6-3
〝感想〟と書かれたノート。ひとつ捲ると、2ページ目から3ページ目の中ほどまで、文章が書かれている。気になったのは、その次のページが、破られて抜けている事。そこまで、とりあえず読んでみよう。
『誰もお前を助けてくれない
自分を助けるのはいつも自分だ
自分の心と直感を信じろ
心を落ち着かせよう、
俺は一度机まで戻り椅子に腰かける。
目を閉じて深呼吸する。
よし、
目を開けて最初に飛び込んでくるのは
やはり謎の薬だ。
薬……何かが引っかかる。
どんな薬か解らないが、
普通、薬は湿気に弱いはず、
『俺』はなぜ蓋を開けっぱなしにしたのか。
一応蓋をしておくか。
湿気といえば水だ。
俺は薬瓶からにその隣に目を移す。
綺麗な水だ。
つまり俺は記憶がない分を含めて
長い時間経過していないのだと思われる。
何らかの条件で記憶を失うのであれば
その前に食事をして、
部屋の状態を元に戻している可能性もあるが
ならば薬は一回分の二錠だけあれば
いいような気もする。
さて……次に情報を整理するならば、
ライトアップされた、"鉄塔"が写った絵葉書
ライトアップ……つまり光を当てる、
焦点を当てる、意識が向くようにしている?
考えすぎだろうか?
周波数でカギが開くとか?
以前の俺はそんなにゲーム脳な持ち主だったか?
そして鍵……今のところこれを差し込む場所は
見つからない。
ノートを読んで驚愕する。
まったく自分と同じ状況で同じ心理状態。
同じ事を俺は繰り返しているのか?
大きめの懐中電灯はやけに軽い
電池が入っていないのかもしれないな
『開けて』確認してみるか。
ほかにある情報といえば、
抽象的な風景画と、対面に、花束を持った女性の絵
配置に意味があるかもしれないし
ないのかもしれない
とりあえず
額の裏に何か隠していたりしないだろうか?
こちらのほうも〝調べて〟みるとしよう』
……これを書いたのが俺なら、薬瓶には蓋をした筈だし、懐中電灯の中身も見ただろう。もちろん、2つある額縁の裏もひっくり返して調べただろう。
「少なくとも、瓶の蓋は再び開けられ、ガウンのポケットに入っていた。
……何なんだ? これに書かれているように、自分で同じ状況を作っては、その都度、記憶を無くしているのか? それとも、複数人が同じ体験を、しているのか?」
直感。この〝感想〟こそが、真実への鍵だ。それ以外の、この部屋の他の「物」達は、胡散臭くて、嘘くさい。
「順番に、辿ってみよう」
瓶に蓋をすると、キュッという、ガラス同士が擦れる音がした。
コップの水は、綺麗だ。確かに何日も時間が経過してはいないだろう。そしてもう一つ。
「残った水の量が多すぎる」
俺が薬を2錠飲んだので、水はコップに半分ほど残っている。さっき気にせず飲んでしまったが、水は元々、並々と注がれていたぞ。……きれいな水を、誰かが足しているんだ。
「あるいは、自分で?」
少し自嘲気味に笑う。覚えていなんだから、他人が注いだのと変わらないな。
……鉄塔の絵葉書が何をあらわしているかは、今は知る術がない。周波数というキーワードは貴重だ。忘れないようにしよう。
「鍵も、鍵穴が見つかるまで保留だな」
掴んだ鍵を机の上に戻して、懐中電灯を手に取る。こういう形の電灯は、大抵、ここを捻れば開く。両手で電球と反射板のある、全面の黒い縁を握り、回す。
……っと、開いたな。
「やっぱり、電池が入っていない。軽いわけだな。それより、これは……!」
単1型電池が4本ほど入る、オーソドックスなタイプだ。本来、電池が入るはずのスペースに、綺麗に折り畳まれた紙切れが入っている。取り出すと、紙質が、〝感想〟のノートと同じ物だとわかった。そして……。
「破り取られていた〝感想〟の続きは、これみたいだな!」
さて、この紙を開いて中身を確認する前に、額縁を調べよう。
「いよいよ、ゲームっぽくなってきたな……」
2つの額縁の裏には、案の定、面白そうな物があった。さて、それを踏まえた上で、この紙には、どんな〝感想〟が書かれているのだろう。俺はそっと、折り畳まれた紙を開いた。