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Imaginary Solution  作者: 瀬名隼人
第一章 炎氷の二人
6/31

蒼の国 偽街ブレッティンガム 1

5

 蒼の国。スティグマ城。


 巨大迷路を抜けた先、海を背にした国の最奥に位置する城であり、国王『スティグマ』の居城である。


 カイ、アイ、ラムダ、ミュウの四人は謁見室に訪れていた。


「ほう、そなたが朱の国の使者のカイ、そしてアイじゃな」

「はい、国王様。この度は――――」


 カイが丁寧に挨拶の言葉を述べようとしたが、


「いい。そんなかしこまった挨拶など不要じゃ。外から来る客皆同じ事しか言わんから儂もいい加減聞き飽きたしの」


 と適当に流された。


「では、早速本題に入らせてもらいます。我が朱の国は、この長く続く戦争の原因はゴッドクリスタルであると踏み、それを現在最も危険視している翠の国より早く手に入れるため僕とアイの二人を捜索の旅に出しました。しかし、僕達二人は固有魔法こそ戦闘向きではありますが習得している基礎魔法は朱の国の特色でもある『回復』が主。冷戦とは言え第二次大戦中の世界を戦いながら渡り歩くには些かならず不安があります。そこで、朱の国と連盟を組んでいただいている貴国から、数名戦力となる人材をお借りしたく思いこの度参上しました」


 話している途中で隣に居るアイから「そうだったのか……」と声が漏れていた。どうやら知らずに此処まで来ていたらしい。その原因は話し忘れていたカイにあるのだが。


「分かっておる。すでにそなたの国の国王代理から話は聞いておるわい。いいじゃろう、そこの双子、ラムダとミュウを連れて行け。二人もそれでいいな」

「はい!」

「もちろんです」


 思っていたよりもスムーズに話が進み、安堵するカイ。


 心優しい人達で助かったと思った最中、スティグマは余計とも言える一言を発した。


「そうじゃ忘れておった。ラムダ、ミュウ。そこに居られるアイと言う少女は朱の国の王女様だ。くれぐれも粗相の無いようにな」


 刹那、場の空気が固まる。


 そして今度は、ラムダの驚きの声が城中に響き渡ることになった。



6

 蒼の国。偽街ブレッティンガム。


 侵入者を中枢まで辿りつかせないよう意図的に造り上げられた偽物の街。


 此処には住んでいる人はおろか、利用目的も無い為基本的に蒼の国の国民が立ち入ることは無い。ただ、誰の目に触れることが無いことを逆手に取り、違法な取引やホームレスなんかの温床になっているという側面を持つ。城へ向かう途中にカイ達が迷い込んだのもこの一角である。


「で、なんで私達はまたこんな誰も居ない場所に連れてこられたわけ? まさか、また迷ったなんて言わないよな」


 アイが不満を垂らす。


 時刻は逢魔時。予定では、今日のところはあのままスティグマ城に一晩泊めてもらうはずだったのだが、謁見室での一件の直後にラムダとミュウに連れられる形(今度はちゃんとミュウの先導)でカイとアイはこの街の広場らしき所に訪れた。中央に水の流れていない噴水があるだけで、見通しの良い場所だ。


「心配しなくても大丈夫ですよ。ちょっと試してみたいことがあるだけです。それが『無事』終われば、またお城へ戻ってゆっくり羽を休めて下さい」


 優しい笑顔で答えるミュウだったが、何故か『無事』の部分を強調していたのは気のせいであって欲しいと願うカイだった。


「で、早速本題なんだが」


 単刀直入にラムダは切り出す。


「お前、アイとか言ったな。お姫様だって話は本当か?」

「本当だ―――」

「本当だとも。それがどうした?」


 本人が余計なことを言わないうちに適当に話を付けてしまおうと思ったカイだったが、その願いも儚くアイに遮られてしまう。


 可能な限り彼女の記憶のことは隠しておきたい。何がきっかけで敵にその情報が渡ってしまうか分からないし、上手く突けばいくらでも捏造した情報を信じ込ませることだって可能だろう。まさに最大の弱点にだってなり得る要素なのだ。


