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以下、「感想」と書かれたノートの、1ページ目の文章だ。これを書いたのは誰だ?
……もしや、俺なのか? それとも。
『これは夢、そう悪夢という夢だ。
非常に興味深いのでここに夢の『感想』を書いておこう。
気が付いたら俺は薄汚い部屋に居た。
まるでよくある脱出ゲームのような展開。
開かないだろうとわかっちゃ居るが、
鍵があればそりゃ試してみるよな?
俺は青いさび付いた鍵を…
当然だが開かない! くそっ! 俺はドアを力任せに殴った。
くそっ!ナンなんだこの状況は!
落ち着け、くそっ!
手紙の差出人が本当に俺ならば、
過去の俺は一体なんでこんな事をしたんだ!
"メタ"いことをいうならば本当にこれはよくある脱出ゲームか何かのつもりか?
だとしたら……。
俺はもう一度テーブルに戻りアイテムを観察してみた。
まずは絵葉書。
住所も宛名も書いて居ないのに消印が押してある。
横浜中央・30・6・11
差出人郵便番号 907-1542は……
沖縄県 竹富町西表島
ゲーム的に考えるならこれは何かのパスワード?
裏面は絵葉書で電波塔……?
電波塔から連想されることといえば、ラジオ?
FMで90.7 AM1,542とか?
いや、たまたまかもしれない。
だめだ、ヒントが足りなすぎる』
脱出ゲーム?
確かに、今俺が置かれているこの状況は、一時期流行った“密室などからの脱出"を題材とした、パソコンや携帯のゲームのようではある。
聞いた話では、"リアル脱出ゲーム"などと称して、実際に閉鎖空間からの脱出を楽しむアトラクション的な物まであるとか。
……もしかして、ここもそのアトラクションなのか?
「まさかね、馬鹿馬鹿しい……」
記憶を消してまで、ゲームをさせるようなブッ飛んだ娯楽施設などは有り得ない。
……とも言い切れないのか?
もし、"この部屋からの脱出"が目的の"ゲーム"なのだとすれば、"手がかり"や"アイテム"をもっと見つけなければならないだろう。今の状況では、ノートに書かれた通り、圧倒的に"ヒント"が足りない。
記憶がない以上どうしようも無いのだ。この事態がアトラクション的な物であるかも知れないというのは、可能性のひとつとして、頭の片隅に置いておこう。
「このメモは俺の書いた物なのか?」
筆跡は……? 同じ言葉を赤鉛筆で、となりに書いてみるが、似ているとも言えるし、全く違う気もする。そりゃそうだ。となりに書いたなら、似せれば似る。
そして、絵葉書の写真や文字、数字も、何かしらのヒントに繋がるかも知れない。確かに写真の鉄塔は、単体で写っていて、送電線なども見えない。ラジオかテレビ関係の電波塔のように見える。郵便番号は、沖縄県? この"感想"の筆者は、数字を見て、即、地域を限定している。西表島は有名なので、偶然知っていたのかも知れないが……?
「他にも何か無いかな?」
机の一番下の引き出しは、先程開けた。他に引き出しは3つ。最上段、左右に2つ、右の引き出しには鍵が掛かっている。その下の引き出しは、力任せに引けば開けられそうだが、何かが引っかかっているな。
他には……。部屋を見渡した。閉ざされた窓、施錠されたドア、ベッド、壁には、抽象的な風景画と、対面に、花束を持った女性の絵。机の上には、薬瓶と水の半分ほど入ったコップ。壁は茶色いシミが所々にあり、部屋の古めかしさを強調している。
さて、どこから調べようか。
……おっと、そうだった。さっきのノートには、まだ何か書かれているかも知れない。俺は、「感想」と書かれたノートを読み進めてみる事にした。