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初めての居眠り



「‥‥じゃなくなったお前なんて、もう友達じゃないからな。ちか‥んな。びん‥‥に‥。」

いつも行動を共にしていたアイツが言う。


友達だったんじゃねぇかよ?

なんでそんなこというんだよ?



「蒼井くんって、よく見ると全然カッコよくないかも。」

俺に気があるのが丸わかりだった女の子が言う。



「蒼井君と居ると蒼井君の‥‥さんみたいに‥‥‥‥になるから仲間に入れてあげない」

クラスの友達がそんなことを言う。


俺自身の価値なんて所詮そんなものなんだろ?



「伊織、、ちゃんと聞いてね。今、先方から‥‥のお断りの連絡が来たの。仲が良かったのにほんとごめんね?」

母さんがくたびれた声でそんな事を言う。


もう、どうでもいいよ。





「‥いさん、、、ちょっと、、起きなさい。蒼井さん、授業中ですよ。」

教師に耳元で騒がれて、ようやく頭が覚醒してきた。


なんだかよく覚えていないけど、夢を見ていたようだった。



俺は教師に頭を下げると、不安を消し去るように懸命に授業に集中した。






放課後

知らぬ間に、神埼さんと小葉が背後に立っていた。


あっ、そういえば、今日から小葉も一緒なんだよな。


今回は三人ということもあり、校門までの周りの視線もいつもより柔らかく感じられる。


それにしても、この状況でどうやって神埼さんのことをモノにすればいいんだ?




「ねぇ、伊織君、、」

暫く無言で歩いていると、神埼さんから声がかかった。



「神埼さん、どうした?」


「伊織君ってなぜ‥‥いいえ、なんでもないわ。」

神埼さんは『思わず質問してしまった』というような様子だったがすぐに質問をやめてしまった。



そういうの、余計に気になるんだけど。



前から思っていたけど、この娘、あんまり言いたい事をハッキリ言わないんだよな。


よく言えば奥ゆかしく見えるけど、自己主張が出来ない、衝突を避けるタイプなのかもしれない。


ただし、恩返しだけはガンガンしたがるんだけど、なんなんだろうな、これ。


何か理由でもあるのだろうか?


「神埼さん、気になる事があるんなら、ハッキリ言ったらいいって。自分の気持ちを伝えるってのも大切な事だし、我慢ばっかりしてんなよ。」



「えっ、、、、」

言い過ぎてしまったようで、神埼さんが絶句してしまった。


余計なお世話だったのか。


よく考えると、親しくもない俺がそんな押し付けがましいことを言うべきではなかったのかも。


「えっ、、、、」

今度は俺が絶句する事になった。

だって、神埼さんの頰から涙が伝っていたのだから。


「悪い。そこまで気にしてたのか?無神経なこと言って本当に悪かった。」

泣くほど嫌だったなんて

本当に無神経だな、俺って。



「ご、ごめんなさい、違うの。ちょっと、、、、楽しかった時のこと思い出して」

神埼さんは言いながら涙を拭う。



「なに、せっちゃん。その言い方だと今は楽しくないの?私は『今が1番たのし〜っ』って思いながら毎日過ごしてるよ。それが音に出るって師匠も言ってるしね。」

そう、小葉は友達が居なくても毎日前向きだ。



まぁ学校ではともかく、ピアノの前では輝いてるからな。ある意味ではリア充とも呼べるかもしれない。



「そうだよね?ありがとう。小葉さんのそういうところ、本当にすごい、尊敬しちゃうよ。

ところで、師匠って何の師匠なんですか?」


「私のピアノの師匠だよ。すごい音を出すんだから。」


「小葉の師匠って有名ピアニストの二宮綾さんなんだけどな。神埼さん、知ってるか?」

俺が補足説明する。



「うん、知ってるよ。祖父の誕生パーティに演奏に来てくれたことがあったから。」

世界的に有名なピアニストが誕生パーティに来るのか?金持ちパワーって思ったよりすごいな。


まぁ、俺は金持ちが好きではないけど。



「ああっ、それ知ってるよ。師匠が『亜麻色の髪の乙女で感激させて、超絶技巧練習曲のマゼッパで観客を黙らせてやった』って言ってたもん。」

何してんだよ?あの人は?