「いや、全然想像と違うなあ、なんて」

「知るか、お前らの勝手な妄想なんて。私だって好きで国王の娘に生まれた訳じゃないし、特別な生活をしてきたわけでも無い」


 良かった。どうやら本人も記憶のことは伏せるつもりらしい。


「へえ、じゃあ別に特別強いって訳ではないのか」

「何が言いたい?」

「いいや――――」


 突如ラムダの左手から膨大な量の光が噴き出した――――否、それは光ではなく炎。背景の赤と溶け込むことなく一際存在感を放つ、荒々しい朱。


「それならちょっと退屈な勝負になりそうだな……って思っただけ」


 ニヤリ、と意地の悪そうな笑いを浮かべる。


「……調子に乗ってんじゃねえぞガキ」


 あからさまに大きい釣り針にまんまと引っ掛かった情けない王女は、カイがそんなことを思っていることなど露知らずに指鉄砲を構える。


「はいはい、ストップストップ。二人とも待って」

「邪魔すんじゃねえ」


 バン、と何故か味方のはずのアイが躊躇なく指鉄砲の照準をカイの頭部に合わせ爆破する。


 もちろん盾でそれを防ぐカイ。


「アイちゃん落ち着いて。まんまと罠に引っ掛かっているのに気付いてない?」

「は?」

「僕達はどうやって此処に来た? この二人に連れられてでしょう? そしてその目的は僕達と闘うためっていうのは会話の流れからも察せられる。つまり」


 人差し指を立ててカイは講釈する。


「此処はこの二人の縄張り。この二人にとって有利なフィールドってわけ。単純に地の利があるだけじゃなく、無数に罠が張り巡らされていると考えて良い」

「それは……」

「どう? 少しは頭が冷えた?」

「だが、あんな喧嘩売られて見す見す放っておくわけにも行かねえ。それは私の気が許さない。これから行動を共にする仲間としても、互いに力関係を明確にしないわけにはいかない」


 自分でも状況を理解しておきながら頑としてカイの言う事を聞くつもりの無いアイ。ただ単純にラムダのことが気に食わない以上にカイのことが嫌いなのだろう。


 そしてカイはそこまで考慮した上で、提案する。


「じゃあこうしよう。僕達はまだ今日出会ったばかりのコンビなのに対して、ラムダたちは双子。さっきの罠の件にしても圧倒的に僕達が不利なのは変わらない。僕だってアイちゃんの『力関係を明確にする』という意見には賛成だ。ちょうど蒼の国の兵士の実力が如何なるものか気になっていたしね。だからこそ、ここは平等に僕達にも選択肢が欲しい」

「選択肢、とは?」


 ミュウが質問する。


「それはもちろん、対戦相手と戦闘場所だよ」


 何を今更と言外にほのめかしながら。彼なりの挑発でもある。


「ふーん。俺はいいぜ。選びなよ。姉さんもそれでいいよな?」

「そもそも私は闘おうと思っていたわけではありませんが……まあいいでしょう」


 ラムダとミュウは承諾した。


「じゃあ私はもちろん――――」

「待った」


 アイがラムダを指名しようとしたところで再びカイが間に割り込む。


「彼とは僕が闘う」

「はあ? お前今までの会話ちゃんと聞いていたのか?」


 意味不明だと言わんばかりにアイが疑問を呈す。


「もちろん。だからこそ僕はラムダに興味があるんだよ。でもそれじゃあアイちゃんも納得いかないだろうから、先に戦闘を終わらせてその勝者が自分の相方に加勢できるってことでどう?」

「あのなあ――――」

「それに、アイちゃんには時計屋の借りがあったはずだよね? それとも、アイちゃんはミュウに負ける気がしているのかな?」

「……ちっ、分かったよ。好きにしろ。だが、私はさっさとこの女を片付けてすぐにお前ごとその男を潰す」

「はいはい」


 その返事を最後に、朱の二人は蒼の二人と対峙した。


「じゃあ、俺はまずお前と闘うわけだ。何処でやる? 俺は何処でもいいぜ」

「そうだね……ならあの大きなビルの最上階なんてどうかな?」


 そう言ってカイは広場の脇にそびえ立つ巨大なオフィスビルを指差す。もちろん中には人どころか机の一つも無い。


「ふーん。また不思議な場所を選ぶんだな。まあそれも面白そうだからいいけど」


 カイとラムダの二人は指定されたビルに向かって歩き出した。


 そして広場に残ったのは女子二人。


「ずいぶん甘く見られたものですね。これでもラムダに引けを取らないくらいには強さに自信があるのですが」


 明確な敵意をその瞳に宿し、ミュウが呟く。


「知らねえよ。お前が強いかどうかはお前が判断することじゃない。今から私が見定めてやるよ」


 アイも負けじと挑戦的に応じた。


「別に罠など張ってはいないのですが、どうしますか? 私達も移動しますか」

「当たり前だろ」


 アイはミュウの方へ歩いていき、乱暴に彼女の二の腕を掴んで引っ張った。


「付いてこい」

「わざわざ引かれなくても付いていきますよ。何をそんなに焦っているのですか?」

「勘違いするな。これでもあいつの実力だけは認めているんだ。この私を負かした唯一の男だしな。そしてその男が『罠が張ってあるかもしれない』って言ったんだ。なら十中八九罠が張ってあると考えるのが妥当だろ」

「そしてこうして手の届く場所に私を置いておけば、巻き添えを食らうことを恐れて張った罠も起動させられないだろうと」

「そういうことだ」

「意外と考えているのですね」

「生憎何処かの弟とは違って優秀な頭脳を持っているんでな」


 憎まれ口を叩き合いながらアイ達も広場を出た。


 そして広場には再び静寂が訪れる。

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