表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Imaginary Solution  作者: 瀬名隼人
第一章 炎氷の二人
7/31

蒼の国 偽街ブレッティンガム 2

7

「此処でやろう」


 そう言ってアイが掴んでいた二の腕を離し、ミュウから距離を取って向かい合ったのは偽街ブレッティンガムの大きな通りだった。


「私が案内したのが見通しの良い広場だったのに対し、見通しは悪くいざとなったら路地にも逃げ込める大通り。真逆を選ぶとは極端でありながら悪くは無い選択ですね。少なくとも逃げ場の無いビルを選んだ貴方の付き添いの方と比べたらよっぽど」

「あいつと比べるな。虫唾が走る」


 正当に評価するミュウに対し、アイはそんな台詞を吐いた。


「あら、あれでも実力は認めているのではありませんでしたか?」

「さあ、そんなこと言ったっけな」


 おどけてみせるアイにミュウは反応を示さず、一瞬だけその場が静まり返る。


 そして、


「では、こちらから仕掛けさせてもらいます!」


 何処からともなくミュウの右手には銃が握られ、分析する間も与えずそれを発砲する。


「ショット!」


 素早くそれに反応し、銃弾を魔法で爆破するアイ。


 弾の破片だろうか、何やら異様に冷たい何かが彼女の頬を掠める。


「いきなりこれに対応するとは、なかなかやりますね」


 ようやくはっきりその目に収めることの出来たミュウの銃は、通常の拳銃より幾回りか大きいそれであり、表面は沈みかかっている太陽の光を反射させる鮮やかな水色。その銃口から昇っているのは硝煙ではなく冷気であろう。


 すなわち、


「『氷』の固有魔法……いや、違う。基礎魔法の威力を何倍にも上げて発砲する『銃』の固有魔法……?」

「その通り、ご理解が早いようで説明の手間が省けて助かります。すでに知っての通り蒼の国の特色は『超魔法』。私の固有魔法『魔法銃』はその威力をさらに底上げする、まさに戦闘に特化した魔法なのですよ」

「けっ、何が『超魔法』だよ。ただ他の国よりちょっとばかし攻撃系の基礎魔法が強いだけで調子付きやがって。つまりお前のそれはその見かけ通り魔法を前に打ち出すことにしか能の無いガラクタ。それさえ分かっているなら――――」


 ピッ、と指鉄砲でその銃を指差し


「私の『爆破』の敵じゃねえ」


 ショット、と一言唱えてミュウの持つ魔法銃を破壊した。


「……はあ、少しは頭の回る相手だと思っていたのですけどね」


 しかしミュウは一切戸惑うこともなくそんなことを言って退ける。


「はあ?」

「貴方は取り返しのつかない大きなミスを犯しました。せっかく敢えて無防備に接して私を倒すチャンスを与えたと言うのに、あろうことか得意気に爆破したのは武器のみ。そこまで正確に照準を合わせられるのなら『さっきの』私を倒すことくらい造作無かったはずなのに……。慢心しましたね、お姫様?」


 彼女の目つきが急変した。そうアイが思った時にはすでにミュウの両手に魔法銃が握られ、彼女に銃口が向けられて――――


「残念です」


 発砲。


 しかしその銃弾はアイの額に届く前に爆破される。


「言っておくが――――」


 アイも瞳の色を変えて言い放つ。


「二丁銃はお前の専売特許じゃねえんだよな、これが」


 アイが突き付けた両手は銃を意味した。


「ツイン・ショット」


 冷たく、熱い銃撃戦が幕を開ける。


「――――っ」


 ダンダンダンッ、とミュウが二つの銃から氷弾を連射し、射出された魔法の塊がアイの前額部を破壊するより先に彼女がそれらを爆破させて往なしていく。その二つの音がひたすら静かな街に反響した。


