初めてのハーレム状態
すみません、書き溜めしてました。
感想とか頂けると嬉しいです。
宜しくお願いします。
今日も見上げるかぎり雲一つない素敵な空が頭上に広がっている。
こんな空を見ていると、自分がちっぽけな人間だってハッキリ自覚させられて、なんだか逆に居心地が悪い。
そして、今度は視界を地上に戻すと、本当に心底居心地の悪い空間が広がっていた。
左に相原、右に神崎さん。そして斜め前に小葉が歩いている。
可愛い女の子達に囲まれて、側から見ればハーレム状態なのかもしれない。
けれども、現実というものはそんな夢のような状態を許してくれるほど甘くはなかった。
チラッ、、、
神崎さんが相原をチラ見する。
これでもう何度目だろうか?
そして、そんな神崎さんは居ないものだという態度で相原は瞬きもせずに俺を見つめていた。好きな娘に見つめられるのがこんなにドキドキするだなんて思わなかった。
もちろん、心臓に悪いほうのドキドキだ。
だって、相原が浮かべているのは笑顔。なのに全く感情らしい感情が浮かんでいないのだ。
それに、さっきから誰一人口を開いていないので、なんだか気持ちだけではなく、空気すら重く感じてしまう。
おかしい‥‥‥‥
俺まで‥‥‥‥‥‥
声が‥‥‥‥‥‥
出ない‥‥‥‥
た、す、け‥‥‥
俺はこの緊張感に耐えきれなくなって小葉に視線で助けを求めるが、小葉は目を瞑って身体の前でエアピアノを弾いていた。
マイペースこの上ない態度がなんだか小葉っぽくてしっくりきてしまう。
‥そういえば、コンクールが近かったな。
それでも、どうしても気づいて欲しくて小葉に顔を近づけるが、まるで気づいていない。
こんな修羅場的な状況で、、小葉はゾーンに入ってやがる。
皆といるのに完全に1人の世界にいるようだ。
さすが【孤高の戦士】の二つ名はダテじゃないらしい。
「どうしたんですか?そんなに小葉さんに近づいて。せっかく私が一緒に帰ってあげてるのに。」
少し膨れっ面の相原はなんだかご機嫌ナナメに見える。そう言えば、相原ってばかなりの人見知り屋さんだったな。
初対面の相手に毒を吐いて、相手に嫌われる。
そこまでが相原のルーティーンだったりする。
「そうだよな。神崎さん、今日は恩返しはやめて帰ってくれないか?」
だから、俺は神崎さんにお願いする事にした。
それに、俺だって相原と2人きりで放課後デートがしたいし。
「恩返し。受けるよね?」
しかし、神崎さんは感情が見えないハイライトの消えた瞳で俺にそう問いかける。
ヤンデレ‥って訳じゃないよな?
なんだか切羽詰まった感じなのだが、そこまで恩返しがしたい意味がやっぱりわからない。
「いや、明日からまた恩返し受けるし、今日はやめとかない?」
「えっ、やっぱり伊織君ってお祖父様の言ったような、、、」
神崎さんが何か呟いたが俺の耳には届かない。
「何か言った。」
かなり気になって問いかけたが、
「なんでもないですよ。そう言えばもうすぐ、夏休みですよね?ご予定とかあるんですか?」
不自然な程、話題を変えられてしまった。
「いや、部活もバイトもやってないからな。ないよ。」
そう。夏休みはまるまる空いている。
「そうですか。。。わかりました。私が一肌脱ぎましょう。任せてください。」
神崎さんはそう言って胸を張る。
やっぱりDはある気がする。
「わかった。じゃあ、また明日。」
俺は彼女の胸から目を逸らして片手をあげた。
しかし、小葉が心配だったので神崎さんの家の車で小葉のウチまで送ってもらうようにお願いすることにした。
そして、とうとう相原と2人きりだ。
相原は何故か鼻歌混じりで弾むように歩いている。神崎さんの事が相当苦手で、今、開放感に浸っているのか?
