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NICO & VAN 外伝集  作者: 美音 コトハ
ルキア宰相の休日
2/22

2話

「失礼致します」

「…………」

 

 いつもならすぐに返って来る筈の声が聞こえない。内心で首を傾げつつ再度ノックし声を掛ける。


「ダーク様、ルキアです。失礼致します」

「…………」

 

 やはり返事がない。いらっしゃらないのだろうか? 倒れている可能性もあり得るので、躊躇いつつ把手に手を伸ばすと内側から開いていく。


「ああ、良かった。いらっしゃったのですね」

 

 いつも通りに私よりも高い目線に合わせて顔を向けると、空っぽの室内が広がっている。


「ダーク様?」

 

 室内に歩みを進めようとした所で足元からの視線に気付く。そこには扉の影に隠れるようにして白くてフワフワの小さい生き物が二匹居た。二匹は黒々とした大きな目でおずおずと私を見上げている。


「……」

「「……」」

「…………」

 

 横たわる沈黙に耐えかねたのか小さな口が開かれる。


「ダーク様は今いないです……」

 

 姿に違わずとても可愛らしい声だ。少し舌足らずなのは幼いからだろうか。


「そうですか……どちらに行かれたのでしょうか?」

「……白いおひげの人が来て、お話をするって……何室だっけ?」

「んーと、んー、あっ! かぎしつ!」

 

 かぎしつ? その様な部屋はないが……。聞き間違えたのだろうか?

 

 二匹は楽しそうに「こんなおひげー」と真っ黒でツヤツヤな鼻の下に八の字で両端がはねている形を手で描き出している。

 

 あの形で白い髭、直接この部屋に来られる人物となると将軍しかいない。となると会議室が正解だろう。


「あなた達は何故この部屋にいるのですか?」

「研修するようにミルンさんに言われて来ました」

「ちょっとこの部屋で待っていろーってダーク様に言われました」

 

 研修があるとは聞いていない。だが、ミルンと言っていたな。通信の鏡で聞いてみるか。

 

 扉を閉めて部屋の中に入り、郵便物を鍵付きの引き出しにしまうと通信の鏡を拝借する。二匹は興味を持ったのかトテトテと危なっかしく走り寄って来る。興味津々な視線を背後に感じながら鏡を指で二度軽く叩く。


「白族のミルン、闇の国の宰相ルキアです。出られますか?」

「――はい、お待たせ致しました。ミルンです」

 

 少し待つと、大きな楕円形の鏡の中に後ろの二匹を大きくして少しふっくらさせた様な姿が映し出される。


「きゃー、ミルンさんだー。おおきーい」

「ミルンさんがいるー、どうやって大きくなったの?」

 

 二匹が興奮した声を上げながら鏡をペチペチ叩く。


「こら、止めなさい! 通信が途切れるでしょう」

 

 私が慌てて二匹を腕に抱き上げると、「きゃー」と騒ぎながら嬉しそうにジタバタしている。


「ルキア様、申し訳ありません――二人とも大人しくしなさい。研修を取り止めますよ」

 

 その言葉に渋々ながら二匹がジタバタするのを止める。私はほっとして二匹を放すと質問を再開する。


「その研修について聞きたいのですが、急遽決定したのですか?」


「はい。今朝ダーク様と通信中に、まだ少し先のことですが、幼い子達を研修に出したいので貴族の方をご紹介頂けないかとご相談した所、『俺の城でいいだろ』とおっしゃいまして」


「そして、あの方はすぐに行動に移したという事ですね」


「はい、今から迎えに行くとおっしゃいまして。ですが、まだ教育が行き届いていないのでご迷惑になりますとお断りしたのですが――」


「面白いじゃないかと押し切られた?」

「はい、その通りです……」

 

 私が溜息を吐くのと同時にカラカラと扉が開く音がする。振り返ると、将軍とダーク様が話しながら部屋へと入って来ていた。

 私に気付いたダーク様が将軍を扉の所に残し近寄って来る。


「ルキア、どうした? 今日は休みだろう」

「そうですね。散歩のついでに郵便物を届けに来ただけの筈なのですが。ダーク様、急に研修を決められては困ります」

「ああ、可愛いだろう。俺も愛でたい所だが、将軍と出掛けなくてはならなくなった。悪いが預かってもらえるか」

 

 なぜ、可愛いだろうという答えが返ってくるのだ……。私がげんなりしていると、ミルンの声が鏡から聞こえる。


「お話し中、失礼致します。そのようなご事情でしたら、二人を迎えに参ります」

「気を使わなくていいぞ。ひた隠しているが、宰相は可愛い物が大好きでな。素直じゃないから口に出せないんだ。察してやってくれ」

「はぁ、物凄い渋面になっていらっしゃいますが……」

 

 ミルンが気の毒そうに私を見やる。それに気付いているだろうに更に余計な一言が発せられる。


「俺にばらされて恥ずかしがっているだけだ。そうだろ?」

 

 そのうち私は憤死する気がする。なんとか怒りを押し込めて口を開こうとするが、あっさりと遮られた。


「すまん、時間だ。ルキア、二人を頼んだ。将軍、行くぞ」

「はい、参りましょう。――また後でな」

 

 いつの間に二匹と仲良くなったのか、将軍は親しげに手を振っている。そして、慌ただしく扉は閉められ私の怒りの声は行き場を失くす。


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