1話
「ふんふーん、ふへー、ほげー、ほー、みゅほー、へへーへ♪」
「ぶほっ!」
思わず吹き出してしまった。
「ニコ……なんだよ、その歌……」
「ううん? トウマ、よくぞ聞いてくれました! これはね、カハルちゃんがこうやって歌ってて、あまりの自由さに衝撃を受けて僕も試したら、凄く気持ちいいんだよ!」
「へ、へぇ……(俺だったら絶対に真似しねぇ)。カハルちゃんってお前の主様だろう」
「そう! ものすごーく可愛いんだよ。今日は村の手伝いであんまり一緒に居られないから、朝いっぱい頬擦りしてきたよ!」
「そうか……。良かったな」
どんだけ好きなんだよと思いながら適当に返事をすると、ニコは嬉しそうに頷き、しっぽを振り振り先程の変な歌を歌って歩いて行く。
「ぶはっ⁉」
「ぐっ!」
ああ、被害が広がっているぜ……。あの歌詞でさえなきゃ、ニコはとても歌が上手いから聞き惚れる所なのに。あの歌詞じゃなぁ……。
俺が頭を一つ振り歩き出すと、周りの奴等が寄ってきた。
「おい、トウマ。お前、ニコと仲良いだろ。あの歌を止めてくれよ」
「なんで、俺が。自分で言って来いよ」
「あんな楽しそうにしてるのに言えるかよ」
「押し付けんな。聞かなきゃいいだろ。ほら、さっさと秋祭りの準備しろよ」
「無理無理、無視できるレベルじゃないって!」
そこへ今日の助っ人の二人目が来た。
「あっ、ヴァン! いい所に来てくれた。ニコのあの変な歌を止めてくれ」
「うん? あぁ、あれか」
そう言うと、スタスタとニコに近付いていく。
「やったな。これで作業に集中できるな」
「だなっ、やっぱりヴァンは頼りになるわ」
だが、そんな奴等を尻目に俺は嫌な予感がしていた。ヴァンが話し掛けるとニコが嬉しそうに振り返る。そうして、暫く二人で話していると――。
「「ふふーん、ふほっへほほー、ひへー、ぽげー♪」」
「ぶほっ!」
またしても吹いてしまった。周りも同じ反応をしている。
まさかの二重唱かよ……。ニコもヴァンも天然だ、天然だとは思っていたが、ここまでとは。
ああ、綺麗にハモっているなぁ。なのに、この残念感……。あの歌詞が全てを台無しにしている。
「マジかよ、増えたぞ……。勘弁してくれー」
「あの二人が揃ったら、誰が止められるんだよっ」
「知るか! ヴァンって、普段が凄いしっかりしているから忘れがちだけど、ニコより天然だった……」
皆で天を仰いでいると、ミルンさんが広場にやって来た。
「皆さん、進み具合はどうですか?」
「あー、色々とありまして……」
「進んでいませんね。――おや、ニコとヴァンが来てくれていますね」
俺達の言い訳をバッサリ切ると、ミルンさんが歌をものともせず二人に近付いていく。
「勇者だ! すげぇ、ニコニコしながら近づいて行ってるぜ」
「救世主か⁉」
皆の期待を一身に背負いミルンさんが進んでいく。
「お疲れ様です。手伝いに来て頂きありがとうございます。二人共、変わった歌ですね」
「あっ、ミルンさん! こんにちはー。カハルちゃんに教えて貰ったんです」
「どうも」
相変わらずヴァンは言葉数が少なくてクールな奴だ。だけど、さっきみたいな歌も普通に歌うし、よく分からん奴だ。
まぁ、いいか。ほっとこう……。
ミルンさんが話し掛けて歌が止まった事だし、俺も屋台を作らないと。材料を運んでいると三人の会話が耳に飛び込んで来る。
「ミルンさんも歌いませんか?」
「私はニコ達のように歌が上手くありませんから、遠慮しておきます」
「歌うとスッキリする。ミルンさんもストレス発散した方がいい。眉間に皺が寄っている」
「おや、本当だ。伸ばしておかないと。よいしょ――よいしょ――。直っていますか、ヴァン?」
「ん。直った」
「知らぬ間にストレスというのは溜まっているものですね……。やはり私も久し振りに歌ってみようかと思います」
「それがいいですよ! 何を歌いますか?」
「そうですね……。では、『どんぐり拾いの歌』にします」
「いいですね! 僕もあの歌好きです」
「俺も」
そういえば、ミルンさんの歌は初めて聞くな。声量もあるし、ほんわかした優しい声だし期待大だ。