8話
「プリンは食べられそうですか?」
満足気にお腹を撫でている二人に聞いてみると、ハッとした顔でこちらを見る。
「ヨツハ、入る?」
「一口ならきっと入る!」
「僕も一口なら入りそうー」
「無理をせずに、おやつに食べてもいいのですよ?」
「えー、あんなにプルプルしながら僕らを待ってるのにぃー」
ツクシのその言葉に、前に座っている者が飲んでいた水を吹き出しそうになり噎せている。大丈夫だろうか? 席を立ち背中をさすってやりながら考える
「……では、一個を私と分けて食べましょうか」
「やったー!」
「プリン♪ プリン♪」
噎せていた者も落ち着いたようなので、二人に大人しく待っているように言い聞かせてプリンを取りに行く。
「さっきは危なかった……」
「本当よ、もうっ。ばれたら即解散なんだから!」
「でも、あんな悲しげな顔されたら思わず言いそうになるよな」
「全力で慰めてあげたい!」
「抜け駆け禁止よ」
俺達はルキア様の愛好会に入っている。というか、城のほぼ全員と言うべきか。ちなみに王であるダーク様も会員だ。
ダーク様曰く、『俺がルキアを最も愛している。だが、独り占めするのも皆が可哀想だから、この会は見逃してやろう。だが、ルキアは恥ずかしがり屋だから、ばれないようにやれよ? ばれたら即解散だからな』と、見付かってしまった時に約束させられた。
あの時は、女性陣が顔を赤らめてキャーキャー言うのを収めるのが大変だった……。ダーク様の発言は冗談と本気の境目が難しく心臓に悪い。
「ルキア様を見掛けると、ついつい良さを語り合っちゃうけど、悪い印象になっているようだから控えないとな」
「そうね。誤解されちゃっているのを今度の集まりの時に伝えないと」
「おっと、そろそろ戻ってこられるぞ」
「そういえば、さっき優しく背中を撫でられちゃって。うらやましい!」
「へへっ、いいだろう」
プリンを受け取って席に戻ると、随分と話が盛り上がっている。
「皆さん、楽しそうですね。何か良い事がありましたか?」
「え、えっと……俺の自慢話をしていまして……」
「私にも是非聞かせて下さい」
「いえ、くだらない話なので、ルキア様にお聞かせするのはちょっと……」
「そう……ですか。残念ですが仕方ありませんね……」
やはり怖がられているのだろう。叱られると思っているのかもしれない。溜息を堪えつつスプーンを手に取る。
「二人共、プリンを食べますよ」
「「はーい」」
「ツクシ、口を開けて下さい」
だが、私をじっと見ている。自分で食べたいのだろうか?
「ルキア様、どっか痛いー?」
「? どこも痛くありませんが……」
「でもー、変なお顔してます」
変な顔? どういう意味だ……。もしかして、溜息を堪えたのに気づいたのだろうかと考えていると、自慢話をしていたと言っていた者が両脇の女性達に背中をバシバシと叩かれている。何かを言われているようだが声が小さくて所々しか聞こえない。
「ちょっと――おち――てるじゃ――(ちょっと、落ち込んじゃてるじゃないのよ!)」
「そうよっ――なん――ないよ!(そうよっ、なんとかしなさいよ!)」
「ちょっ、い――ろよ(ちょっ、痛いって、やめろよ)」
仲がいいのだなと感心していると、いつの間にかヨツハが女性達と一緒になってペチペチと叩いている。慌てて立ち上がり止めに入る。
「ヨツハ、止めなさい」
「でも、この人のせいでルキア様が悲しいの。だから、僕がやっつけるの」
「ヨツハ……。あなたのその気持ちだけで十分です。それに、彼は何も悪い事などしていませんよ。問題があるのは私自身です。ほら、プリンを食べますよ」
膨れっ面のヨツハを抱き上げ、移動しようとすると――。
「すみませんでした!」
大きな声に驚いて振り返ると、先程の彼が深々と頭を下げている。その姿勢のまま凄い勢いで喋り始める。
「さっき自慢していたのは噎せてルキア様に背中を撫でて頂いた事だったので、御本人を前に恥ずかしくて言い出せなくて……。ルキア様を除け者にする気なんて、これっぽっちも無かったんです‼」
「……あの、何故それが自慢になるのでしょうか?」
「えっ⁉」
周りの者達が一斉に固まる。何かまずい事を言ってしまったのだろうか? すると、ツクシがニコニコしながら言う。
「他の人もルキア様好きー。自分だけナデナデ嬉しい。だから、自慢なのー」
「わーっ! す、好きとか言っちゃダメだろって、確かにそうなんだけど、うわーっ! 何言ってんだ俺、恥ずかしすぎる……」
真っ赤な顔を手で覆って項垂れてしまった彼とツクシの言葉が段々と頭に染み込んで来る。
思わず赤面したであろう顔を俯け、口元を手で覆う。
「…………ありがとうございます」
いつまで経っても返答がないので目線だけ上げると、城の者達の顔が笑み崩れている。……空気を変えよう。
「……ゴホン。二人共、一緒にプリンを食べましょうね。ツクシ、どうぞ」
「はむっ……んーっ! おーいーしーいー‼」
相変わらず凄いテンションの上がり様だ。苦笑しつつヨツハにもと向き直ると既に大きな口を開けて待っていた。
「……お待たせしました」
「はむっ……んふぉふぃ! (おいしい)」
何を言っているのかを理解するのは諦めようと思う。
ツクシが天に突き上げていた拳を下ろし正気に戻ったようなので聞いてみる。
「二人共、まだ食べますか?」
満足気に首を横に振るので、残りを食べていく。うん、卵の味が濃くてとても美味しい。
「あーっ、もう時間だ。行かなきゃ……」
「あら、本当。食器は私達で運ぶから机とか直してくれる?」
「了解。――持ったか? よし、せーのっ」
「ルキア様、相席させて頂きありがとうございました。私達は先に失礼させて頂きますね」
「お騒がせしてすみません。これで失礼致します」
「いえ、賑やかで楽しい食事となりました。皆さん、午後も頑張って下さいね」
皆が会釈しながら次々と足早に食堂を後にして行く。さて、次の利用者が来る前に私達も移動するか。
料理長に三人で礼を言って食堂を出る。珍しく食べすぎたようでお腹が苦しい。二人のお腹もぽっこりと膨れている。少し庭園を散策するか……。