 一つ見誤れば少女の生命など簡単に吹き飛ばしかねない硬化した水を一つ一つ的確に撃ち落としながらも、アイは思案する。


「一撃が思った以上に重い。だが、私の爆破と違って一度弾のベースとなる基礎魔法を銃に装鎮しなきゃいけない分ラグが生じて、連射性能がかなり劣っている……なら」


 ぼそぼそと呟き、突破口を見い出す。


「一気に間合いを詰めれば勝てる!」


 迷っている暇など無い。即断即決、アイは地面を強く蹴ってロケットスタートを切る。


「……ふふっ」

「!?」


 しかし、考えが浅かった。


 ミュウの笑みからそのことを瞬時に悟ったアイは前へ進もうとする身体を無理矢理捻じ曲げ、即座に脇の路地へと逃げ込む。


 間一髪、アイの身体が完全に路地へと消えると同時にバラララララッ!! と先とは明らかに種類を別とする銃声が鳴り響いた。


「なっ、散弾……!?」


 受け身を取り、転がる勢いで立ち上がり後方を振り返りもしないで駆け抜ける。


 幸いにも此処は狭い路地裏、相手が散弾ならとにかく距離を取ってしまえばほとんどの弾が彼女を挟み込むようにそびえ立つ双璧によって遮られ、後は真っ直ぐこちらへ向かう数弾を撃ち落とせば攻略できるはずだ。


 疾走する両脚にブレーキを掛け、身体ごと振り返る。


 路地の入口にはミュウ。両手の銃は一丁の軽機関銃の形に変わっている。一つだけ違う点を挙げるとするならば、以前朱の国の軍学校で見かけた機関銃にはあった弾倉の部分が無い。実弾ではなく基礎魔法を装鎮する魔法銃には必要無いからだろう。言ってしまえば彼女自身があの機関銃の弾倉なのだ。


 距離は百メートル弱と言ったところか。


 視線がぶつかる。


 二人の腕が同時に上がる。


 そして、ミュウの引き金に掛かった指が引かれた。


 この連続的な発砲音を聞くのは二回目。さらにアイの予想通り彼女は弾幕を張ってきた。つまり、アイの元へ弾が届く頃にはその大多数が壁によって弾き落とされ、アイはただ正面から来る弾にだけ狙いを絞って爆破すればいい。


 勝った。


 アイは思わず笑みを浮かべ、正面から迫る氷の弾を爆破――――しなかった。


「――――!?」


 信じられない光景を目の前に、アイの笑みは顔に張り付いたまま固まる。


 思考が停止する。否、真逆だ。彼女の鍛え、磨き上げられた優秀な動体視力と判断力が頭脳を高速回転させる。


 彼女に降り掛かった銃弾は数弾どころか、ミュウが撃ち放った全弾。ただの一発も欠けることなく、全てがアイに襲い掛かってきた。


 しかも、それは正面からだけではなく、上下左右あらゆる方向から不規則に。


 結局、彼女は今度も圧倒的に考えが足りなかった。


 相手の扱う銃が一般的なそれではなく、魔人の固有魔法によって生み出された特異中の特異な物であると十二分に分かっていたのに、それでも尚常識に囚われて物事を判断しようとしてしまっていた。


 いや、分かっていなかったからこその結果であろうか。


 つまるところ、彼女は微塵も予想だにしていなかったわけだ。


 放たれた散弾が、『跳弾』であることを。


 もし、ミュウが弾幕を張らずにアイに狙いを絞って集中砲火していたら。それならまだ救いはあったのかもしれない。しかしそうではなかった。彼女は敢えて弾幕を張ることにより、不規則的且つ多角的に銃弾をアイへ浴びせようとした。そのことによりアイは全ての銃弾に対処し切れずすぐに蜂の巣へとその姿を醜く変貌させることだろう。


 だから仕方ない――――と、全てを諦め切れるほどアイは潔く無い。


 伊達に軽い挑発にすぐ乗せられてしまうほど負けず嫌いなわけではないのだ。


 どんなに絶望的な状況であろうと、突破口は必ずある。


 例えば、指鉄砲で狙う場所を左右の壁に変更し、爆破する。相手は跳弾なのだから、跳ねる場所さえ失くしてしまえばそのままアイに着弾することなく四方八方へと散らばり去ることだろう。


 だが、この方法は使えない。曲がりなりにも銃弾である。照準を変更することはおろか、腕の向きを変えている間に軽く百回以上は死ぬだろう。さらに建物の壁を一撃で破壊するだけの威力の魔法を、そうそう簡単に使えるわけでもない。正確に照準を合わせなければ自分が爆発に巻き込まれかねないからだ。たとえ蜂の巣になることを避けることが出来たとしても、それで手首が消し飛んでしまっていたら元も子も無い。


