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Imaginary Solution  作者: 瀬名隼人
第一章 炎氷の二人
5/31

ベルウェーリウス大橋

3

 ベルウェーリウス大橋。


 朱の国と蒼の国を繋ぐその巨大な橋の前まで二人はやってきた。


「おいなんだ今の! もう一回乗ろうぜ!」

「はいはい、バスはまた今度乗りましょうねー」


 相変わらず目新しい物に対して興奮を抑えることが出来ない様子のアイに、カイもすっかり適当な返事になっていた。


「あ、そういえば聞くの忘れてたけどお前のそれ、何で買ったんだ?」


 アイはカイの左手首に巻きついている腕時計を指差した。アイがショーケースを壊した店で、修理代ついでに購入した代物だ。


「ああ、これ? もちろんあの店員さんに申し訳無いからって理由もあるんだけど。ほら、文字盤を見てよ。方位磁針が付いているでしょ? これがあれば蒼の国に入っても地図さえあれば迷わずに済む」

「へえ……思ったよりつまらない理由なんだな」

「アイちゃんの思う面白い理由ってなに……」

「変形して戦闘ロボットになるとか」

「なんで魔人の僕等が科学の力を借りるんだよ」


 そんなことを言い合いながら二人は橋を渡る。その途中、


「ちょっと待ってもらおうか」


 二人を呼び掛ける二つの影が。


「あ?」


 ちょうど橋の中央。二人の行く手を遮る形で少年と少女が立っていた。


「我が国の王から話は聞いている。お前らが朱の国からやってきた兵士のカイ、それにアイだな」


 少年の方が問いかけた。


「そうだけど、君たちは?」

「ああ、申し遅れた。これは失礼。俺達は蒼の国からお前らを我が国王の城へ案内する為遣わされた、兵士の『ラムダ』と」

「『ミュウ』です。よろしくお願いします」


 胸を張って名乗る少年に、丁寧に頭を下げる少女。少年が高身長なのに対し少女の方は十代前半なのではないかと疑ってしまうくらいの低身長な外見も手伝って、正反対な二人組だなとカイは思った。


「ていうか、早速お前の買った時計要らねえじゃん」

「あ、本当だ……」


 確かに案内人が居るなら地図は元より方位磁針の付いた腕時計も活躍する場が無い。


「ま、まあ他の国にだって行くことになるだろうし、迷わないのならそれに越したことは無いよ」

「あっそ」


 自分で話を振っておきながら適当に流すアイだったが、カイは全く気にしない。


 この二人はある意味似た者同士なのかもしれないが、恐らく彼らはそれすら気にしてないのだろう。


 二人はラムダとミュウに連れられ、蒼の国へと足を踏み入れた。



4

 四人はしばらく黙って蒼の国を歩いていた。


 入国した当初は朱の国の商業都市エリアスに負けず劣らず活気に溢れていたが、次第にひと気も減って行き、街全体の見通しも徐々に悪くなっているように感じられた。


「こんなところに城なんてあるのかよ」

「きっと蒼の国にも色々と事情があるんだよ」


 痺れを切らしたように呟くアイに、カイがフォローを入れる。


 しかし、それから一時間以上経っても城らしき建物が見えてくる事は無く、最終的には四人の足音以外何の物音も聞こえてこなくなる始末だった。


「おい、お前」


 アイが前を歩く二人に聞こえないよう、小声でカイを呼ぶ。


「何?」


 カイもそれに応じて小声で返す。


「私達……騙されてるんじゃないか?」

「どうして?」

「だって考えてもみろ。もう歩き始めてからかなり時間が経つ。それなのにそれらしい建物どころか人っ子一人見かけないのは明らかにおかしいだろ」

「もしかしたらこれにも事情が……」

「国王直々に遣われた奴等に一時間以上も歩かされ、全く辿りつかないどころかひと気の無い場所に連れられるってどんな事情だよ」

「ただ城までの距離があるだけなんじゃ……」

「だったら朱の国でそうだったみたいにバスでも何でも使えばいいじゃねえか。少なくともこの国に入ったばかりの時、私は見かけたぞ。それともあれか? 城やその付近にバス停は無いってか? 城なんて国で一番大事な場所に?」