マゼッパなんてあまり一般ウケしない上に超難しい曲だ。綾さんはそれを何故だか観客への威圧に使っているからタチが悪い。



綾さんは俺も何度かあったことあるけど、ちょっと何やらかすか分からないタイプの人だ。


それにまだ20代中盤のはずなのだが、妙にズバズバ説教くさいことを言うのだ。


「小葉は毎日覚悟を決めてピアノの前に座ってるよ。妥協なんて一切許さない。彼女は疲れや病気も言い訳にしないし、それこそ魂を削って演奏しているんだ。それにひきかえ、君はなんだい?何をするでもなく、覚悟もまるでない。友達だってワザと作らないんじゃない?あぁっ、ごめんね、友達できないんだよね?君みたいな後ろ向きな子と誰が友達になりたいって思うよね?」

なんて事を笑顔で言ってきたこともある。



目がキリッとしたタイプのスレンダー美人さんだけど、あまりお近付きになりたいとは思えない。





まぁ、とにかく今日はカキ氷専門店に行ってさっさと家に帰った。









謎の女と伊織の邂逅の後に時間は遡ります。





結衣視点


いつも通り伊織さんが家の前を通りかかるのを窓から確認した後、大急ぎで玄関から飛び出す。


そしていつも通り伊織さんの顔を見てドキッとしました。



だって、、、今にも死んでしまいそうな表情を浮かべていたから。



何が伊織さんをそんな姿にしたのかはわたしにはさっぱり分からなかったし、


『私が何とかしてあげる』

なんてずいぶん年下の私がいっても伊織さんは安心なんてしてくれないんだろうな。



それでも、、、、、、私は、私自身が伊織さんに何かしてあげたかった。



だから、自信作のクッキーを作って翌朝手渡すことにしました。




その夜。試作をすること、8回目。


「結衣の手作りのお菓子を食べれるのはお母さん、嬉しいよ。でも、もう食べられないよぉっ。」

お母さんは口元を押さえて青い顔をしています。



そんなこと言ってる私も味見のし過ぎで少し気持ち悪くなっていました。


「あのねぇ、結衣は『完璧主義過ぎる』ってお母さん思うんだ。女の子の手料理っていうのはね。多少、不出来でも、一生懸命作ったら喜んでくれるものよ。というか、もう、これ、店で出せるレベルよ。結衣はコンテストで優勝でもするつもりなのかしら?」

お母さんの呆れた顔で私がやり過ぎたのにようやく気付きました。



「お母さん、明日も仕事なのに無理させてごめんなさい。」


「いいのよ。それより、伊織君、喜んでくれると良いわよね。」


「私は伊織さんに渡すなんて言ってないもん。」


「じゃあ、誰に渡すの?あれ?他に好きな人できたの?」


「他の人なんて好きになりません。お母さん、なんでそんなこと言うのよぉ〜。」


「あぁっ、だって、、、結衣って普段クールな癖に、伊織君の話をすると、急にからかいがいが出てくるもの。」


「もぅ〜っ、お母さんのイジワル」



そんなやりとりの翌朝、私は玄関を開けた伊織さんの顔を見て愕然としてしまいました。


もう、何日も眠っていないような酷い隈が目の下にくっきり出来ていたし、その目も弱々しく、なんだか伊織さんが伊織さんじゃないみたい。



「あれっ、結衣ちゃん、どうしたの?」

私に気づいた伊織さんは取り繕った笑顔を浮かべました。


その態度に何だかよそよそしさを感じて心の中に冷たい風が吹く。不安な気持ちが抑えきれなくなりました。


無力感や寂しさが綯い交ぜになった自分フタをするように私も作り笑いを浮かべる。



「伊織さん、はいっ。私はこんな事しか出来ないけど、食べて元気出して下さい。私はいつでも伊織さんを応援してますから。」

伊織さん、本当に大丈夫なのかな?


伊織さんは無言で私の頭をクシャッと撫でてから、そのまま去って行きました。



うーっ、もっと何かしてあげたいのに。



「ゆーぃ。暗い顔してどうしたんだ?」

ショートの茶髪で、少年のような格好をした私の親友、奈々が私の前で手をフリフリする。


「伊織さんが落ち込んでるから元気付けてあげたいんだけど、私なんかがそんなに踏み込んで良いのかな?」


「あぁっ、それなら簡単な解決法があるぞ」


「えっ?奈々、わかるの?」


「あったり前。伊織さんと恋人同士になれば良いんだよ。恋人同士なら結衣だってそんな悩み方はしないって。」


「そういう問題じゃない気がするんだけど?」


なんて相談とも言えないような相談を終えても、私はまだ悩んでいました。



空を見上げると雲一つない、壮大な空が視界いっぱいに広がっています。


ちっぽけな私は目を瞑り、意識を空に溶かすと心が自然と軽くなる。そして、そっと目を開けると視界が輝いて見えました。


もちろん、それはただの気のせいなのかもしれません。それでも私は決意しました。



「なんで笑ってるの?ちょっと気持ち悪いよ」

なんて奈々に言われて少し凹んだけど、学校から帰る足取りは軽く、足早になるのを抑えきれませんでした。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 結衣ちゃんが唯一の清涼剤。小学生だけど・・・。
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