1話
お読み頂きありがとうございます。
このお話はカハル視点となっています。
色々なジャストフィットを楽しんで頂けたらと思います。
3話続きます。本編の方は午前に更新し、外伝は夜に更新します。
今日もありがとうございました。
ヴァンちゃんが、庭で干したフカフカのバスタオルが数枚入った洗濯籠をじっと見ている。バスタオルを畳むお手伝いをするのかな? と見ていると、おもむろに籠の中に入って丸まり、「ふん」と満足げに息を吐いている。まるで猫鍋のようだ。そこへお父さんがタオルを抱えて戻って来る。
「よいしょっと。――あれ、何か入ってる。う~ん?」
顔を下にして丸まっているので、何だか分からないようだ。
「――シッポ? えっ⁉ ヴァンちゃん⁉」
流石はお父さん。シッポだけでヴァンちゃんを当てた。
「ん? シン様。これ最高。しばしお借りします」
そう言って、また丸まってしまう。それをポカンとして見ていたお父さんが小声で尋ねて来る。
「――ちょっと、カハル。あれは、どういう事?」
「私も分からないの。じっと見つめていたかと思ったら、丸まって動かなくなっちゃって」
「そうなんだ。でも、最高って言っていたから余程居心地がいいんだろうね」
見ていると背中を突きたい気持ちに襲われる。うんっ、やっちゃえ!
「カハル?」
不思議がるお父さんに笑い掛けてから、ツンツンと背中を突く。
「ん? 誰? ――カハルちゃんなら、よし」
確認する為に顔を上げ、また丸まってしまう。その様子を見ていたお父さんが悪い顔をして笑い、背中につーっと上から下へ指で線を描く。
「ん? くすぐったい。――シン様だった。ほどほどにお願いします」
そして、クルン。二人で覗き込んでいると、ニコちゃんが残りの洗濯物を抱えてやってくる。
「シン様、残りを持って来ましたよ」
「ああ、ありがとね。バスタオルの横へ置いておいて」
「はーい。――お二人で何を見ているんですか? ん、何だこれ? 膨らんでる……」
先程のお父さんと同じ反応だ。ここは黙って見守っておこう。
「ん~? 僕の服? いや、ヴァンちゃんのかな。そう言えば、ヴァンちゃんはどこに居るんだろう? お二人は知り……シッポ⁉」
お父さんが笑いを堪えている。視線を移した事でシッポに気付いたようだ。
「えっ、洗濯物にシッポがある! えっ⁉」
そう言って、持ち上げるニコちゃん。あー、そろそろ、お父さんが我慢の限界の模様です。
「――よいしょー。んっ、重たい! って、ヴァンちゃん⁉」
「ぶはっ、はははっ」
堪えきれませんでした。ダラーンと持ち上げられているヴァンちゃんが可愛い。でも、その目は半眼になっている。
「ニコ、戻す。俺は満喫中。邪魔はしちゃ駄目」
「えーっ⁉ 何でこんな所に嵌っているの? 取れなくなっちゃったの?」
「違う。ジャストサイズだと籠が囁いていたから、こりゃ、入ってやらねばと――」
「そんな理由⁉」
「はははっ、はっ、はははっ」
更にお父さんが苦しそうに笑っている。完全にツボに入ったようで、酸欠にならないか心配だ。
「えっと……じゃあ、戻すね?」
ニコちゃんが今度は顔を上にして戻している。ヴァンちゃんは手足を丸めて満足そうに嵌っている。可愛い……。今度はお鼻をツンツンしちゃおう。
「ん? カハルちゃんなら、よし」
目をパチッと開けたヴァンちゃんが、先程と同じように許可をくれた。優しい子である。
「えへへ、僕もやっちゃおう♪」
「ニコは却下」
「そ、そんな! まだ、やっていないのに!」
「ニコに触られるとくすぐったい。あっち行く」
「うえ~ん、ヴァンちゃんが冷たい~」
嘆きながらも素直に離れて洗濯物を畳んでいる。ええ子や。
「こ、今度は上を向いているんだ。可愛いね」