 だから、アイは狙いを変えなかった。


「ショット」


 最初の考え通り正面から迫る数弾を爆破し、さらに間髪を容れずにその中へ突っ込んで煙の中を走り抜けていく。


 目指すはミュウ。突き進むは銃弾の雨。


 右膝、左もも、左肘、右肩、頬、耳……と次々に氷の弾が彼女の肉を抉り傷から血が噴き出す。それでも致命傷を受けることは無い。


「なにっ!?」


 そこで初めてミュウが動転した。


「まさか――――弾道を逸らした……!?」


 着弾点が変えられないと言うのなら弾の跳ぶ軌道の方に変わってもらえばいい。爆風によって既定のレールから外れた弾は他の弾とぶつかり弾き合い、さらに他の弾へと連鎖を繋ぐ。そして完全とは行かないまでも銃弾の雨の中に一つの安全地帯を生み出した。


 アイはその結論を発砲から被弾まで僅か一瞬の間に導き出し、行動に移してみせたのだ。


 二人の間合いはすでに埋まっている。


「ピンポイント――――」


 アイの人差し指がミュウの首の真下、鎖骨の辺りに突き付けられる。


「……くっ!」


 それをミュウは首を思い切り横に振ることで上半身のバランスを崩し、狙いを逸らさせた。


「――――ショット!!」


 ズレた指鉄砲は彼女の右肩を吹き飛ばし、ミュウは錐揉み状に回転しながら地面へ仰向けに叩きつけられるが、致命傷は免れる。


 だがここで万策尽きた。


 ミュウが体勢を立て直す前にアイが馬乗りになり、彼女の左手首を右手で地面へ押さえつけ、左手の指鉄砲を今度は額に押し当てる。


「確実に仕留めることは出来なかったが、右肩は破壊した。左手も封じた。お前の魔法銃は使えない。チェックメイトだ」


 アイは勝利宣言する。


「……確かに右肩は外れて動かせません。でも、あれだけ破壊力を一点集中させた爆破が出来るのなら私の右腕ごと消し飛ばすことも出来たはずです。……敵に情けを掛けましたね?」

「馬鹿言うな、お前は味方だろうが。むしろあそこまで容赦なく銃弾ぶっ放すお前の方が異常なんだよ」

「ふふ……そうかもしれませんね」


 ミュウは弱々しい笑みを浮かべる。


「そういや、お前は最初闘うつもりは無かったんだったな。元はと言えばお前の弟が原因だが、巻き込んで済まなかった」

「…………」


 その言葉を受け、思わず目を見開く。


「なんでそんな意外そうな顔してんだよ」

「いや、普通に謝れるのですね……」

「私を何だと思ってる」


 アイは思わずため息を吐く。


「でも、闘うのが理由じゃなきゃ何であんな場所へ私たちを連れて行ったんだ?」

「それはラムダに頼まれたからです」

「そこに行って私達と闘うつもりだってことは言われてなかったのか?」

「言われていません」


 それが何か? と言った顔で答えるミュウ。


「じゃあ本当に理由も無くただ喧嘩に巻き込まれただけじゃねえか。お前はそれで良かったのかよ」

「良いも悪いも、私には闘う理由がありましたから」

「闘う理由?」

「ラムダに頼まれたからです」


 その答えにアイは唖然とした。


 何を言っているんだこいつは?