そう言えば、相原ってば小葉とも相性が悪いんだよな。
「相原、そういえば一緒に帰るの、久しぶりじゃないか?」
俺はふと思い出して、そう口に出した。
そう、高校にはいってからは初めてだ。
「そうですよ。今頃気づいたんですか?684日と1時間6分ぶりなのに」
相原が髪をかきあげる。
まずい。
この仕草は彼女が、機嫌が悪い時によくする仕草だ。なにか選択肢を間違えてしまったらしい。
「えっと、そうだったな。よく覚えてたよな」
俺は爆発物処理班のように慎重に、ほんとに慎重に言葉を選んで話す。
「、、そんなことも覚えてないんですか?」
呆れたような言葉が耳に痛い。
「いや、覚えてたよ。」
いや、まぁ、嘘だけど。
「本当ですか?それにしても話題が思いつかないです。事前に話すことを考えてくればよかった。」
相原は困ったように目を細めて頬に手をあてる。どうやら、冗談とかではなく俺との会話に困っているようだった。
俺もあんまり積極的に話しかける性格じゃないんだよな。
だって、トモヤ以外のクラスメイトに話しかけると『コイツ、誰?』って目でみられて悲しくなるから。
「いやいやいや。話題なんてなんでもいいだろ?」
俺は焦りつつそう言ったけど、実は少し悲しかった。もう俺と相原はあの頃の距離感ではいられないんだろうか?
「あっ、そ、そうじゃないんです。久しぶりに一緒に下校するから、緊張しちゃっ‥‥いえ、何でもないです。忘れてください。」
「えっ?俺ってそんなに話し辛いの?自慢じゃないけど、俺ってそんなに人に気を遣われたこととかないんだけど。」
まさか、先輩だからって気を遣われてた?
前はそんなことなかったのに。
「先輩って怒ったりしないですもんね。それより、聞きたいことがあるんですけど、、先輩ってす‥な人いるんですか?」
相原が珍しく窺うような目で俺を見つめる。
声もボソボソと喋って、まるで相原じゃないみたいだ。
いつもの切れ味鋭い毒舌はどうしたんだよ?
俺はますます悲しくなって視界が少し滲んだ。
「えっ?悪い、聞こえなかった。もう一度言ってくれないか?」
「ごめんなさい‥‥もう、いいです。やっぱり聞くの、ちょっと怖い」
「ん?何聞いたかしらないけど、俺が相原を傷つけたりするわけないだろ?ほら、怖くない怖くない。‥‥ほらねっ、怖くない。ねっ、怯えていただけなんだよな。」
「なんで、○ウシカなんですか?先輩って馬鹿なんですか?」
あっ、いつもの相原で少しホッとしてしまう。
そして、気が緩んで口も緩んでしまったのか
「そういう臆病な所も、それで、思わず相手に酷いことを言ってしまう所も相原っぽくて、、、好きなんだけどな。」
ドサクサに紛れて好きって言ってしまった。
ドクンッ、ドクンッ、
自分の鼓動の声が急に騒がしくなった。
多分気のせいだと思うけど、それくらい余裕がなくなってきた。
だって、今の2人の距離感で言うセリフじゃないってことに今頃気付いてしまったからだ。
相原の反応が気になるけど、怖くてまともに彼女の目を見られない。
相原のこと臆病とか言っておきながら自分も臆病だったりするんだから、俺ってなんだか馬鹿みたいだ。
「うぅ〜っ、先輩はちょっと黙ってて下さい。どうせあの人にも言って、、」
半分予想していた反応だけど、相原は顔を真っ赤にして怒っていた。さっきから3秒に一回のペースで髪をかきあげているし、、、
どんだけ不機嫌になってるんだよ。
ちょっと泣きそう。
「悪いっ。別に相原に不快なおもいになってもらうつもりじゃ「そ、そうですね。じゃあ罰として今度の日曜日、私をプレジャーパークに連れて行って下さい。」
そう言って相原は顔を背ける。
プレジャーパークは遊園地の名前だ。
絶叫系のコースターや、お化け屋敷まで完備していてそれなりの規模を誇っている。
まぁ、行ったことねぇけど。
うーん、それにしてもなんで罰なんだ?
‥‥あっ、もしかして、、園内フリーパス券を俺に買わせるつもりなのか?
やばい、俺、金がない。
自分の顔から血の気が失せるのを感じる。
「‥やっぱりイヤなら「いや、行く行く、なんとかするから。大丈夫。うん、大丈夫。」
俺は借金してるのを妻に見つかった旦那のように、なんの根拠もない大丈夫を繰り返す。
『大丈夫』を繰り返す人形のようになってしまった俺は果たしてうまく笑えているだろうか?
「そんなに無理して応じなくても良いですよ。私と一日中一緒だなんて罰ゲームみたいなものですもんね。」
相原はそう言いながら小石を蹴飛ばした。
小石は地面を転がり、電柱に当たって止まった。
「ん?罰ゲームな訳ないだろ。じゃあ、一緒にプレジャーパークに行く。決定な。楽しみにしてるぞ。」
そう言って別れた俺の頭の中は金策でいっぱいいっぱいで、肝心なパズルのピースが抜けていることに気づかない。
そう、友達の少ない俺は知らなかった。
プレジャーパークはカップルの巣窟だということを。