜ん‥‥‥‥‥」
俺が素直に事情を打ち明けると、神埼さんが腕を組んで考え始めた。
しかし、そのポーズは胸が強調されるから目の毒だ。できれば控えて頂きたい。
「ウソじゃないようね。」
神埼さんは俺の目の奥を覗き込むように真っ直ぐに見つめた後、軽く口の端をあげた。
「当たり前だ。俺はそんな下手なウソはつかないよ。それより、フリでいいんだ。」
そう言ってからオレは息を吸い込む。
「俺と付き合ってくれ。」
そして、やや強めの口調でそう告げながらまたも頭を下げた。
‥‥あれ?
沈黙が辺りを包んでいる。
俺は沈黙に気圧されて、なんだか高山にでもいるように息苦しさを感じてしまう。
‥‥‥‥
‥‥‥‥
‥‥‥‥頼む、何か喋ってくれ‥‥
「‥‥‥‥うん。わかった、付き合うわ。」
長い逡巡の後、彼女は首を縦に振ってくれた。
「ありがとう。本当に感謝する」
俺はまた頭を下げた。
「あっ、、、ところで、どうやってその脅してきた人にこの事実を伝えるの?連絡先は貰ってる?」
「いや、貰ってない。だから俺たちが付き合ってる風の雰囲気を見てもらわないとこまるんだよな。」
そう、肝心な事を考え忘れていた。
「だったら、ある程度まわりにも私達か付き合ってるって話しておかないとダメかしら。」
追いつめられて思考停止してしまっていた俺と違い、彼女の頭はよく回る。
仲間になってくれて本当にありがたかった。
正直に言うと心強い。
「そうだな。特に小葉は嘘がつけない性格だからな。昼食の時にでも伝えておくか?」
そう、どうせ、昼休みに小葉と一緒に炭‥お弁当を食べることになっている。
「そうね。そうしましょう。後は、あの、その、伊織君、好きな人とかいるよね?その人にはどう説明するの?」
気遣うような視線を向けるということは、俺の相原への気持ちはお見通しらしい。
女の子の観察眼って本当に恐ろしい限りだ。
「言うしかないな‥‥言うしかないんだよな」
俺はいまいち踏ん切りがつかなかった。
それでも、小葉の為に。
「小葉さんほど素直な性格じゃないし、事情を話せばうまく話を合わせてくれるんじゃない?」
うーん、相原がそんなに器用な性格ならあんなに見事にぼっちになったりしない。
「いや、たぶん、無理だろうな。ああ見えて、かなり不器用なんだよ。だから今は、神埼さん以外には秘密にしようと思っている」
そう、小葉も相原もトモヤも、嘘が苦手だ。
「偶に会うけどそんな印象は受けたことなかったわ、、、、でも、そうなのかしら?わかったわ。小葉ちゃんの為だもんね。」
そう言って神埼さんは作り笑いを浮かべた。
そう言えば、神埼さんのちゃんとした笑顔って見たことないかも。少し辛そうな顔をしていることが多いんだよな。
まぁ、俺も最近よく会うようになって気付いたくらい微妙な表情の変化だから気にすることもないけど、正直言って気に入らない。
だって彼女はお金持ちだし美人だし、他の人より恵まれている。それなのに、この世の不幸を一身に背負った悲劇のヒロインみたいな態度をとるのは正直鼻につく。
だから、友達が少ないのだろうか?
結局話は長引いて、俺達は2時間目の授業に遅れるのだった。
「へっ?」
そう呟いた小葉は口をポカンと開けて間抜けな顔を浮かべている。
ここは昼休みの屋上。
俺と神埼さんは打ち合わせ通り、小葉に【俺と神埼さんが付き合っている】と打ち明けた直後の小葉の様子だ。
「ごめんね。隠してた訳じゃないんだけど、中々言い出せなくて。」
神埼さんは作り笑いを浮かべた。
「ううん、ごめんなさい。ちょっとビックリしただけだよ。お、おめでとう。」
普段、物事に頓着しない小葉にしては珍しく、動揺していた。
「ありがとう。でも、今日も明日も一緒に帰るからな。えーと、、ほら、、神埼さんは小葉の親友なんだし」
そう、今は小葉は1人にするわけには行かない。
「えーと、、、ごめん、伊織、何か言った?」
「いや、だから神埼さんと付き合ってるけど、昼と帰りは今まで通り小葉と一緒だからな。」
そう、1人で帰らせる訳にはいかないんだ。
「う、うん。わかった。」
「わかってもらえて良かった。付き合ってるからって俺とか神埼さんに遠慮は要らないからな。」
「うん。それより、呼び方。」
小葉に指摘されて、思わず『しまった』という表情を浮かべる。
「あーっ、イオ君ってば、恥ずかしがって名前で呼んでくれないのよ。」
しかし、神埼さんはすかさずフォローしてくれた。意外と頭の回転の早い人だ。
それにしても、『イオ君』って、、、、
「しょ、しょうがないだろ?なんだか照れるんだから。そんなことより、今日も作ってきてくれたんだよな、炭。」
動揺して、言い間違えた俺は何者かに殴られて一瞬意識が飛ぶのだった。
そして昼飯の後、相原にも話をしようと思ったけど、相原は早退したらしく話は出来なかった。
そして、相原は次の日も休みで、そのまま夏休みに突入した。
もちろんですが、神埼さんは伊織の好きな人を勘違いしたままです。わざと若干分かりにくく書いてますので念のため。