 少しずつ声が荒立っていくアイ。きっともう一度バスに乗りたいだけなんだよなあ、とはおくびにも出さずにカイは会話を続ける。


「確かに、そう言われてみるとおかしいかも。でも、だとしたらどうするの?」

「ぶっ飛ばして事情を吐かせる」

「またそんな乱暴な……」


 しかしアイが前を歩く二人に手を上げることは無かった。


 突然ラムダと名乗った少年が立ち止まったからだ。


「まずい、今の聞かれてたか……?」


 アイは思わずうろたえる。


 しかし、彼女の予想に反し彼が口にしたのは到底信じられないような一言だった。


「……………………迷った」


 刹那、カイとアイの思考が停止する。


 そして、


「はあああああ!?」


 アイの絶叫は絶妙に誰も居ない街へ響き渡った。


「迷ったってお前、何時から!?」

「周りのひと気が少なくなってきたときから」

「最っ初じゃねえか!! まさか、此処が何処かも……?」

「分からない」

「使えねええええ!!」


 遂には頭を抱えて座り込んでしまうアイ。


「ど、どうしよう?」

「こっちが聞きてえよお……」


 若干涙目になっているラムダに、完全に泣き出してしまうアイ。


 彼女にとってこれが初めての外出ならば、無論迷子になることもこれが初めて。いくら鍛えられた兵士でも、体験したことの無い不安の前では弱気にもなるのだろう。女の子ともあれば尚更だ。


 どうしたものかとカイが苦慮していると、


「……はあ、またですか」


 と今までずっと黙っていたミュウが口を開いた。


「これで何度目だと思っているんですか。いい加減学習してください、ラムダ」

「だって姉さん……」

「姉さん!?」


 俯いていたアイが目にも止まらぬ速さで顔を上げる。あまりの驚きにすっかり涙が引いていた。


「はい。ラムダは私の双子の弟ですが、それが?」

「だって、身長だってお前の方がずっと低いし……でも言われてみれば似てる?」

「それより迷子は常習犯だったのか……」


 別段知らなくても大して困らなかった事実が発覚する中、一つ重大な問題が全く片付いていないことはカイも分かっている。


「現状は何も解決してないですけど、どうするんですかミュウさん。あまり時間を掛けても居られませんよ」

「そうかしこまらず気楽に話してもらって構いませんよ。それに、こんなこともあろうかとちゃんと地図も用意してあります」


 そう言って懐から折りたたまれた紙を取り出すミュウ。


「こうなることが予想出来ていたなら最初から使ってくださいよ……」

「弟の成長を見守るのも姉の役割ですから」


 微笑むミュウに対し、がっくりと肩を落とすカイ。


「あれ? でも城って朱の国みたいにクリスタルの近くにあるんだろ? だったら最初からクリスタルに向かって歩いて行けば迷わずに済んだんじゃねえの?」


 確かに、普通に考えればそうである。


 突如何処からともなく現れた四つのクリスタルはそれぞれ百メートル以上の高さを誇り、その国のシンボルともなっている。各国名に色の名前が使われているのも、その国のクリスタルが放つ輝きの色に起因しているからとの話だ。


 さらにそのクリスタルは魔人の誕生と同時期に出現したこともあり、『魔法の源』なのでは無いかという説が有力である。その為朱の国ではアルパの居た城と共に、国の中枢として位置づけられているのだ。


「しかしこの国は少し特殊な構造になっていまして、冷戦の影響で忍び込んできた諜報員等に城まで近づかれないよう巨大な迷路になっているのです。その為国民には必ず一人一枚この国全体の地図が配られ、バスも限られた範囲でしか走りません。どうです、ご理解頂けましたか?」


 そう言ってアイを一瞥するミュウ。


「やっぱり聞かれていたのか……」


 気まずそうに目を逸らすアイ。


「て言うか一人一枚地図を配らないといけないような場所を地図無しで通ろうとしたラムダって――――」

「馬鹿だな」

「ぐはっ」


 カイが言葉を言い終える前にしれっとアイが言い退け、ラムダの弱った心に言葉の槍が突き刺さる。


『横槍を入れる』ってこういうことを言うんだなと、カイは漠然と思った。


「さあ、現在地も分かったことですし早く先へ進みましょう」

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