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NICO & VAN 外伝集  作者: 美音 コトハ
ルキア宰相の休日
5/22

5話

 驚きから立ち直ったハンスが急いでタオルを持って来てくれた。


「どうぞ、お使い下さい。私がその子達を乾かしますから、ルキア様はお召し替えなさって下さい」

「……はい、そうさせて頂きます。掃除したばかりの所を濡らしてしまい申し訳ありません。直ぐに戻って来て掃除します」

「僕もお手伝いしまーす。もうっ、ヨツハのおバカ!」

「うぅ、ごめんなさい……」

 

 ヨツハの物凄く情けない顔に思わず苦笑する。


「今度は直ぐに謝る事が出来ましたね。いい事です。――ハンス、自室に行ってきます」

「いってらっしゃいませ」

 

 髪からポタポタと垂れる滴をざっと拭くと肩にタオルを羽織って歩き出す。幸いな事に誰ともすれ違わずに自室へと辿り着いた。把手に手を掛けようとすると内側から開いていく。


「あら、ルキア様、びしょ濡れではないですか! 早くお着替えになって下さい。濡れたお洋服は私に下さいね。直ぐに洗ってしまいますから」

「はい、ありがとうございます。少々お待ち下さい」

 

 扉を急いで閉めると、クローゼットから新たに襟付きのシャツと黒いズボンを取り出す。

 

 濡れて脱ぎにくいシャツを脱ぎ、タオルでざっと体を拭くと袖に手を通す。暖かさに少しほっとしながら下も急いで着替え、脱いだ服をタオルに包み扉に向かう。


「お待たせしました」

「いえいえ、お気になさらず。――まだだいぶ髪が濡れていますよ。新しいタオルをお持ちしますね」

 

 服を渡しながら首を横に振る。


「これから風呂場に行くので、そこで乾かします」

「そうですか。お風邪など召されないようお気を付け下さいね」

「はい、気を付けます。部屋も掃除して頂きありがとうございました」

 

 笑顔で答えてくれるメイドに会釈すると、また風呂場へと引き返す。



「ハンス、お待たせしました」

「お帰りなさいませ」

 

 ヨツハを魔法石の力で温風が出る筒で乾かしながら、ハンスが迎えてくれる。ツクシはと見ると小さな手で雑巾を持ち、一生懸命床を拭いている。


「ツクシ、偉いですよ。ですが、掃除は後にして先に体を乾かしてしまいましょう。風邪を引いてしまいます」

 

 嬉しそうに頷くと、トテトテと近付いてくる。抱き上げて椅子に座らせると、筒を手に取り、段々とフワフワになっていく感触を楽しみながら根元までしっかりと乾かす。


「はい、終了です」

「ルキア様、ありがとうございまーす」

「ヨツハ君も終わりですよ」

「ありがとうございます」

「私も髪を乾かすので、二人で先にお掃除を始めていて下さい」

 

 二人は頷くとハンスを見上げる。


「それでは、ツクシ君は先程の続きをお願いしますね。ヨツハ君はそちらから拭いて下さい」

「「はーい」」

 

 元気よく返事をして掃除する姿を見ていると、頭が重いのか動きが非常に危なっかしい。ハンスも同じ事を思ったのか、水の入ったバケツを二人から離れた所へ置き直す。

 そうこうしている間に髪の毛も乾いてきた。私も掃除をしなければ。


「――ハンス、私にも雑巾を貸して下さい」

「はい、では洗面台をお願いできますでしょうか」

「分かりました」

 

 黙々と水滴を拭いていると足に軽い衝撃がくる。下を見ると雑巾を手にヨツハが横倒れになり、私の足の甲に乗っている。

 恐る恐る私を見上げるヨツハと視線がぶつかる。お互い無言で見合っていると、ツクシも近くでコロンと転がる。このままでは二人の毛皮で床がピカピカになりそうだ。


「……あなた達はここに座っていて下さい」

 

 二人の手から雑巾を取り上げ、椅子に座らせる。怒られると思ったのか不安そうに私を見るので、少し考えて言葉を足す。


「あなた達にお手本を見せるのを忘れていました。ハンスの掃除は素早く丁寧でとても勉強になります。よく見ていて下さい」

 

 二人はキラキラした目でハンスを見ると深く頷く。


「これは、これは、照れてしまいますね」

 

 ハンスは私の意図を正しく理解してくれたらしく、小さく頷くと二人に説明しながら素早く拭き上げていく。私もこの間に終わらせなければ。


「――というようにお願いしますね。では、やってみましょうか」

「「はーい」」

 

 鏡二枚残した所で、ハンスが二人を連れてくる。


「後は、鏡だけしょうか?」

「はい、そうです。二人では手が届かないでしょうから、私がやります」

「えー……せっかくお勉強したのに」

 

 しょんぼりしたツクシの声に、ハンスが提案する。


「では、私とルキア様でお二人を抱き上げますので、鏡をピカピカにして下さいね」

「わーい」

「やったー」

 

 歓声を上げる二人をそれぞれ抱き上げると指示が飛んでくる。


「ルキア様、もっと上にお願いしまーす」

「おじちゃん、左、左」

 

 忙しく動かしてやりながら下まで辿り着く。


「ハンス、二人の掃除は合格ですか?」

「はい、百点満点です。二人共、良く出来ました」

 

 ハンスが二人の頭を撫でると、ぴょんぴょん飛び跳ねて喜んでいる。


「ハンス、迷惑をお掛けしました」

「いえ、とても楽しい時間を過ごさせて頂きました」

「あなたは優しいですね。ありがとうございます。――二人共、ハンスにお礼を言って下さい」

「おじちゃん、ありがとうございまーす」

「ありがとうございます」

「どういたしまして。また遊びに来て下さいね」

「「はーい、バイバーイ」」


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