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NICO & VAN 外伝集  作者: 美音 コトハ
ルキア宰相の休日
12/22

12話

「休日とは何なのでしょうね? こんなに疲れるものでしたっけ……。あぁ、そうだ、ふふっ、そう仕事です。私を癒してくれるのは仕事しかありません。休みなんて必要ないのですよ。仕事が一番の幸せです……」

 

 自分がぼやいている事も周りの者達のギョッとした顔にも気付かぬまま、私は掃除用具を取りにトボトボと廊下を歩いて行くのだった。


「お、おい、今のぼやきを聞いたか? 相当まずい状態だぞ……」

「緊急招集を掛けるべきじゃないか?」

「そうだな。次の会合まで悠長に待っている場合じゃないな。俺、ちょうど休憩に入るから幹部達に伝えて来るよ」

「ああ、頼む」

 

 その日の夜、緊急招集を受けた愛好会のメンバーが続々と部屋に集まってくる。何故かちゃっかりとダーク様が居るのはいつもの事だ。

 

 それぞれ今日の情報を出し合い、ルキア様に何が起こったのか推測していく。そして、庭師の話になった時に場が異様な興奮に包まれた。

 

 要約するとユリア様に対して綺麗だと言ったり、熱を測ったりと天然タラシを発揮。そして、ルキア様の自虐にユリア様が思わず本音を言ってしまい、恥ずかしさのあまり逃げたと……。ユリア様が不憫過ぎて涙が出そうだ。

 

 俺達は昔からユリア様の気持ちを知っているし、ルキア様のお嫁さんにはユリア様しかいないと思っているので、このまま暖かく見守っていこうと全員が固く誓った。

 

 途中で大分話が逸れたのを何とか軌道修正し、今後の方針がダーク様の鶴の一声で決まった。


「とにかく優しくしまくれ。方法は各自に任せる。以上、解散」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 次の日、平謝りのミルンに破損した物の弁償をすると言われたが、丁重にお断りした。二人から目を離した私にも責任はあるし、ニコとヴァンが必死に片付けを手伝ってくれた上に、数え切れないほどの謝罪をくれた。そこまでされて責める気などさらさら湧かない。

 

 ただ、惜しむらくは破損した物の多くが一点ものだったという事だ。また地道に気に入る物を探すしかあるまい。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 あれから数日経ったが、私の心は凹んだままだった……。

 

 あの嵐の様な次の日から、城の者達が前にも増して優しい。お菓子をくれたり、書類を持っていれば運んでくれたり、いつでも力になりますと手を握られたり。皆に何があったのだろうか? だが、人に優しく出来るのは良い事だと納得するようにしている。

 今日も貰ったお菓子を手に廊下を歩いていると、後ろから声が掛かる。


「ルキア様、お待ち下さい」

 

 振り返るとニコとヴァンが居た。


「お忙しい所、申し訳ありません。お届け物です」

「誰からでしょう?」

「ツクシからです。これをと」

 

 ニコから手渡された歪なリボンが掛かった箱を開けると、ピカピカのどんぐりで作られたネックレスだろうか? が手紙と共に入っていた。


『ルキア様、ごめんなさい。いっぱい、いっぱい、ごめんなさい。おわびにならないかもしれないけど、僕の宝物のきれいなどんぐりでネックレスを作りました。受け取って下さい』

 

 その後に続く文章がぐしゃぐしゃとした線で消されている。目を凝らして読んでいくと――。


『もう、嫌いですか? また、会いたいです』

 

 思わず鼻の奥がツンとした。息を詰めて堪えてからヴァンを見る。


「こちらが、ヨツハからです」

 

 バラだろうか? 小さな封筒に絵が描かれている。開けてみるとチケットのような物が何枚かと手紙が入っていた。


『ルキア様、この前はごめんなさい。すごく反省しています。よかったらチケットを使って下さい。いつでも行きます。いい子にします。だから、またバラ園に連れて行って下さい。嫌わないで下さい。お願いします』

 

 所々、文字が滲んでいる。もしかして泣きながら書いたのだろうか?

 

 チケットを見てみると、掃除と肩叩きと靴磨きのチケットがそれぞれ2枚ずつ入っていた。靴磨きをしているヨツハを想像して苦笑いが浮かぶ。きっと全身を靴磨きのクリームで黒く染めている事だろう。

 まったくあの二人は……。どこまでも私の感情を揺らす。


「――二人に伝えて下さい。『私はあなた達を嫌ってはいません。しっかりと反省をしたのなら、それを次に繋げなさい。そして、勉強を頑張って時々元気な姿を見せに来なさい。それと、プレゼントをありがとうございます』と。お願いできますか?」


「はい、必ず伝えます」

 

 ニコが頼もしく頷く。


「寛大なお言葉感謝致します。改めて白族を代表し謝罪致します。数々のご無礼、大変申し訳ありませんでした。今後も、御心に沿えるよう努力して参りますので、どうか宜しくお願い致します」

 

 ヴァンが深々と礼をするのにニコも続く。ツクシとヨツハがこの二人のレベルに達するのはいつになる事やら。

 

 二人と別れ、殺風景になってしまった部屋にツクシとヨツハから貰ったプレゼントを飾る。また、こうして私のお気に入りは増えていくのだろう。

 

 暖かく膨らんだ心を抱いて、私はまた執務室へと向かった。


この12話で「ルキア宰相の休日」は終了です。ここまでお付き合い頂き、ありがとうございました。

また、本編の区切りのいい所で外伝をお届けする予定です。

本編はまだまだ続いていきますので、今後も「NICO & VAN」をよろしくお願い致します。

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