表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
NICO & VAN 外伝集  作者: 美音 コトハ
ルキア宰相の休日
11/22

11話

「――はい、畏まりました。お医者様の手配はこちらで致します」

「はい、それでお願いします。すみませんが私は少し自室に戻ります。戻って来る前にお客様がご到着された時は、対応をお願いします」

「畏まりました」

 

 メイド長に指示を出し、急いで自室まで戻る間に二人に説明する。


「二人共、聞いての通りお客様がいらっしゃる事になりました。私はその対応をする為、あなた達には私の部屋で過ごして頂きます。出来ますね?」

「「はーい!」」

 

 良い返事だが少し不安だ……。だが、ミルンの元に送る時間が無い。ここは二人を信じるしかないか。

 

 部屋に入り急いで正装に着替え、本棚に向かう。


「二人共、来なさい」

 

 不思議そうに走り寄ってくる二人に下の段を示す。


「ここには様々な図鑑が入っています。見たいものを選んで下さい」

「わーっ、いっぱい! どれにしよう……。んーと、んーと、あっ、これが見たいです!」

「ツクシは宝石図鑑ですね。ヨツハは決まりましたか?」

「えーと、この植物のとお菓子の絵が描いてあるのが見たいです」

「では、ここに置きますね。重いので気を付けて下さい。――あと、このオセロで遊んでもいいですよ」

「わーい! ヨツハ勝負するー」

「うんっ」


「ここに水があるので自由に飲んで下さい。トイレはそこの扉です。この部屋には鍵を掛けていきます。もし、誰かが訪ねて来ても出る必要はありません。何か質問はありますか?」


「いつ頃、帰ってきますかー?」

「ルキア様と一緒がいい……」


「お客様は具合が悪いようですから、長くても一時間位で戻って来られると思います。ヨツハ、初めての場所で不安でしょうが、ツクシと一緒にいい子で待っていて下さい。――そうだ、終わったら城の売店に美味しいおやつを買いに行きましょう。どうですか?」


「……分かりました」

 

 落ち込んでいるヨツハの頭を撫でていると、ツクシがちょこんと頭を差し出してくる。思わず笑いながら二人を同時に撫でる。――さて、そろそろ行かねば。


「では、行ってきますね」

「「いってらっしゃーい」」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「お待たせしました。手配をして頂きありがとうございます」

 

 笑って頷いてくれたメイド長の隣に立つと、タイミングよく馬車が到着する。

 

 青い顔をしたご婦人を支える男性と年若い女性がゆっくり降りてくる。


「宰相のルキアと申します。医師を手配しておりますので、まずはお部屋にご案内致します」

「急に押し掛ける形になってしまい申し訳ない。お願いします」

 

 頭を下げる男性を促し部屋に向かう。医師にご婦人を任せ、男性達と改めて挨拶を交わし、お茶を飲みながら旅の様子を聞く。

 

 男性は疲労の色が濃いな……。この方も診察してもらった方がいいかもしれない。そんな事を考えていると医師が戻って来た。


「妻はどうでしょうか?」

「奥様は疲れが大分溜まってしまっていますね。ですが、二、三日しっかりと休めば回復するでしょう」

「そうですか……。良かった」

「お二人も折角ですから診察して頂いては?」

 

 私の提案に女性が頷く。


「お父様も顔色があまり良くありません。お言葉に甘えて診て頂きましょう?」

「そうだな。お願いできますか?」

 

 医師は頷くと二人を連れて隣室へと向かう。見送っているとメイドが近付いてくる。


「ルキア様、ダーク様がお戻りになられました。今、こちらに向かわれています」

「そうですか。ありがとうございます」

 

 診察を終えた医師が戻って来た所でダーク様が部屋に入ってくる。


「すまん、ルキア待たせた。それで、容体は?」

「奥様は疲れ、旦那様は疲れと風邪、ご息女は問題ありません」

 

 医師の答えに頷くと隣室に向かって行く。お客様と言葉を交わす声を遠くに聞きながら、医師に夕食のアドバイスを貰う。

 ご息女と共に戻って来たダーク様に、退室を勧められたのを機にバトンタッチだ。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「お待たせしました。いい子で待って――」

 

 ガシャーン! コロコロコロ。

 

 水差しが割れ、目の前に大きな白い塊が転がって来た。呆然と見ていると元の方向へまた転がり棚にぶつかる。

 

 ドンッ! バサバサバサ――。

 

 衝撃で手紙の束が落ちて散乱する。他に視線を転じると、水浸しの床、散乱した本、転んだ椅子など自分の部屋とは思えない光景が広がっていた。そんな私の耳に声が届く。


「ルキア様は僕が好きなの!」

「違うもんっ、僕だもん!」

「ヨツハのバカー!」

「バカって言う方がバカなんだもん!」

 

 何の争いだ? 頭が理解を拒否していると、肩を叩かれる。


「ルキア、さっきはすまなかったな。こんな所で突っ立てどうしたんだ? ツクシとヨツハが会いたがっていたから、ニコとヴァンを連れて来たぞ」

 

 横に移動した私の隣にニコとヴァンを抱っこしているダーク様が立つ。


「――これは凄いな」

「わーっ! ルキア様すみませんっ、今すぐ止めさせます。――こらーっ、止めなさい!」

「すみません……。村に送り届け次第、すぐに片付けに参ります」

 

 ニコとヴァンはダーク様の腕から飛び降りると、ツクシとヨツハを引き剥がしにかかる。

 

 引き剥がされてもツクシとヨツハはジタバタと暴れながら、お互いに小さな牙を剥き出して威嚇し合っている。


「何の喧嘩をしてるの⁉」

 

 ニコが二人に問い質すと、膨れっ面をしながらヨツハが答える。


「ルキア様は僕の事がすっごい好きなのに、ツクシが違うって言うんだもん!」

「それは、こっちのセリフだよ! ヨツハのバカーっ」

「――ストップ」

 

 ヴァンが放った凍りそうに冷たい声が、更に口を開こうとするヨツハとツクシを停止させた。ニコですら恐々と顔を窺っている。


「今日は研修だったな。ルキア様にこれだけ迷惑を掛けた事、後悔させてやる。行くぞ」

「ヴァ、ヴァンちゃん待ってー! あっ、ルキア様、すぐに戻って片付けるのでお待ち下さい」

 

 ツクシとヨツハは固まったまま、怒り心頭のヴァンとペコペコ頭を下げるニコに連れて行かれた。


「モテる男はつらいな。俺も片付けを手伝ってやるから元気出せ?」

 

 ダーク様に肩をポンポンと叩かれても私の心は復活しなかった……。


次の12話で外伝「ルキア宰相の休日」は終了です。

明日、UPする予定です。

お読み頂きありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