何とか笑い止んだお父さんがヴァンちゃんを眺めている。そして、そっと手を伸ばして足裏をくすぐり始める。
「こちょこちょこちょ」
「ん? くすぐったい。シン様、めっ」
「ふふっ。ヴァンちゃんに怒られちゃった。でも、そろそろ出て来て欲しいな。洗濯物を籠に入れさせてね」
残念そうにヴァンちゃんが身を起こそうとして止まる。
「ヴァンちゃん、どうしたの?」
「上向きだと起き上がれない」
「そ、そう。僕が起こしてあげるね」
笑いを噛み殺したお父さんがヴァンちゃんを抱き上げる。
「おっ、取れた。一瞬、焦った」
「良かったね、取れて。――その顔はまた入る気満々でしょう?」
「バレた。病みつきになる心地よさ」
「はい! 僕も入りたいです!」
「ニコちゃんも? しょうがないなぁ。もう一つ同じ籠を買って来るか。今日はこれしかないから、これでお終いね」
「はーい……」
ニコちゃん、残念。頭を撫でてあげよう。
「よしよし、落ち込まないの。お庭で遊ぼう?」
「はいっ。ヴァンちゃんも行こう」
「うむ。鬼ごっこする?」
「じゃあ、森の皆も誘おう」
「いいですね! 僕、先に行って声を掛けて来ます」
元気いっぱいに駆けて行く。笑顔が戻って良かった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
数日後。お父さんが籠を買って来てくれた。
「ほら、二人共、念願の籠だよ」
「やった! しかも、僕とヴァンちゃんに一つずつ頂けるんですか?」
「うん。はい、ヴァンちゃん」
「ありがとうございます。大事に使う」
「ふふっ、喜んで貰えて僕も嬉しいよ」
そこへ、くまちんがポテポテと歩いて来る。
「モキュ? 皆で何しているでキュか?」
「籠にジャストフィット」
「キュ? 籠?」
ヴァンちゃんが見せる方が早いと思ったのか、いそいそと籠に入って丸まる。
「こんな感じ」
「ほぉーでキュ。そっちはニコちゃん用でキュか?」
「そうなんです。えへへ、入っちゃおうっと。――おぉっ! ヴァンちゃん、僕わかったよ。これ、最高だね!」
「そうだろう? ニコなら分かってくれると思った」
丸まりながら話す姿がシュールだ。くまちんも微妙な顔で見守っている。
「一応、クマちゃん用のも買って来たんだよ。はい、どうぞ」
「キュ? お椀でキュか?」
木彫りで大きめのお椀に訝しがりながらも丸まっている。白いお饅頭みたいだ。正直な感想を言うと怒りそうなので、言葉を飲み込んでいると、白ちゃん達も籠から顔を出して興味深げに見ている。
「どうかな、クマちゃん?」
「……キュー。イマイチな感じでキュ。もっと柔らかい物の方が好みでキュ」
「そっか。白ちゃん達の籠は柔らかいもんね。じゃあ、布と綿で作る?」
「作らなくてもジャストフィットする場所があるのでキュ」
くまちんがトテトテと駆けて行って、真ん中に穴の開いたドーナツ型のクッションを持ってくる。
「よいしょでキュ。この穴がクマにはぴったしなのキュ」
モソモソ穴に入ると、見事に隙間なく丸まっている。
「おぉー、ジャストフィット」
「綺麗に嵌っていますね」
籠から出て来て、ツンツンしている。そういう姿を見ると突きたくなるよね~。
「キュ、やめるキュ、誰でキュか⁉」
しっかり嵌っているのか、すぐに顔が出せないようだ。チャンス! 私もツンツンしちゃおう。えいっ、えいっ。
「キュ~、指が増えたキュ! 止めないと齧るっキュよぉ」
スポンと勢いよくクマちゃんが顔を出す。
「正直に手を挙げるのキュ。悪い子は誰でキュか?」
三人であらぬ方を見る。
「分かったのキュ。にゃんちん、ヴァンちゃん、ニコちゃんでキュね。大人しく齧られるでキュ~」
わぁ~と叫んで三人とも笑顔で逃げる。