「本当にお前はそれで良いのかよ」

「はい?」

「それじゃただの言いなり、奴隷じゃねえか。お前の意志は何処にあるんだよ」

「ラムダの意志が私の意志です」

「ならお前は弟に『死ね』って言われたら死ぬのかよ」

「死にますよ」


 再び言葉を失うアイに、ミュウは畳み掛ける。


「笑って死にます。それがラムダの意志だと言うのなら、同時に私の意志です。あの子が望むなら、地獄の底へだって喜んで飛び込んでみせますよ」

「このブラコンが……気持ちわりい」

「何と言われようが結構です」


 ミュウは顔色一つ変えることなく言う。


 アイはこれ以上何を言っても無駄だと判断した。


「……とりあえず、行くぞ」

「行くって、何処へです?」

「だから何を言ってるんだ。最初に約束しただろ、戦闘の勝者がもう片方の勝負に加勢できるって」


 あいつの手助けなんてしたかねえけどな、とぼやくアイだったが、ミュウはそんな彼女がやはり予想もしていない事を口にした。


「勝負はまだ付いていませんよ?」

「……はあ? 何処をどう見たらそうなるんだよ。お前、この状況を覆せると?」

「当たり前です。もしかして、もう私の魔法の性質をお忘れですか?」


 アイが押さえつけた左手に、魔法銃が握られていた。


「しまっ――――」

「先ほどのチェックメイトではありませんが、肝心なところで『詰めが甘かった』ですね。クイーン」


 引き金が引かれる。


 的外れな方向へ飛んだ氷の弾は壁に当たって『跳ね返り』、王手をかけた駒へ反撃の一手を打つ。


「…………本当に、逃げるのだけはお上手なのですね」


 しかしそれで狩られるような駒でも無い。


「生憎、瞬発力には自信があってね」


 鼻先の擦過傷を気にしながらアイは答える。


 跳弾が襲い掛かる数瞬手前で咄嗟に空気を爆破させ、後方へ緊急回避を行ったのだ。最初にカイと闘った時に披露したものと同じ回避法である。


「こうなるんだったら味方とか気にせず手首を爆破させておくべきだった」

「私は最初に言ったはずですよ? 『慢心しましたね、お姫様』と」


 鈍い音を響かせながら自由になった左手で外れた右肩を嵌め直す。


「だがどうするんだ? 私はもうお前の小細工を見破った。何回やろうと結果は同じだ」

「確かにそうかもしれませんね。ならば――――」


 左手の銃を、自らのこめかみに宛てがい、


「――――銃を使うのは止めにします」


 躊躇無く、引き金を引いた。


「……っ!!」


 目の前で起きた事実に、驚愕のあまり言葉を失う。


 その目はしっかりとミュウを捉えていたはずだった。それでも気が付くと彼女の姿はおろか街の風景全てが消え去り、アイは仰向けに倒れて茜色に染まった空を見詰めていた。


 誰も居ない街に響き渡ったのは笑い声であった。


 その主はアイではなく、


「だから考えが浅いのですよ、お姫様」


 自分で自分の頭を魔法銃で撃ち抜いたはずのミュウだった。


「どういう、ことだ……」


 身体を起こして声のした方を見る。彼女はすぐ脇でアイを見下ろしていた。まるで這い蹲って蠢く虫でも見るような、前にアイがしたものと同種の目つきだった。


 やっと感覚が追いついてきたのか、今になって頬が鈍器で殴られたかのように痛む。


「二丁銃が私の専売特許ではないように、基礎魔法『回復』だって朱の国の専売特許じゃないのですよ。そして私の固有魔法『魔法銃』を本当に理解できているなら、自ずとその解は見えてくるはずです」

「まさか……『回復』によるドーピング……?」


 最初にミュウが説明した通りの性質だとするならば、固有魔法『魔法銃』とは『威力を底上げさせた基礎魔法を銃弾として発射させる』もの。この場合の『威力』がベースとなる基礎魔法の『効果』を意味しているとすれば、『回復』の効果を底上げさせた時に導き出される結論は。


「さすが、相変わらず理解が早い」


 体力を数値化すれば分かりやすいだろうか。


 体力の最大値を百とする。通常の基礎魔法『回復』が百あるうち十しか残っていない体力を再び百まで戻すものであるならば、固有魔法『魔法銃』で放たれた『回復』はそれを二百、三百と限界を超えて回復させる肉体強化の術へと変わる。


「もちろん本来あり得ない力を振るうことになるので活動限界はあります。今回の場合は三分持てば良い方でしょう。しかし、それだけあれば十分です」


 わざとらしく指の関節を鳴らしながらミュウは宣言した。


「へえ、そうかい。なら私がすべきことは一つだと言うわけだ……」


 ふらふらと立ち上がり、数歩下がって間合いを調節する。


「ほほう、それは興味深い。言っておきますが貴方の爆破、今の私には止まって見えますよ? どうするつもりなのですか」

「どうするもこうするも」


 右手を銃の形にし、前に突き出す。


「逃げるに決まってんだろ」


 空気を爆破して自身の身体を後方へ吹き飛ばした。


 さらに連続的に爆破させることで、高速で空を飛んでいく。


 残されたミュウは冷静な口調で呟いた。


「あれほどプライド高いお姫様が迷わず『逃げ』を選択するとは意外でした。まあそうさせた上で叩き潰す為に敢えて活動限界のリミットを教えた訳ですが」


 ふう、と溜め息一つ。


 直後、ミュウの姿はその場から消えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