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NICO & VAN 外伝集  作者: 美音 コトハ
ルキア宰相の休日
9/22

9話

「うわー、いいにおーい!」

「きれい、あっ、あの花おっきい」

「そんなに走ると転びますよ!」

 

 ここは、我が国が誇るバラ園の一角だ。

 

 四季折々に目を楽しませてくれるこのバラは、日光が少なくても育つよう品種改良されたもので、色や形も種類が豊富である。そして、特に香り高い事で有名で、この花で作られた香水は高額で取引されている。

 

 二人はクンクンと匂いを嗅ぎながら奥へ奥へと進んで行く。この先は迷路のような庭の造りになっているので、迷子にならないよう後ろから二人を抱き上げる。


「もう、終わりですかー?」

「えー……もっと見たいです」

「二人共、そんな残念そうな顔をしなくても大丈夫ですよ。この先は迷路のようになっているので、三人でくっついて進みましょう」

「「はーい!」」

 

 嬉しそうに返事をすると、私のシャツをきゅっと掴みニコニコと見上げてくる。私も思わず笑みを返し歩き出そうとした所で声が掛かる。


「ルキア様?」

「おや、ユリア。こんにちは」

「「こんにちはー」」

「まぁ、可愛い! この子達はどうされたのですか?」

「今日一日預かっているのですよ」

「研修でーす」

「そうなの、小さいのに偉いわね」

 

 優しく微笑みかけられて照れたのか、二人は私のシャツに顔をグリグリと押し付けてくる。


「こら、くすぐったいから止めなさい」

「ふふっ」

「ほら、二人共笑われてしまいましたよ。顔を上げて下さい」

 

 ようやく顔を上げると、チラチラとユリアを見ている。暫くしたら慣れてくるだろう。


「ここではゆっくり話せませんし、よろしければ噴水の所まで一緒に行きますか?」

「は、はいっ! ぜひご一緒させて下さい!」

 

 頬を赤く染めて嬉しそうに答えてくれる姿は小さい頃から変わらない。彼女は私が小さい頃からお世話になっている侯爵の末娘だ。

 成長する姿をずっと見て来た為か、妹のように感じている。彼女も親しみを感じてくれているのか、大きくなった今でも会いに来てくれる。


「今日は、お父上と一緒に来たのですか?」

「はい、用事が終わるまで庭を散策していてくれと。その後でルキア様に会いに行く予定だったのです。なのに、こんなに早くお会いできて、とても嬉しいです」

「私も会えて非常に嬉しいですよ。後でお父上にもご挨拶しないと」


「はい、是非。ルキア様、この子達のお名前を教えて下さいませんか?」

「そうでした。二人共、ユリアに自己紹介して下さい」

「はーい。僕は白族のツクシと言いまーす。よろしくお願いします」

「えっと、僕はヨツハです。よろしくお願いします」


「ツクシちゃんとヨツハちゃんね。私も自己紹介するね。侯爵の末娘でユリアといいます。二人共、仲良くしてね」

「はーい」

「はーい。あのー、ユリア様とお呼びすればよろしいですか?」

「ツクシちゃん、様付けじゃなくていいのよ。あと、敬語じゃなくて普通にお話してくれると嬉しいな」


「ヨツハ、なんて呼ぶー?」

「うーん、えーと……そうだ! ユリアお姉ちゃんは?」

「いいかもー。そうしよう。じゃあ、せーの」

「「ユリアお姉ちゃん」」

「わぁ、ありがとう。私、末っ子だからお姉ちゃんて呼んで貰うのに憧れていたの。凄く嬉しい!」

 

 あっという間に打ち解けたようだ。満面の笑みを浮かべるユリアに提案してみる。


「どちらか抱っこしますか?」

「えっ、いいのですか?」

「構いませんよね、二人共?」

「「はい」」

「じゃあ、私に近いヨツハちゃん、抱っこさせてね」

 

 そう言って恐々と腕を差し出すユリアにヨツハを渡す。


「わぁ、フワフワ。ふふっ、暖かい」

 

 ヨツハは照れてもじもじとしている。そんなヨツハの顔を覗き込んでにっこりと笑うと、私にも笑顔を向けてくれる。


「ルキア様、ありがとうございます。とても、可愛らしいですね」

「そうですね。ですが、お礼ならヨツハへ言ってあげて下さい」

「はい。ヨツハちゃん、ありがとう」

「……うん。僕もうれしい」

「本当? 嬉しいな。噴水まで一緒に行こうね」

「うん!」

 

 ユリアは何回も来ていて道を把握しているので、私もゆっくりとその後に続く。ヨツハにバラの説明をしながら時々、二人で笑い合っている。


「ルキア様、ユリアお姉ちゃんは美人さんですねー」

「そうでしょう、昔から可愛い子だったのですよ。最近は、どんどん綺麗になってきていますね」

 

 金を極細の糸に紡いだかの様なサラサラの髪の毛。最近は伸ばしているのか背中の半分位の長さだ。瞳は茶色で、いつ見ても楽しそうにキラキラしている。肌は透き通るように白く、唇はふっくらと赤く色付いている。

 侯爵の話では最近、引きも切らず見合い話が来ているそうだ。彼女が結婚をしたら、今の様に気軽に会う事は出来ないのだなと、一抹の寂しさを感じる。


「ルキア様、どうされましたか? 具合が悪いのですか?」

 

 いつの間にか歩みが遅くなっていたのか、ユリアが心配して戻って来てくれた。


「いいえ、違うのですよ。昔から可愛かったけれど、最近、ユリアはとても綺麗になったとツクシと話していたのです」

「えっ!」

「その話をしていて思い至ったのですよ。あなたが結婚したら気軽に会う事も叶わなくなるなと」

 

 ツクシに落としていた視線を上げると、ユリアが真っ赤になって俯いている。


「大丈夫ですか? ちょっと失礼しますね」

 

 前髪をそっと持ち上げ、おでこに手を当てると大分熱い。熱があるようだ。


「すみません。具合が悪いのに気付かずに引っ張り回してしまいました。戻りましょう。辛いようでしたら掴まって下さい」

 

 ユリアの背に手を当てそっと促すと、慌てたように私の顔を見上げる。


「ち、違うんです。えっと……、そう! 久し振りにこんなに晴れているので暑くなってしまって。厚着し過ぎてしまいました」

 

 たどたどしくて怪しい。私がじっと見つめると慌てたように顔をそらす。


「ル、ルキア様、暑いので早く噴水の所まで行きましょう。あそこなら、きっと涼しいですよ」

 

 そう言うと、止める間もなく歩いて行ってしまう。ここからなら、休むには噴水の方が近いから提案に乗るが、駄目そうだったら背負って戻るとしよう。


「待って下さい。そんなに早く歩くと転びますよ」


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