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NICO & VAN 外伝集  作者: 美音 コトハ
ルキア宰相の休日
7/22

7話

「何か落とされましたか? ――まぁ、可愛い子達!」

 

 彼女が上げた華やかな声に近くに居た者達が次々と振り返る。周りをぐるりと囲まれたが、興奮した二人には関係ないらしい。


「お姉さん、聞いて下さい。ルキア様が凄いです!」

「あら、どう凄いの?」

 

 笑いながら話してくれるメイドに気を良くしたのか、ヨツハが椅子の上で足踏みをしながら続ける。


「なんとっ、お城の人達全員の顔や名前とかが分かるんです!」

「何を言いだすかと思えば……。分からなければ、呼んだり人の配置ができないではないですか。それより、ヨツハ、危ないから足踏みはやめなさい」

「でも、僕の村の何百倍? 凄い人数ですよー」

 

 ツクシもそう言うが、当たり前の事だとしか思えず怪訝な顔になっていると、周りの者達も次々と喋り出す。


「そうなの、凄いのよ。誕生日が来ると必ずお菓子を下さって、『おめでとうございます』って言って下さるのよ」

「そうそう。あと、家の父親が腰痛いって言っていたとか、ドジして指を少し切っちゃってとか、他愛ない会話もきちんと覚えていて下さるし」

「髪型を少し変えたのも気付いて下さるのよ」

 

 続く賛辞を二人はウンウンと喜んで聞いているが、私はいたたまれない。


「皆さん、そんなに褒めても何も出ませんよ?」

「ルキア様は照れ屋ですね。お食事をお持ちしましたよ」

 

 料理長自らが運んで来てくれながら話の輪に入る。二人は話など忘れ、オムライスに釘付けだ。


「ルキア様は人をよく見ているのでしょうね。『彼の元気がないから好物を少し多めに取り分けて貰えませんか』とか『彼女は大分疲れているので薬膳のスープにして貰えませんか』と始終心を砕かれて。私に言う時にも、それは申し訳なさそうにおっしゃって下さるのですよ」

 

 周りの者達は私を良い人に仕立て上げたいらしい。勤めてくれている者達を覚え、気遣う事は上に立つ者として当然の事だ。彼ら無しにはこの城は機能しない。

 

 そろそろ皆にも食事をさせないと。休憩時間はあっという間に過ぎ去る。少しでも体を休めて貰わなければ。


「皆さん、お話はこれ位にして食事をして下さい。食べる時間が無くなってしまいますよ」

「はい。あっ、ルキア様、相席させて頂いてもよろしいですか?」

「はい、構いませんが――」

「あっ、ずるい! 俺も一緒にお願いします」

「私だってご一緒したいです!」

 

 上司と一緒に食事では気詰まりではないのだろうか? 戸惑う私を置いて事は進んでいく。


「じゃあ、この机くっつけちゃいましょう」

「そうだな――おーい、そっち持ってくれ」

「あいよ、せーのっ」

 

 机をくっつけている間に、食事を纏めて取りに行く者、椅子を運んでくる者と役割分担し、あっという間に準備が整う。


「ルキア様、食べていいですか?」

 

 ヨツハが手にスプーンを持ち、ナプキンを首の周りに手荒く巻いた準備万端の姿で聞いてくる。


「そうですね、頂きましょうか」

「いただきまーす!」

 

 ツクシの弾んだ嬉しそうな声が響き渡り、食事が始まる。

 

 白身魚を切り分けて口に運び、二人の様子を見守る。危なっかしい手つきながらも一人で食べる事が出来るようだ。安心して自分の食事に専念する。


「おいしーい、卵がトロトロだー」

 

 卵が好きだと言っていたツクシが幸せそうに頬を押さえている。隣でヨツハも頷き返しながら、大きな口を開けてクルミのサラダを頬張っている。


「二人共、お口に合いましたか?」

 

 水を注ぎに来てくれた料理長が尋ねると物凄い勢いで頷く。


「とーっても、おいしでーす」

「んふぉふぃ(おいしい)」

 

 ヨツハは頬張りすぎて何を言っているのかさっぱり分からない。だが、表情が全てを物語っている。


「それは良かった。お腹に余裕があるようだったら、デザートにプリンが用意してあるから取りにおいで。ルキア様も沢山召し上がって下さいね」

「プーリーン!!」

 

 ツクシのテンションが上がりすぎだ。周りからクスクスと笑い声が聞こえてきて恥ずかしい。


「嬉しいのは分かりますが、食事は静かに取りましょうね」

 

 だが、ツクシはスプーンを両手で握り、うっとりした顔をしていて聞こえていないようだ。溜息を吐きつつヨツハを見ると頬がパンパンに膨れ、まるでリスのようだ。


「そんなに詰め込まなくても、ご飯は逃げませんよ」

「ふぉいひはのはまふぃ(おいしさのあまり)……もぐもぐもぐ」

 

 相変わらず何を言っているのか分からず首を傾げていると、相席になった者達が話し掛けてきた。


「ルキア様は面倒見いいですよね。御長男ですか?」

「いえ、私は一人っ子ですよ」

「えっ、そうなのですか? 私もご兄弟がいらっしゃるものとばかり思っていました」


「そのように見えるのですか? もし、居たとしても嫌われて面倒を見る事など出来ていないと思いますよ。現に人付き合いが上手く出来ていないようですし……」


「どうしてそう思われるのですか? 私達はルキア様が上司で本当に良かったと思っておりますのに」

 

 不思議そうな顔で聞き返されてしまった。お世辞……ではなさそうだ。彼女はとても正直者で顔にすぐ出る。


「怖がらせてしまう事が多いようですし、遠巻きにこちらを見ながら話をしている姿をよく見掛けます。面倒見が良く好かれているなら、この様な反応はされないのではないでしょうか?」


「あー、それはですね……」

 

 非常に言いにくそうだ。先程の様な事を部下の前で言うべきではなかった。


「困らせてしまい申し訳ありません。忘れて下さい」


「あっ、違うんです! どう説明しようか悩んでいただけで……確かに、最初は怖いし話し掛けにくい方だなと思いました。でも、何度も様子を見に来て下さるし、落ち込んでいると必ず声を掛けて頂いて……今はルキア様が上司で本当に良かったと思っています」


「そうですよ。とにかく、ここに居る者達はルキア様を嫌いな者はおりません。嫌いな人とわざわざ食事なんてしませんから!」

 

 励まされてしまった……。反省していると、私の皿にツクシがそっとミニトマトを置く。更にヨツハも大好きなクルミを載せてくれる。


「くれるのですか?」

 

 二人は満面の笑みを浮かべて頷くと、何事もなかったように食事を再開する。周りの者達も微笑ましげにこちらを見ている。

 

 面映ゆく感じながら私も食事を再開したが、貰ったミニトマトとクルミはもったいなく感じて中々手を付けられず、最後によく味わって食べた。


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