1話
本編の卵三部作の後日談をカハル視点で書いています。
以前、活動報告に書いたのですが、ご覧にならない方もいるかなと思いこちらに載せました。
卵の黄身が二つになる理由が分かった次の日。
お父さんにお野菜を採って来るから、ちょっと待っていてねと言われ、居間の座布団に座っていると、件のニワトリさんが家に尋ねて来たので、上がり框までハイハイしていく。
「コケー、コケコケコケ?(おじゃまします。ヴァンちゃんはいますか?)」
「いまはいにゃいの」
残念そうに「そうですか……」と鳴いているので、要件を聞いてみる。
「ヴァーちゃにようじ?」
聞くと、お腹の袋から大事そうに四葉のクローバーを手羽根で器用に取り出す。
「これぇ、ヴぁっちゃに?」
コクッと頷くので大事に預かり、ボーロをあげる。
「ちゃんとぉ、ヴぁっちゃに、わたしゅね」
嬉しそうに鳴いて手羽根を振って帰って行く。手を振り返して、あっと思った時には遅かった。体が傾き土間に落ちてゆく。痛さを覚悟して目をギュッとつぶる。――が、一向に痛みが襲ってこない。恐る恐る目を開くと、森の熊さんが抱き留めてくれていた。
「ガウガウガウ?(どこも痛くない?)」
「うんっ、あんがと、くましゃん」
その後、泣かずに偉かったと高い高いされる。これは非常に楽しい。きゃっきゃと笑っていると、お父さんが帰って来た。状況が把握できずに目をパチパチとさせている。
「くましゃん、たしゅけてくれたよ」
「カハル、落ちそうになったの⁉」
目を離さなければ良かったと深く後悔している姿に、非常に申し訳なくなる。
「ごめんにゃしゃい……」
「ううん、目を離した僕が悪い。熊さん、ありがとう。少しだけど、このクッキー食べてね」
頷き、熊さんが心配そうに振り返りながら帰って行く。バイバイと手を振るとやっと安心したのか走って行く。
「はぁーーー……」
お父さんの深々とした溜息に胸が痛む。抱き付いて頭をグリグリと押し付けると、やっと少し笑ってくれた。
「生きた心地がしなかったよ。全身から一気に血の気がひいた」
冷たくなってしまっている大きな手を擦って温める。大きい姿だったら抱きしめられたけど、今はこれが精一杯だ。
「僕も気を付けるけど、カハルも気を付けるんだよ。いいね?」
優しく頭を撫でられて頷く。お父さんには可哀想な事をしてしまった。自分の思い通りにいかないこの体と、うまく付き合っていかなければ。
「「ただいま戻りました」」
「お帰り」
「おきゃえり」
元気良く二人が帰って来た。なんだかホッとする。
「ヴぁっちゃ、あにょね、きんのはにぇのにわちょりしゃんが、これ、くれたよ」
四葉のクローバーを差し出すと目を丸くする。
「金の羽根のニワトリさん?」
「うんっ。ばっじのおれいかにゃ?」
破顔したヴァンちゃんをニコちゃんが優しい顔で見ている。ニワトリさんにどれだけ喜んでいたか後で教えてあげよう。
「それ、押し花にするといいよ。しおりとかにする?」
「する!」
「ヴァンちゃん、早速やろう」
「うむ。その前にお礼を言いにいく」
「うん。行こう!」
二人で仲良く駆けていく。私も早く一緒に走れるようになりたい。そして、お父さんを一日でも早く安心させてあげたい。手をキュッと握ると、私の思いに気付いたのか抱き締めてくれる。
「すぐ大きくなるよ。ヒョウキから魔力を搾り取っちゃえ」
その言葉に二人でクスクスと笑う。
「おとうしゃん、これからもぉ、よろしくにぇ」
「うん。僕こそ末永く、よろしくね。離してあげないよ?」
くっついて笑い合っていると、ニコちゃんとヴァンちゃんが戻って来た。
「「とうっ!」」
二人で飛び上り、お父さんにべったりとくっつくと、私の顔を覗き込みながら笑ってくれる。この二人の笑顔も守れるようにもっと強くなろう。今の私で悲しい歴史を終わらせられるように。
森の熊さん、大活躍です。
シンはダメージが大き過ぎて溜息しか出て来ません。自分に腹が立つやら、無事で良かったと安心するやらで心が大忙しです。
大変だ、ヒョウキの魔力が搾り取られる! 逃げて~(笑)。軽口が叩けるようになったらもう大丈夫ですね。