初めての【めいれいさせろ】
今日は神埼さんが家の用事があるとかで
1人で帰ることになった。
俺1人での下校では誰にも注目されず、自然と肩の力が抜ける。それでも、1人ってのはなんだか違和感が拭えない。
太陽はまだ高く、雲一つないってのに気分が雲のように浮き上がったりはしなかったし、開放感は微塵も感じられなかったのだ。
うん、きっと少し寂しいのかもしれない。
最近、なんだかんだで騒がしかったからな。
「あれ?色男先輩、今日は可愛い彼女と一緒じゃないんですか?」
可愛い後輩である相原が声をかけてきた。
しばらくまともに話せていなかったので実はちょっと嬉しい。
「相原、なんでそんな呼び方?意味わかんないんだけど」
「えっ?先輩って先輩のクセに彼女できましたよね?」
相原は少し怒ったような、拗ねたような口調で再度質問してきた。目もなんだか俺を睨んでいるように見える。
「‥彼女?そんなのいないよ。」
しかし、なぜ彼女?
‥‥もしかして、神埼さんのことか?
「えっ?あっ、あれ?神埼先輩とお付き合いしてるわけじゃないんですか?」
相原はやっぱり勘違いしていたようだ。
少し目を見開いて驚きの表情をしているが本当に驚いたのはこっちだ。
どう見ても恋人同士にはみえないだろうが。
「神埼さんとお付き合いなんでしてねぇよ。彼女好きな人いるらしいしな」
そう、ぶっ君が好きらしいのだ。
そういえば、ぶっ君ってやはり宇治橋先輩なのだろうか?聞いてみたいが、今日はせっかく相原に会えたんだ。
このまま一緒に帰りたい。
「そうなんですか?まぁ、そうですよね。先輩がモテる訳、、、ないですよね。」
相原が弾けるような笑顔を浮かべる。
TPOはともかく、めちゃくちゃ可愛い。
はぁ〜っ、嫁になってくれないかな。
「おいっ、なんで嬉しそうなんだ?俺がモテなくてそんなに嬉しいか?」
「あははっ、、、そんなことないですよぉ」
「って棒読みで言うなよ。俺だって本気出せば彼女の1人や2人つく、、、、れるかもしれないだろ?」
そう。作れるとは言っていない。
「フフフッ、先輩が彼女?あっ、先輩の狙い通り笑ってしまいました。人を笑わせるのが先輩の特技だったんですね。だって、先輩に彼女が出来るなんて、ペンギンが空を飛ぶくらいありえないですもん」
相原はさっきと言ってることが全然違うのだけど、、
「言っておくが、笑わせるのはとくいじゃないし、ペンギンは空を飛ぶ必要が無くなったから羽が退化したんだぞ。空を飛ぶ鳥を見上げて羨ましそうにしている俺たち人間と一緒にしないでくれるか?」
「はぁ、出ましたね。先輩のアニマル豆知識。えっと、、、早送りしていいですか?」
ジト目で俺を見つめる相原もなかなかに可愛い。
「こら、今いいところだろうが?むしろ、録画して繰り返し見て欲しいくらいだぞ」
「そんなに何回も見られたいんですか、、、?ほんと、先輩の性癖に付き合わせるのはやめて欲しいんですけど、、、いやらしい」
「まて。俺がセクハラしたみたいな言い方はやめろ。誰が見られて興奮する性癖なんだよ?」
「‥‥もしかして、卑猥なことを私の口から言わせて興奮しようと思ってます?」
相原は絶対零度の瞳で俺を見つめる。
その瞳はある種の方々にとっては最大のご褒美なのかもしれないが、俺は無実の罪を着せられた哀れな子羊の気分だった。
「違う〜っ。それより、せっかく帰りが一緒になったんだし、一緒に帰らない?」
「ごめんなさい、、間に合ってます。」
相原は食い気味でそう答える。
「頼む、、、1秒でいいから考えてくれ。」
「1、ごめんなさい。間に合ってます。」
ちゃんと1秒数えてから断るあたりが律儀というか、意外とノリがいいというか。
「いや、やけに素直だな。じゃあ、一晩考えてみようか?」
俺も悪ノリしてそう返す。
「わかりました。一晩考えます。それでは先輩、さようなら。」
そう言って相原は走り去っていった。
しまった。
断るいい口実になってしまったか。
翌日、眠い目をこすりながら校門を抜けると、後ろから誰かにぶつかられた。
「ってぇ、、って相原、どうしたの?」
「さっきから『待って』って言ってるのになんで待ってくれないんですか?」
「ぁあっ、悪い、気付かなかった。」
俺はイヤホンを外しつつ相原に頭を下げると
「いいですよ。」
そう言って相原は去っていった。
どうやら無視してしまったことは許してくれたようだ。
そして、放課後。
同じ校門の前で俺は頭を抱えていた。
どうして、、、どうしてこうなった?
あれ??俺が悪かったのか?
そう。
今日は神崎さん、小葉。
そして、、、相原、俺の4人パーティでの下校となってしまったのだ。
作戦は【めいれいさせろ】を選んでもこの3人の内、誰1人俺の命令を聞いてくれなさそうだ。
俺はひどく憂鬱な気分で学校を出るのだった。