6-5
『いいか?
切れたノートは失敗したおまえだ。忘
れるな、これを読んでるお前は過去にもいる
たくさんのヒントと謎がここにはある
ノートを書いたのもお前で俺だ。
1日以内に脱出しなければまた繰り返す。
トビラも机も壊すな。その時お前は感想を書く。気
をつけろ。ルールを無視すれば記憶を失う。
探しだすしかない。光を。真実を。
せまい部屋の中だ。簡単だろう?』
『俺はノートの文字を読んで恐怖した。
失敗したお前。
失敗したとは脱出に失敗ということだろう。
そして何行も間を開けてまだ書いてある』
『もう認めろ。これはお前が書いたものだ。
記憶を失う前にお前もノートに書く。
つまり前のお前は失敗してるんだ。
あまりくだらないことを書くとノートは破られる。
そして部屋の復元に手間をかけさせるなよ?
そういえば箱根細工を覚えているか?』
『ノートはそこまで書いてあった。
箱根細工……
開かない引き出しは何らかの動作であくということか?
それに額の裏を調べてなぜ机やベッドの下を調べないのだろう?
俺は急いでベッドを調べなおした』
今回の〝感想〟は、明らかに今までとは違う。黒文字と赤文字が、交互に書き込まれているのだ。元々、黒文字の感想があり、その間に、赤文字が書き足されているようにも見える。
そして、大きな進展だ……まあ〝感想〟を鵜呑みにするのなら、という事だが。
「記憶を失う……!?」
やはり、俺の記憶は失われている。しかも、何度も……人為的に?
逆に考えよう。ここに書かれていることが、俺を陥れるためのウソなのだとしたら……?
「だとしたら……救いがない。という事は分かるな」
信じるしかない。この〝感想〟が真実で、謎を解く鍵だと感じた自分の直感を。でなければ、余りにも絶望的すぎる。
とにかく、文面を読んで、ヒントを見つけよう。最初の部分、黒い文字で書かれた所だが……
なんだか違和感があるな。段落がおかしいのか? まあいい。それより内容が問題だ。〝失敗する〟〝ノートを書く〟〝繰り返す〟……
次の赤い文字が、そのまま今の俺の感情だ。まさに恐怖。なぜ、失敗した俺は、ノートを書く? 〝ルール〟って何だ? 開示されていない〝ルール〟なんて、地雷原を裸足で歩かされるようなものじゃないか。
「切れたノート……」
さっき、懐中電灯に入っていた破られたノートの切れ端。あれか……?
読み進めた先に、〝くだらないこと〟を書くと〝破られる〟とある。その判定は、第3者がするのか? それとも、その続きの文章が物語っているように……
「俺が自分で部屋を復元する? ……自分で元の形に戻して、記憶を無くす?」
わけが分からない。だが、おぼろげながら、徐々に目的は分かってきた。俺は〝ルール〟に従って〝真実〟を探し出し、自分自身で行っているであろう繰り返しを、止めなければならないんだ。
だとしたら、失敗した時に切られた〝感想〟を探すのも、ルール違反なのかもしれない。
「箱根細工というのは、パズルのように組まれた木箱を、手順通りに操作して開ける、伝統工芸品だ」
……自分や、この部屋に関する記憶はないが、一般教養やそこそこの知識はある。不思議だが〝記憶喪失〟というのは、そんな物なのだろうと思うしかない。むしろ、この部屋に関する知識を引き出そうとすると……
「あっ! 痛つっ! くそっ!」
刺すような痛みだ。何なんだ! 本当にイライラする!
……この部屋の謎を、ルールに従って順番に解く。ある意味、〝箱根細工〟だな。絶対にバラバラにして、秘密を暴いてやる。
〝感想〟に書かれたように〝箱根細工〟が机の引き出しの事を指しているなら、何かが引っかかっている2段目の引き出しの事だろうか。無理にこじ開ければ〝ルール違反〟かもしれない以上、下手な手出しは出来ないな。
そして、机やベッドの下、まだまだ調べる余地はそこら中にある。そしてきっと〝切れたノート〟がまだ他にもあるはずだ。なぜなら、次のページも、その次のページも、破り取られているから。
さらに、今気づいたのだが、一番最初の〝感想〟の〝段落〟がおかしいと感じたのは、やはり気のせいではなかった。だが、わざわざこんな書き方をするという事は、破られた〝感想〟が、よほど重要だという事なんだろう。
俺は、ベッドの下を覗きこんだ。
「ふふ。ふふふ、はははは!!」
暗くて何も見えない!
ふざけるな、ゲームかよ! と、思わず笑ってしまった。
ベッドは固定されていた。しかも、床面に溶接。
……いや、違うな。このベッドの足、直接床から生えているぞ。どんだけ動かされたくないんだよ!
この〝なにか明かりを見つけなければならない〟っていう、ゲームみたいな状況は、まさに〝リアル脱出ゲーム〟だな。たぶん、そういう風に仕組まれているんだろう。だとしたら、〝ベッドの下に手を入れて探る〟は、〝ルール違反〟の可能性があるという事か? 本当に不自由の極みだ!
「やってみるか? それとも……」
そうだ。メモにはもう一箇所、書いてあった。まずはそっちだ。
俺は振り返って、机の下を見た。
「ガムテープ?」
机の下、右奥のスミに10センチぐらいの長さのガムテープが、床面に貼り付けられている。
「これを引っ剥がすのも、ルール違反……?」
いやいやいや! なんにも出来なくなっちまうだろ!
俺はガムテープを引っ剥がす。
「 → 」
……は? ……矢印?
なんだこれ?
「右? 机の一番下の引き出しを指しているのか?」
もう一度、引き出しを開ける。中身は全て、机の上に出してしまったので、もう何も入っていない。何なんだ?
……そうか、もしかして! 俺はそっと、その上の引き出しを引いてみた。
「駄目か。やっぱり何か引っかかってるな」
箱根細工のように、下を開けて上を開けるという事かと思ったが、違うようだ。俺はため息をついて、一番下の引き出しを戻そうした。
「……あった! そういう事か!」
一番下の引き出しを引く事によって、その下……床面が見えていた。紙切れがきれいに折り畳まれて、ガムテープで貼り付けられている。
「よし! 〝感想〟見つけたぞ!」