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初めての人助け

別作品の『配達のバイトを始めたら、届け先がなぜかアイドルとか箱入りのお嬢様とか美少女ばかりで、チップがわりにホッペにチューとかイロイロされてしまうんだが。』も宜しくお願いします。


俺は2年1組蒼井 伊織だ。



いきなり、野郎の自己紹介から始まったからって、テンション下がり過ぎだろ?



まぁ、女の子の話も出てくるし、少し我慢して俺の話を聞いて欲しい。


組も、出席番号も1番の俺だが、成績もスポーツも平凡。友達も多い方ではない。

だから、金髪に染めたのに、、、悪目立ちして、ますます友達が出来なかった。


俺ってほんとにバカ‥‥‥



そんな俺にも誇れることが一つ‥いや、二つ‥三つある。


一つ目、県内有数の進学校である風呂出時高校に入学できたこと。


二つ目、けん玉の腕前と、ジャグリングの腕前。


三つ目、中学の時の部活の後輩、一つ下の相原芽愛に慕われていること。


恋人とまではいかないのだけれども、それにしたって他の奴等とは明らかに態度が違うんだから、少しは自惚れてもいいだろ?



「先輩、汚物が顔についてます。取ってあげますね。あっ、ごめんなさい。これ、首を落とさないと取れないやつです。」



「モテない先輩に、タイ焼きを奢って私と一緒に食べる権利を与えてあげます。光栄すぎて泣かないでくださいね。」



「先輩、先輩、先輩っ、そういうこと聞かないで下さい。そんなだから麗華先輩に『デリカシーがない奴』なんて言われるんですよ。あっ、これ秘密にしなきゃいけないやつでした。優しい先輩ならすぐに忘れてくれますよね?忘れてくれたらキ‥‥もち悪いです、なに想像したんですか?」


いや、、、もちろん、、、、

キスを想像するよね?普通。



そう。


可愛い後輩に高2になった今でも慕われている。彼女は俺を見かけるとどんなに離れていても走ってきてくれるんだよな。愛い奴。


だから、女子に免疫のない俺はドンドン相原のことが好きになっていった。





ところで、運命って本当にあると思うか?


俺は運命の出会いや運命の別れってものを信じたりはしていない。


だって、そんなものが決まっているなら、そもそも出会いも別れもしないボッチはどうしたらいい?


そんな俺に運命の悪戯としか思えない出来事が降りかかったのは、なんだか皮肉にしか思えないのだが、まぁ聞いて欲しい。




あれはまだ、半袖には肌寒い6月の登校時に起こった出来事だった。


俺は地下鉄の駅で電車待ちの間、最近はやりのゲーム、『アンノウン』に夢中だった。



しかし、なんの前触れもなく周りにいたほぼ全ての人間のスマホから一斉に電子音が流れたので、我に返って周りを見まわす。



その直後、下腹に響くような縦揺れを感じたので、電子音が緊急地震速報の通知音だと気づいたんだけど。


『その後の出来事を予知できなかった時点でそんな通知は結局なんの意味もない』なんて、毒突けたのも結局はずいぶん後になってからで、振り返ってみると当時はただ状況に流されないようにするだけで精一杯だったんだよな。



「早く逃げないと崩れるぞっ」

いきなり大声でだれかの叫び声が聞こえた。


「キャーッ、崩れる。」

つん裂くような悲鳴が続く。



「やばい、まずい、逃げろ。」

更に、そんな声が聞こえた後、事態は激変した。



「どけよっ」

そんな声とともに筋肉の塊のような男は、俺を押しのけて出口へ向かって突進して行った。


強いてアダ名をつけるとしたら、マッスルかムキムキ男ってとこだろうか?なんだか自己愛が強そうで、鏡の前でポーズとかとってウットリしてそうな男だ。



しかし、その男だけが出口へ向かって突進している訳ではなかった。



地震。そして、何人かの叫びの数瞬後、俺が居た地下鉄の構内には、パニックになった群衆が出来上がっていた。


その様を見ていると、不安や恐怖というのはまるで空気感染でもするんじゃないかというほど、皆が皆、冷静さを失っていた。



それとは矛盾するのだけど、群衆は本来は個の集団であるはずなのに、まるで一つの巨大生物のように地下鉄の出口を目指していた。



ただ、巨大生物になり損なった人間も居る。



数十メートル先には可愛い後輩である相原芽愛が怯えた様子で、パニックになった群衆に壁に押し付けられるような形でもがき苦しんでいた。



後ろ姿だが、長い付き合いなんだ。顔なんて見えなくても苦しんでいるのはわかっている。



彼女の華奢で、今にも折れそうな身体では長くは持たないような気がして不安で仕方がない。

だから、俺は必死に群衆をかき分けて彼女に近づいていく。


しかし、人波とはよく言ったものだ。


いくら力をありったけ振り絞っても、水の中をもがいているかのようになかなか前に進んでくれない。


身体はこれ以上無いくらい疲労している。

それなのに亀の歩みのような速度でしか近づけず、もどかしさだけが胸の中に募っていく。


自分の呼吸と鼓動の音だけがドンドン大きくなっていくような錯覚に囚われて意識を上手く保てないし、辿り着かないんじゃないかという不安が決意を鉛のように鈍らせていく。



その時、群衆の隙間から彼女の姿が目に入る。



それだけで、まるでスイッチが入ったかのように自動的に不安が吹き飛ばされてく。


俺は『血が出るんじゃないか?』と思うほど下唇を噛んで覚悟を決めると、大きく一歩踏み出した。




どれくらいの時間が経っただろう?

俺の頑張りに神様が応えてくれたのか、何とか彼女の所までたどり着くことが出来た。



「助けに来たぞ」

そう言いながら彼女と群衆の間に入った。


その時、少し身体に触れてしまった。

そんなことをしようものなら、普段なら可愛い憎まれ口がとんでくるところなんだけど、、、反応がない。


マズイな、、、彼女は俺が想像しているよりももっと消耗しているんだろうか?


すぐに彼女から身体を離し、彼女を庇うように群衆を背に、彼女を前にする。


大人数の圧力を全身に受けて何度も心が折れそうになったけど彼女の華奢な背中を見ては何度も自分を奮い立たせる。




どれくらい耐え続けていただろうか?


背中に感じる圧が無くなり、俺たちはやっとまともに息をする事ができた。



はぁ〜っ。

思わずため息がでた。



俺は空気と一緒に全身の力も抜いてそのまま座り込みたい衝動に駆られた。


だけど、俺は男の子だからな。

女の子の前ではちょっとは格好つけたい。


だから、座り込みたい気持ちを抑えて彼女を気遣った。


「はぁはぁ、もうパニックはおさまったみたいだ。大丈夫か?」


俺は全米中が涙するくらい自分史上最高の笑みで彼女を見つめたけど、彼女が振り返って見た俺の顔はたぶんひきつっていたと思う。




「あれ?相原?じゃねぇ。誰だよ?」

だって、人違いだったから‥‥‥


すみません、別作品のダーツと同じく、各話の題名は「初めての‥」で統一します。

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